2000年10月16日

来春・来夏……(Yeemar)

  来春、来夏、来秋、来冬。
  今春、今夏、今秋、今冬。
  昨春、昨夏、昨秋、昨冬。

『三省堂国語辞典』には、すべて載っています。「来春」は、ごていねいに「らいはる」の読みでも立項。「らいはる」は「日葡辞書」にもある古い言い方です。

しかし、このうち、私が口頭で音読みで用いて違和感のないものは、
  来春・今春・昨春
のみです。その他は「来年の夏」のように言わなければ会話では用いにくいように思います。「来秋」などは、うっかり使うと「来週」と思われ、無用の誤解を生みそうです。「来夏・来冬」などというのも、書記言語としてのみ存在する語ではないかと思います。

そこで、私は「らいなつ」などと言い換えてみたりするのですが、そんなものは国語辞典に載っていません。

もっとも、全部重箱読にできるかというと、それも差があるので、私の場合
  らいはる・らいなつ・らいあき・らいふゆ
            こんあき
ぐらいが限界です。

この差はどこから来るのかよく分かりません。いろいろな要素がからみあっているのでしょう。「来春」の読みが自由なのは、四季の最初であり、今年の春か来年の春かを区別する必要性が高いからでもありましょう。


後藤斉 さんからのコメント
( Date: 2000年 10月 17日 火曜日 10:20:46)

>『三省堂国語辞典』には、すべて載っています。

『新明解』(第5版)は挙げないようですね。「自明合成語」との判断なのでしょうか。

>私が口頭で音読みで用いて違和感のないものは、
>  来春・今春・昨春
>のみです。
>その他は「来年の夏」のように言わなければ会話では用いにくいように思います

『集英社国語辞典』(第2版)は、「今春」「今夏」「今秋」「今冬」「昨-」は「《文章》」という
位相表示つきで挙げています。「来春(らいしゅん)」には「《文章》」がついていません。
逆に「らいはる」は「《口頭》」の位相表示がついて「らいしゅん」に送っています。
(「来夏」「来秋」「来冬」は立項せず)
(この辞典は新語や百科項目に力を入れている感がありますが、一方で助詞助動詞の
記述や位相表示にも特徴があるように思います。)

>「来春」の読みが自由なのは、四季の最初であり、今年の春か来年の春かを区別する
>必要性が高いからでもありましょう。

「来春」は「新年」や「新年度」を意味するということでも他とは別格のように思います。


後藤斉 さんからのコメント
( Date: 2000年 10月 17日 火曜日 20:50:49)

ああ、『三省堂国語辞典』(第4版)にも位相の表示(とは呼んでいませんが)が
ありましたね。問題の語はみな「〔文〕」の表示がつけられています。

#『集英社』は、「来春」だけ扱いを変えていることに見られるように、
#位相の表示に細かな配慮をしようとしているふしがあります。
#ただし、納得できない表示付けもあるのですが。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2000年 10月 18日 水曜日 15:58:27)

『集英社』で「らいはる」が《口頭》となっているのに、『三省堂』で〔文〕となっているのはおもしろいと思います。編者により、使うか、使わないかの感覚が異なるのでしょう。

『明解国語辞典 改訂版』(106版、昭39)では、採否・位相表示の状況は

 来春(らいしゅん)・来夏(らいか)〔文〕・来秋(らいしゅう)
 来春(らいはる)
 今春(こんしゅん)・今夏(こんか)〔文〕・今秋(こんしゅう)・今冬(こんとお)
 昨春(さくしゅん)〔文〕・昨夏(さっか)〔文〕・昨秋(さくしゅう)〔文〕・昨冬(さくとお)〔文〕

のごとくで、なぜか「来冬(らいとお)」がなかったり、位相の扱いにも差があったりします。『三省堂国語』は、これらを不統一と思い、あえて統一を図ったのでしょうか(『明解』初版復刻版は今行方不明です)。

『集英社』の助詞・助動詞は、川端善明氏の面目躍如たるところだと思います。用例全般にわたり昭和期の歌謡曲がちりばめられているところは、私なぞは大喜びですが、日本音楽著作権協会に目を付けられたらどうなるのかとも思います。位相表示は中村明氏ほかが監修されたのでしょうか。


OG3 さんからのコメント
( Date: 2000年 10月 19日 木曜日 10:59:06)

素人の疑問で申し訳無いのですが,
たとえば200年10月に「来冬」と言うといつ頃のことをさすのでしょうか.
私の感覚では,次の冬は2000年12月頃から始まる気がするのですが,
それを来冬とは言いにくい気がします.
ちなみに,「新言海」(昭和34年発行,第一版第二刷)には
「来春」だけが載っているようです.


後藤斉 さんからのコメント
( Date: 2000年 10月 19日 木曜日 18:02:39)

>たとえば200年10月に「来冬」と言うといつ頃のことをさすのでしょうか.
>私の感覚では,次の冬は2000年12月頃から始まる気がするのですが,
>それを来冬とは言いにくい気がします.

ウェブ上には
秋から見て次の冬
http://www.kisnet.or.jp/~sato-iin/novel/snow-flower1.html
9月から見て次の冬 (おそらく)
http://www2.tomato.ne.jp/~kakurenb/sample.txt
のような使用例があります。

もう少し間をおいて「次の冬」を指す例が多いようです。
12月から見て翌年同時期
http://www.jomo-news.co.jp/obuchi/db/199912.htm
1月から見て次の冬
http://www.ksky.ne.jp/~yanya/TT1301.html
3月からみて次の冬
http://ne.nikkeibp.co.jp/NEWS/990302ps.html


ざっと見た感じですが、4月から見て翌年11月
http://www.hokkai.or.jp/senshin/96_4/news/area_6.html
のような「来年の冬」を指している例は、むしろ少ないように見受けます。(そのような
時間を話題にすること自体があまりないのでしょうが。)

#gooでの「来冬」の検索結果はなにやら異常であるように思えるのですが。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2000年 10月 19日 木曜日 20:16:12)

手許の国語辞典で、「来春・来夏……」などの採録状況がどのようになっているか、ちょっと調べてみました。
表が複雑になることもあり、私のホームページを久しぶりに更新しまして、文章を添えて掲載しました。
きょうのひとりごと
そこでも触れましたが、「来冬」を掲載している辞典は少数派のようです。『三省堂国語辞典』では「来年の冬。」となっています。もっとも、見坊豪紀氏は、かならずしも用例がなくても「ありうる」ものはカードに書き留めて立項したようなので、「来冬」も、必ずしも用例から帰納したのではないかもしれません。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2000年 10月 24日 火曜日 17:06:03)

 秋田に来るのが来秋だったり、春日に来るのが来春だったり(本当か?)……。これも書き言葉ではあるけれど、という点で共通しませんか?

 夏のつく地名が思い付かないけれども、「来夏、来夏のおりには、是非ライカをお持ちくださならいか? 小生のニッカを見せましょう」

 ライトウが右だというのは、一瞬分かりませんでしたが、「ロクバンー、ライトー、あきやまー」なんですね。

来沢、来広


後藤斉 さんからのコメント
( Date: 2000年 10月 24日 火曜日 21:32:49)

>秋田に来るのが来秋だったり、春日に来るのが来春だったり(本当か?)……。

「駐日ソビエト連邦ボリャンスキー大使、来秋歓迎会に県連合会で参加。」
http://www.akimedia.or.jp:80/~shorinji/walk_akita.html

秋田県連盟の歩み


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2000年 10月 25日 水曜日 21:20:39)

「ライカ」は「来廈」とすればアモイのことになりますが、来廈はないか。

手許の『コンサイス日本地名事典』では、残念ながら大きい地名としては「夏〜」というのはありませんでした。村や地区の名としてはありますが、「来〜」を使うのは大げさのようです。

温泉ならどうでしょうか。「夏油(げとう)温泉〔岩手〕」「夏瀬温泉〔秋田〕」。これはむしろ「来冬、来湯の折には」というべきかもしれません。失礼しました。


posted by 岡島昭浩 at 23:51| Comment(0) | TrackBack(0) | ■初代「ことば会議室」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック