2000年10月16日

重版出来(Yeemar)



新聞の本の広告などでよく目にする

  重版出来!!

の文字。

これを「じゅうはんでき」と読みたくなるのは私だけではないようで、二、三の研究者にお尋ねしたところ「自分は、じゅうはんでき、と読む」ということでした。

ところが、辞書では「でき」は「出来ること。」などの語釈を付けて立項はされていますが、「重版出来」に類する用例は、むしろ「しゅったい」の項で示されています。

例)
・しゅったい……(二)製品が、出来あがること。「正月号、近日中に―」(『新明解国語辞典』第5版)
・しゅったい……物ができ上がること。「新年号―」(『岩波国語辞典』第5版)

たしかに、『日本国語大辞典』によれば、江戸時代から、絵図が出来(しゅったい)したり、浮世風呂の新刊が出来(しゅったい)予定だったりしているようなので、「重版出来(しゅったい)」というのが伝統的な言い方なのかもしれません。しかし、私の感覚では、「しゅったい」では珍事や大事件が起こったような感じを受けます。

出版者の方は「しゅったい」を使っておられるのでしょうか。口頭では発音されず、文字としてのみ存在している単語のようにも思われます。スポーツ面の「中飛(センターフライ)」のごときものではないのでしょうか。



岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 2000年 10月 17日 火曜日 12:16:59)


 私は電話口で、出版社の人から「今月中にシュッタイ予定です」というようなことを言われ、すぐに「出来」が結び付かず「失態」などの言葉が頭を通り抜けた、ということがありました。若い感じの方でしたから今でも使われているのでしょう。

 一方、やはり出版社の人が「でき」と言っていたか、仮名書きで書いていたか、そういう記憶もあります。仮名書きの場合は、入力文字数が少なくてすむようにしたものを変換させずに出してしまった、ということもあると思いますが。



佐藤 さんからのコメント

( Date: 2000年 10月 17日 火曜日 14:42:55)


>私の感覚では、「しゅったい」では珍事や大事件が
>起こったような感じを受けます。

私もそういう感じを持ちます。見るたびに、すわりが悪いながら、
「でき」と思いなおすようにして読んでいました。(^^;

>口頭では発音されず、文字としてのみ存在している
>単語のようにも思われます。

そうそう。そんな感じのものだろうと思っていました。
それにしても、めずらしいr音の連声がこの語に(だけ?)残って
現在でも使われているというのは面白いですね。
(高松政雄氏のものになにか書いてありましたが……)



後藤斉 さんからのコメント

( Date: 2000年 10月 17日 火曜日 15:17:22)



>出版社の人から「今月中にシュッタイ予定です」というようなことを言われ、

>若い感じの方でしたから今でも使われているのでしょう。

「書籍流通業界ではある意味、常識の言葉である。」のよし。



[独り言]



Yeemar さんからのコメント

( Date: 2000年 10月 18日 水曜日 16:17:39)


出版界では「常識」のことばで、若い方でもお使いになるんでしたら、本に携わる人間は知っておいたほうがよい用法ということになりそうですね。しかし、私はおそらくこの字を目にするたびに、やはり頭の中では「でき」と読んでしまうようにも思います。「分かっていても、そのとおり読めないことば」とでも申しましょうか。

後藤さんご紹介のサイトの運営者が、どういう方なのか、ちょっとよく分かりません。出版関係の方なのでしょうね。



小駒勝美 さんからのコメント

( Date: 2000年 10月 25日 水曜日 14:17:56)


私は出版界に入って今年で22年になります。その間3社を渡り歩いているので
すが「重版出来」を「じゅうはんしゅったい」というのを聞いたことがありませ
ん。知人に聞いても口をそろえて「じゅうはんでき」と読むと言います。
『「出来」を「しゅったい」というのは物事が起きるときだけで、「できる」と
いう意味の時は「しゅったい」と読んではいけないのだ』
と説明してくれた人もいます。辞書に「できる」意味の「しゅったい」が載って
いることは知っていますがほんとのところはどうなのでしょうか。



岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 2000年 10月 25日 水曜日 16:10:18)


 おお、重要な証言ですね。

 私が上の方で書いたのは、重版ではなく、新刊についてでした。予算執行時期とのからみがあって、「いつ出るんですか」と聞いたら、「今月中にシュッタイとなっています」というふうに言われたのです。若い人、と書きましたが、とても若い女性でした。穿って考えれば「しゅったい」という言葉を使うのが嬉しそうにも聞こえた気がしました。



言魔 さんからのコメント

( Date: 2000年 10月 25日 水曜日 21:24:54)


数日中に出版関係の会社に行く予定がありますので、聞いてみます。
印刷業界の人って、ちょっと変わった読み方しますよね。
「個数」を「こかず」と読む場合がありますし、また、「裁断」といわずに「断裁」を
使います。最近、そんなコトバに接する機会が増え、それもまた楽し..

言葉のよろずや



たけち さんからのコメント

( Date: 2000年 10月 25日 水曜日 22:16:54)


10年以上にわたって出版業界で働いている家内に確認したところ,
やはり小駒さんの投稿にあるように,
「『じゅうはんでき』以外の呼び方は聞いた記憶がないなぁ」
とのことでした。



石ねこ さんからのコメント

( Date: 2000年 10月 25日 水曜日 23:13:48)


「出来」ですが、40年以上出版業界にいる父に尋ねたところ、「しゅつらい」と呼んでいるらしいことが判明しました。
「しゅったい」・「でき」とは読んでいなかった由。
以上ご参考まで。



Yeemar さんからのコメント

( Date: 2000年 10月 30日 月曜日 21:38:50)


 下記の「出来」を目にしましたが、これもよく分かりません。


「もう僕は沢山! 何か外に面白いものはありませんか、詩のような者は」
「詩ですか、あります、有りますもすさまじいが幼学便覧出来というのが、二三ダースあります」
 と罫紙に清書したのを四五枚出して見せたが、
「イヤ読まれちゃア困ります、一ツ二ツ僕が吟じます、さてと、どれもまずいなア、〔後略〕」

(国木田独歩「巡査」)

 文章を書くのが好きな巡査が、いろいろ草稿らしいものを出してきて見せるのです。おそらく漢詩の習作を集めて「幼学便覧出来」とタイトルを付したものかと思います。「出来・不出来」というときの「傑作」の意味の「でき」かしらんとも思いますが。

 この「巡査」という短編、「生き生きとした描写力を漱石がたたえた」そうですが、読んでももひとつピンときませんでした。



岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 2000年 10月 31日 火曜日 10:29:56)


これは『幼学便覧』を使って出来た漢詩(あるいは使ったからこそ出来た漢詩)、という意味であろうと思っておりますが、いかがでしょう。

巡査



Yeemar さんからのコメント

( Date: 2000年 10月 31日 火曜日 19:01:33)


「巡査」は、日本文学等テキストファイルにリストアップされた3作品のうちの1つでしたか。お見逸れしておりました。

> 『幼学便覧』を使って出来た漢詩(あるいは使ったからこそ出来た漢詩)

字句の由来が「幼学便覧」にあるような詩、「幼学便覧」を見ることで生まれた詩、ということですね。すると、「京出来の鉄瓶」(雪国)における「京出来」(製品の由来が京にある)と似た用法なのでしょうか。「支那出来の櫛箱」(与謝野源氏)、「大坂出来の高麗焼」(門)、「赤城出来の「背負ご」」(小僧の神様)などというのもありました。



後藤斉 さんからのコメント

( Date: 2000年 11月 01日 水曜日 17:08:01)


「しゅったい」と読むとの証言です。

http://www.kisweb.ne.jp/personal/fu-ko/200009.html
http://www.honya.co.jp/contents/knomura/history/history05.html
http://www.neoplan.co.jp/nuit/top.html

これをどう解釈するかは、また別ですが。


posted by 岡島昭浩 at 23:32| Comment(0) | TrackBack(0) | ■初代「ことば会議室」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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