なるほど、そうかも……と思いましたので、新しい記事で書かせていただきます。
辞書をざっと見たところでは、『三省堂国語辞典』第4版(1992年)の記述が最も早く、「粗熱」は新しい言い方ではないかと思わせます。「熱をくわえて調理した直後の熱。「―をとってから盛りつける」」とあります。第5版では用例が「水で―をとる」となっています。
他の辞書では、「料理で、加熱調理した物の加熱直後の熱。「粗熱をとる」」(『日本国語大辞典』第2版)、「料理で、材料を加熱した直後の熱のこと。(例)粗熱をとってからあえる。」(『小学館日本語新辞典』)とあります。
家人に「『粗熱』とは何か。『余熱』のことであるか」と聞くと、両者は違うと申します。「余熱は、なべの火をとめて、なお残っている熱であって、それを利用して調理するのである」ということです。「では、『余熱』は必要な熱か。一方『粗熱』は要らない熱のことか」となおも問いつめますと、
「そうではなく、ざっと熱を取るのです」
と申します。この証言(?)からすると、まさしく「粗」が「ざっと」に相当するわけです。
「粗(あら)」に「直後の」などの意味がないとすれば、「粗々(=ざっと)」の意味で使われていると考えたほうが自然です。
辞書の記述としては、
あら ねつ(名)〔「―を取る」の形で〕熱を加えて調理した後で、冷やす前に、熱をざっと取る。としてはどうでしょうか。
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とくにゼリーのような冷やし固めるものを作る時に、材料を小さい鍋で加熱したあと、水の入った容器に鍋ごとつけるなどして一気にある程度低い温度にすることをさしますが、あら熱をとる理由はさまざまで、沸騰した状態で入れると風味をそこなうスパイスを入れるといった理由も考えられます。
料理のレシピだけに使われる特殊な語法としては、「煮あがれば火を止め」「焼きあがれば型から外し」などの「れば」の使い方も、他の文脈ではあまり見ないように思い、だいぶ前から気になっています。
朝食のあいだくらいは敷きっぱなしにしておき、そのあいだに、一晩に吸収した湿気や粗熱をとってやるのが、ふとんを長持ちさせるコツである。
びっくりデータ情報部編『眠れぬ夜を遊ぶ本』1997年,河出書房新社
また、CPU接触面には粗熱を一時的に吸収するヒートシンクが設けられている。
http://journal.mycom.co.jp/news/2005/09/16/013.html
窓全開のまま走って粗熱を取ってから、窓を閉めてクーラーを掛ける。
http://www.carview.co.jp/community/bbs/bbs120.asp?bd=100&ct1=120&ct2=0&pgcs=1000&th=1846020&act=th
JOL社はこの広い後テーブルの前半を鋼板の冷却板にし、さらに粗熱を奪う冷却効果を高めています。
http://es-ool.wd.shopserve.jp/products/shop1/lami_jol_DIGITAL4R.html
出来上がりのトンボ玉は粗熱を取り草木灰の中へ
http://www4.ocn.ne.jp/~tonbo.s/seisaku.html
ひょっとしてイマドキのクルマは、炎天下の運転後に粗熱を取る、なんて事はしなくていいんだろうか。
http://inumaru36.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/megane6_1465.html
『改訂調理用語辞典』(社団法人全国調理師養成施設協会 編、1998年)
あらねつをとる 【荒熱を取る】
加熱調理直後の熱を冷ますこと。
とあります。
「粗熱」ではなく「荒熱」となっています。説明はこれだけ。簡単すぎ。
たまたま、『ビッグコミック・オリジナル』(9月20日号)の連載マンガのセリフにも「荒熱」がありました。
『江戸和菓子職人物語 あんどーなつ』(作:西ゆうじ、画:テリー山本)
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「お団子は上新粉に同量の水を加えて、井篭<せいろ>で40分蒸してから三割の上白糖を入れて胴搗き<どうづき>なんですね? 竹さん」
「ああ。」「ただし、搗くのは荒熱を取って70度ぐらいにしてからだ。」
「70度……」
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手もとにある料理本では、「粗熱」を2件ほど確認しました。「粗熱を取って」「粗熱が取れたら」と書いてあるだけで、理由や方法、温度などの説明はありません。
料理本に何げなく出てくる言葉も、初心者にとっては難しい専門用語です。国語辞書にも載っていない「粗熱」「ひと煮立ち」「(塩胡椒で)味を調える」等々、具体的な説明に困るような言葉が多々あります。料理のQ&Aサイトで「ガスの強火とは何度ぐらいですか」という質問がありました。そりゃ炎は千数百度ですが…。
と、ここまで書いてふと思い出した本を掘り出してきました。
『調理以前の料理の常識』(渡邊香春子、講談社、2004年)
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粗熱、余熱。同じ熱でもまったく違う
粗熱を取るとは、一度熱したものを手でさわれるくらいの温度になるまで冷ますこと。熱いままでは形がくずれやすい、手でさわって形作れない、冷たい素材と合わせたい……というようなときに、粗熱を取る必要がある。
同じ熱でも余熱は、調理後の熱。たとえばから揚げの肉は八〜九分通り火を通して揚げたあと少しおけば、肉自体の熱で中心まで火が通る。ゆでたじゃが芋やにんじんが少しかためでも、そのままおけば中まで柔らかくなる。炊き上げたご飯を蒸らすのも余熱の力。
反対に青菜はゆでたらすぐに水にとって冷まさないと、余熱で色が悪くなるので注意。
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この本はけっこう売れているらしく、最近第2弾が出ています。
「粗熱」というのは
調理を進める過程で不都合になる余分な、過度の熱
という意味ではだめでしょうか。
なぜ「粗or荒」かは、
調整前で粗っぽい、ムラがあるの意で通ると思います。
「粗熱をとる」という表現から言って
「粗」はあくまで「熱」を説明している成分なわけですから、
これを「ざっと」取る、というふうに解釈するのは無理があるように思います。
という話だけに焦点を絞った場合、
私の知る限りでは、
1984年の「会席料理」(婦人画報社)です。
卵焼きの作り方の部分に「濡れ布巾にのせて粗熱をとる」とあります。