2000年11月10日

掘った芋はどこに(深沢ともよ)

「掘った芋」のなぞを探るべくいろいろ調べものをしていて
「目についたことば」のページにたどり着きました。
今まで見た中でもっとも有用な情報が載っていて助かりました。
どうせなら、今日「英米対話捷径」を手に入れに行く前に
あのページを読んでいればよかったのですが)
(「目についたことば」は岡島さんが書かれたものと思っておりますが、いいんですよね?)

「ジョン万次郎が、英会話を教えるために「掘った芋」的な
フレーズの寄せ集め集を書いたということらしい」
というそれ自体が確かでない情報のみで、その「寄せ集め集」
とやらを探していました。

今日やっと「英米対話捷径」を手に入れましたが、そんなことは
なにも書いていないではないか!

ということで振り出しに戻ってしまいましたが、
岡島さんの情報によれば、上記のような「掘った芋」的な
用例集は存在しない、と言う風に考えてほぼ間違いないので
しょうか…。

もしその後なにかわかったことがあったら教えていただきたいとおもったのですが。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2000年 11月 10日 金曜日 20:22:05)

この「掘った芋いじるな」、私は城生佰太郎・松崎寛『日本語「らしさ」の言語学』(講談社) p.254で見ました。


 今となってはすっかり有名になったこの笑い話も、実は、おおもとの出典は、江戸末期に単身アメリカに渡って英語を体得した漁師、ジョン万次郎にまでさかのぼる。彼の書いた英語練習帳のWhat time is it now ? の傍らに、「ホッタイモイジルナ」とあるのだ。この本、単語、「男子」の項を見ると、「ボヲヤ」と出ている。おお、日本語の「坊や」と英語が同じとは、何たる偶然の一致だ、と思って今度は「女子」を見ると、「ゲロ」と書いてあったりして、おそらくgalのことなのだろうが、現代日本人の感覚からすると、こんな発音で通じていたのだろうかといぶかしく思う個所も少なくない(*8−2)。

この「(*8−2)」というのは注番号で、その注をさらに見ると

吉田正俊「女の子はゲロ」『言語』第一二巻第七巻〔ママ〕、五二ページ、大修館書店、一九八三

が挙がっています。

この「英語練習帳」を私は存じませんが、『日本語練習帳』のごとく書名でしょうか。「英米対話捷径」とは別の書でしょうか。

ちなみに、城生・松崎氏のこの本にも、「今から一〇年前のテレビ番組で見たのだが、ニューヨークの街角で、ジョン万表記の「ホッタイモイジルナ」「ヅーユースパーカエンケレセ」(Do you speak English ? 〈英語が話せますか〉)」などを、純日本式発音で道行く人に話しかけたところ、二、三度聞き返されはするものの、ほとんどすべての人に意味が理解されたのである」として、岡島さんお書きの「コミュニケーション・スペシャル」とおぼしきテレビ番組に言及してありました。

ちなみに早稲田大学蔵本2種(文庫8 C733、文庫8 C734)には「ホッタイモイジルナ」はありません。「ヅーユースパーカエンケレセ」もないようです。「キヤン ユー スパーカ ヱンケレセ」となっています。「ボヲヤ」「ゲロ」も見つかりませんでした。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2000年 11月 10日 金曜日 20:34:28)

引用訂正
 いぶかしく思う個所→いぶかしく思う箇所
 五二ページ→五二頁
 今から一〇年前→今から一〇年ほど前

失礼しました。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2000年 11月 10日 金曜日 20:45:25)

や、や。

私は「目についたことば」96.1.30 *だけ確認して上記の文章を書きましたが、97.6.3*でフォローされていて、私の発言の趣旨をまるごと含むことをお書きになっていたのですね。

空騒ぎ、おわび申し上げます。恥ずかしいことです。


OG3 さんからのコメント
( Date: 2000年 11月 13日 月曜日 15:52:05)

余談ですが.
以前,ジョン万次郎が帰国した当時,江戸で取調べた役人の一人が
津・藤堂藩の家中に送った手紙を見せてもらったことがあります.
それには次のようなことが書いてあると説明してもらいました.

万次郎は,
「coffee」は「コピ」と聞こえるが,「カヒ」と発音しないと通じない
と言った.

(あるいは,コピとカヒが反対であったかもしれませんが.)


後藤斉 さんからのコメント
( Date: 2000年 11月 13日 月曜日 17:32:35)

以下の論文がなにか参考になるかもしれませんが…

乾隆「『英米対話捷径』と『ゑんぎりしことば』の音声学的考察」
『英語英文学研究』(東京家政大学文学部英語英文学会) 1 (1995)

英語英文学研究 / 東京家政大学文学部英語英文学会 [編集] (AN10531973)


森川知史 さんからのコメント
( Date: 2000年 11月 16日 木曜日 22:41:10)

ジョン万次郎と全く関係ない話で申し訳ないんですが、「ホッタイモイジルナ」を読んで、中学生のときに習った英語の教師が言っていたことを思い出しました。
アメリカでコーヒーを注文するときには「河童の屁」(a cup of coffee)、ウィスコンシンへの切符を買うときには「上杉謙信」と言うのだ、というのです。ただ、それだけの話です。お粗末さま。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2000年 11月 16日 木曜日 23:10:13)

 如是我聞。上杉謙信はwestケンシントンのことだが、半可通が武田信玄と言って全く通じなかった、と。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2000年 11月 16日 木曜日 23:12:16)

『中濱万次郎集成』を読み返して見たのですが、新しい情報はありません。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2000年 12月 22日 金曜日 0:33:39)

ついでがあったので、マイクロフィルの初期日本英学集成の会話のところを見てみました。おおくの本は万次郎のものと同様、結構かたいカタカナ英語が書いてありますが、面白い資料もありました。明治二年の『当用英語集』というもので、

今世に行る処の英語箋、最も多し。然るに横文字本邦の仮名付は正格なれども師につき学ばざれば言を遣ひ方繁多にして通じがたき語亦多し。今纂集する処の語は繁きを厭ふ。譬ば英語に国の「コンテイリー」と仮名付けあれども「カンヅレー」と言ひ、或は紙のことを「ペープル」と仮名付けあれども言はずんは通ぜず。是皇朝にて観世音と言べきを「クワンノン」と言に同じ
とあるものです。
アイ ドン ノー
わたくし しらぬ
我ニ 知レヌ

ウワツ ユー ネム
あなたのおなはなにともふす
汝ノ 名ハ 何ト 言フ

イット ノー バイ
それは かはぬ
其レハ 買レヌ

ミー メリケン
わたくしあめりか
我レ亜米利加


という感じです。発音だけでなく、ちょっと崩れた英語ですね。でも残念なことに「掘った芋」は見つかりませんでした。

『商人独通詞』もなかなか面白い。「何日出帆 ハマニゴーノハイ」「なんでござる ワリワン」「なんぼやろ ハマチマミシヨ」「おまへどこへゆく ワリイコーノ」。
でも、「ホッタイモ」はありませんでした。

そういえば、先日、英会話教室の宣伝で「いじるな」でも「いじったな」でもない、別の形を聞きました。呆れたことに忘れてしまったのですが、どのかた覚えてらっしゃいませんか。「いじったのは」違うな。「いじってね」うーむ、思い出せません。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 10月 20日 月曜日 22:55:05)

『商人独通詞』の「日本詞で異人へ通ずるつかひよふ」も面白い。

いねといふ事 又はわるいといふ事 ヘケ
おこるとき あたまたたく ポンコツ シンジヨウ
おまへといふ事 アナタ
かねくれといふ事 壱分シンジヨウ
おまへよろしい アナタヨロシイ
あるじを ダンナ
人の女房を カミサン
わかい女を ムスメ
仕〓物よいを タイサンヨロシイ
よそへゆくを マロマロ
盗人を ドロボ
いつでもしさつを ヲハヨヲ
かいりは サイナラ


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 10月 23日 木曜日 18:14:53)

「日本詞で異人へ通ずるつかひよふ」というのは、日本人が異人に話しかけるときに、こう言えば通じやすいですよ、ということですね。

それまで、何気なく話していたのに、相手が外国人になると、とたんに、店員さんの日本語が変わってしまう。
「コレハ何デスカ」
「え。わかんないの? あ。わかんないかなあ。あの。これ。これデジカメ。これほしいの? これいいよ。新製品。ニュー。とっても便利よ。ここ。ここスイッチ。これ押す。カチャッ。パチッ。それで写る。それだけ。ね。簡単。イージー。イージーデジカメ。わかる? わかるよね」
 日本人のほうがたどたどしくなる。(金田一秀穂『新しい日本語の予習法』角川oneテーマ21 p.24)
かように現在でも「対外国人用の日本語」(簡約日本語?)は使われているようです。「富士山」を「フジヤマ」(このことばは『日本国語大辞典』になし)と言うのも、元来はそのたぐいかと思います。

金水敏氏『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』(岩波書店)には、森銑三『明治東京逸聞史』(「岡島昭浩氏のご教示による」)の「この児たいさん別嬪{べっぴん}あります」「いつでも弗{ドル}進上あります」などを含む外国人の話す「ピジン日本語」が紹介されていますが、「ピジン日本語」を元として、「対外国人日本語」ができたのでしょうか。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 10月 23日 木曜日 20:21:54)

「日本詞で異人へ通ずるつかひよふ」は、〈在日外国人に通ずる日本語(に由来する言い方)〉というような意味であろうと思うのですが、実際には外国人の使う日本語を、日本人が真似ていることになりますね。

ピジン日本語の例については、『明治東京逸聞史』よりも古い例がありました。河竹黙阿弥です。また、後ほど。

訂正
いつでもしさつを ヲハヨヲ → いつでもあいさつを ヲハヨヲ


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 10月 24日 金曜日 22:28:21)

河竹黙阿弥『月宴升毬栗』(明治5年10月初演)、黙阿弥全集第十巻より、「唐人」の言葉のみを以下に抜粋。


あなた目ない、馬鹿々々々々。

此跡よろしい家あります、大さん美しい娘さんあります。皆々それ見るあります。

あなた踊りをどるよろしい。

私利口、あなた馬鹿々々。

あなた踊るよろしい、私大さん見たい。

大さん噺し面白い。

おゝ、あります/\。

噺しするよろしい。どんちや/\とめうかんどん、ちやんきうらう/\きうらんほこりん、すいらくちうちやあらりふうらりめう、けん/\さいはいちゑすつぱあ、からころ/\ちくりんたい、ぱあぱあ。はゝゝゝゝゝ、大さん可笑い、はゝゝゝゝ

これ可笑くない、あなた馬鹿、はゝゝゝ。

あなた私噺し分りませんか。

分りませんよろしい、今の噺し私寐言。

あなた馬鹿、はゝゝ。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 11月 02日 日曜日 19:20:45)

仮名垣魯文『西洋道中膝栗毛』で

○俗間{ぞくかん}横浜語{よこはまことば}と号{とな}へ、「あなた」「おはやう」「わたくし」「たいさん」「よろしい」「まはろ/\」などいへる。こは洋人{ようじん}と贈答{ざうたう}の階梯{かいてい}にして、内外{ないぐわい}必用{ひつよう}の語なれば、本文中{ほんもんちう}専{もつぱら}に用ひたり。甘口{あまくち}なること、推{をし}て知るべし。(岩波文庫・上巻 p.237-238)
とあるのに気づき、試みに『日本国語大辞典』で「たいさん」を引くと、*歌舞伎・月宴升毬栗(1872)と並んですでに*西洋道中膝栗毛(1870-76)は挙がっていました。

ですので、改めて引用するもおこがましいのですが、異人ことばでの会話をいくつか転記します。《 》は話者に関する私の補い。弥次郎・北八・英人モテル・ざんぎりなど。

《弥》通弁がなくツちやア、あなたもおはやうも、ぢき/\も、まはろ/\も、わからねへ。(上 p.70)

《弥》彼奴{きやつ}〔モテル〕は、此地{こつち}の様子も知ツてゐるし、濱にゐたときも、港崎{なか}で毎晩まはろ/\と、きめかけて、(上 p.109)
《モ》日本、おはやう。(同)

《モ》あなた、今日、まはろ/\。どちら。私{わたくし}今ばん、パリトリツヂ{雉子}。ゴン{小銃}。ヱーム{ねらひ}。(p.145)
《北》あなた、いつしよに、ありがたう。(同)

《弥》わたくし、まことどろぼう、ない。(p.154)

《ざ》アヽ、たいさん、どりんけん。君マア、重杯{かさね}たまへ。(p.205)

《弥》ヲイ、モテルさん。亜丁娘{あでんむすめ}、助兵衛{すけべゑ}ありますか。(p.220)
《モ》むしゆめ、助{すけ}べゑ、たいさんあります。(同)
《弥》あなた、わたくし、すけべゑまはろ、まはろ。(同)
《モ》よか/\。(同)
《弥》こんぺいに 通次郎 北八、さらんぱア、ペケ/\。(同)
《モ》あなた、喰事{ちやぶ/\}ありませんか。(同)
《弥》わたくし、空腹{くうふく}あります。(同)
《モ》此{こゝ}店、甚{まこと}廉価{やすい}。(同)
《弥》よろしい/\。(同)
《弥》モシ、あなた、どろんけんありますか。わたくし、どろんけん/\。(同)
《モ》わたくし、どりんけん、たいさん、あります。(同)

《モ》ぽんころ、ペケ/\。あなた、どりんけん。まこと、わるい。カイロ邏士{〔ぼ〕(ぽ)りす}役人{やくにん}、まこと、やかましいありまス。(p.57)

「たいさん」は「たくさん」。「どり(ろ)んけん」は泥酔状態。「まはろまはろ」は上の「マロマロ」でしょうか。『日本国語大辞典』には立項せず、「まわる」の項目にもありません。意味は「よそへゆく」というよりは「(妓楼に?)宿泊する」のように文脈からは読めますが。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 11月 11日 火曜日 06:13:42)

仮名垣魯文『安愚楽鍋』三編下〔1872年刊〕(岩波文庫 1967年 p.101)にも出てきます。

〔異人〕『あなた、異人、ペケありますか。わたくし、あなた、たいさんよろしい。』ト、チヨイと私の手をにぎツたので、私{わちき}もぽつとしてしまツてサ。〔茶店女の隠食=原文旧漢字〕


道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2003年 11月 21日 金曜日 07:29:34)

バスから降りる時に言うことば、「揚げ豆腐」=「I get off」てのもありますね。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2004年 03月 10日 水曜日 10:39:37)

上の方で書いた、英会話教室の宣伝で聞いた「ほったいもいじるな」の別形は、おそらく「掘った芋いじくるな」であったろうと思います。


booko さんからのコメント
( Date: 2004年 03月 12日 金曜日 01:36:34)

本筋とはまったく関係ありませんが、私が子どものころ、「ほったいもいじくるな」という名の
アイスキャンディーがありました。
袋に芋畑とモグラの絵が描いてあったと記憶しています。
テレビでCMもしていて、「掘った芋いじ〜くる〜な〜♪」という歌もありました。
当時は「モグラが芋をいじって悪さをするんだな」と思っていましたが、What time is it now?と
かけていたんですね。気づきませんでした。


booko さんからのコメント
( Date: 2004年 03月 12日 金曜日 01:37:29)

重複により管理人削除


hiroy さんからのコメント
( Date: 2004年 03月 12日 金曜日 01:56:57)

bookoさんに便乗させて下さい。
私が「掘った芋」を始めて聞いたのは、確か「世界まるごとHOWマッチ」という番組で大橋巨泉がこの話を紹介した時だと思います。
不確かですが、「掘った芋いじくるな」であったと思います。


「耳で聞いたとおりに発音すればよいのか」


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