いわゆる「ら抜き言葉」では、「見る事が出来る」ということを「見れる」と言いますよね。これの否定形は、標準語(?関東方言)では「見れない」とやはり「ら」を抜いて言うと思います。ところが、関西では、否定形になると「ら」を抜かずに「見られへん」になる事が多いように思います。
これはなぜでしょうか?
もちろん「ら」を抜いた形の「見れへん」「見れん」などを使う人もいるのですが。
また、大阪府南部の和泉市の30代前半の男性は「見れらへん」と、一旦抜いた「ら」を「へん」の前に移動させてくっつけて言うそうです。ちなみに「できない」と言う意味の言葉は「できらへん」。音位転倒ではなさそうですが。
どなたかご教示下さいお願いします。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2001年 1月 20日 土曜日 11:02:33)
『講座方言学7 近畿地方の方言』(国書刊行会)所収、山本俊治氏の「大阪府の方言」では、打消表現の説明のところで次のようにあります(ひらがな・カタカナの別は原文のまま)。
次に打消法「動詞連用形+は+せん」が、〜やせん>〜やへんとなり、五段では行きヤヘン>行きャヘン>行かヘンとなりヘンが析出される。一方五段以外では、起きヤヘン・受けヤヘン・来{き}ヤヘン・為{し}ヤヘンのヤが前後の[i]・[e]母音に影響されてエとなり、それがさらに前の[i]・[e]と影響しあって、起ケヘン・受ケヘン・来{けー}ヘン・為{せー}ヘンとなり、これらを〜+ヘンとみるところからヘンが析出される。一方ア段接続の五段も、それに対応する可能動詞の打消形がその意味の可能面を失って(可能の打消にはもっぱら、〜レヘンが用いられる)、打消面のみが押し出された結果、五段の打消形と誤認され、五段以外のエ段接続への類推も手伝って、五段+ヘンにはア段接続、エ段接続の両形がみられるようになる。(p.213)これらを参考に、私なりにちょっとニュアンスを変えたりもしつつ、以下のように整理してみました。
- 五段動詞の否定「行カヘン」から、一段動詞の否定「起ケヘン」などの類推で否定「行ケヘン」ができた。
- 五段動詞の不可能は「行カレヘン」で、否定の「行ケヘン」と職能を分担した。可能動詞の否定「行ケヘン」は行き場がなくなった(京都方言では否定「行カヘン」のため不可能は「行ケヘン」)。
- 一方、一段動詞は、否定「起ケヘン」に対し、不可能は「起キラレヘン」となる。
- 大阪方言での「ら抜き」が進行し、本来の「起キラレル」とともに「起キレル」が勢いを得ている。その否定形は「起キレヘン」でもよいはずである(現に使う人もいる)。
- しかし、五段「行ク」の可能動詞「行ケル」―不可能「行カレヘン」の類推から、一段の場合も可能動詞「起キレル」―不可能「起キラレヘン」となった。このほうが規則的でもある。
「見れらへん」「できらへん」は初めて伺いました。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2001年 1月 20日 土曜日 11:07:52)
> このほうが規則的でもある
五段・一段の区別なく用いられるという意味で規則的ということです。可能形・不可能形の対応という点では、もちろん不規則になってしまうわけですが。