スペイン人の彼らの最初の推測としては<名字の前にあるから名「前」>なんだろう、ということですが、<日本語では名字(苗字)が名前の「前」>だと気付けば、その由来を知りたくなるのも分かります。
かつて「前」が尊敬語であったこととか、貴女の名に添える敬称であったことなどが関係しているのでしょうか?
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 2月 25日 月曜日 21:14:08)
「名前」はごくふつうに耳にすることばですが、その由来を調べようとするとむずかしいですね。
主だった国語辞典で「前」を引いても、納得のゆく説明が見当たりません。
『逆引き広辞苑』で「〜前」ということばを引いてみますと、「錠前」とか「男前」とか「腕前」とか、「名前」と同じく「なぜ『前』がつくのだろう?」と思うことばがいくつか出てきます。
意味の分からない「〜前」のつくことばのリストが増えたおかげで、かえって考察しやすくなったように思います。
ここでNHKアナウンス編『失敗しない話ことば』(KAWADE夢新書、1997)を開いてみますと、「「錠前」「男前」「江戸前」この「前」とはいったい何のこと?」というページがありまして(p.113)、「〜前」についての考察があります。杉戸清樹氏のお知恵を拝借している部分が大きいようです。
「板前」「江戸前」などは、「板の前にいる人」「江戸の前に広がる東京湾」〔江戸湾〕などのことだそうで、これはわれわれの理解している「前」の意味をそのまま用いているのでしょう。
「割り前」「分け前」「一人前」などの「〜前」は〈割り当てられたもの〉ということでしょう。
さらに、
「前」ということばは、人の前面からにじみ出てくるというところから、人間の能力や姿、形なども意味するようになった。こうして生まれたのが「男前」や「腕前」というわけである。〔略。「錠前」も〕鍵や錠をつくる職人さんの技術がことばに込められているということから「前」がついたと考えることもでき、そう考えれば「男前」「腕前」の「前」と共通することになる。とあります。
私はちょっと説明を変えて、「男前」「腕前」「錠前」の「〜前」は、〈一定の形をなしているものを表す接尾辞〉と捉えてみました。
「名前」も、同じように説明できないでしょうか。〈ある一定の形をとっている名〉のことを「名前」というのでしょう。
そんな迂遠な言い方をしなくても「名」でいいのに、なぜ「〜前」をくっつけるのか? それは、こういうことでしょう。「え(枝)」と言えばすむところをわざわざ「えだ」と言ったり、「お(尾)」と言えばいいところをことさらに「おっぽ」と言ったり、「こ(子)」で十分なのにあえて「子ども」と言ったり、「せ(背)」で問題ないのにご丁寧にも「背中」と言ったりするのと共通の心理があるのでしょう。
1拍名詞は印象が弱く聞き取りにくくもあるので、「名」の下に、意味はほとんどなきに等しい「〜前」という接尾辞をつけたのが「名前」だ、というのが真相に近かろうと思います。
ちなみに、18世紀あたりから用例があるようです(日本国語大辞典)。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 2月 25日 月曜日 21:16:55)
正誤訂正
×失敗しない話ことば ○失敗しない話しことば
天野修治 さんからのコメント
( Date: 2002年 3月 05日 火曜日 0:30:34)
(やっと会議室にアクセスできました。サーバが不調だったんですね)
Yeemar さん、興味深い情報をありがとうございます。
外国人に日本語を教えていると、思いも掛けない疑問が出されて、なかなか楽しいものです。
Yeemar さんの示された情報の中では、
<「割り前」「分け前」「一人前」などの「〜前」は〈割り当てられたもの〉>
という箇所が、最初の投稿以降、「名前」の「前」と関係あるかもしれないと、私が何となく考えていたことと一致します。
つまり、「各々に割り当てられた分の」名という意味での「名前」ではないか、と思い始めています。
<1拍名詞は印象が弱く聞き取りにくくもあるので、「名」の下に、意味はほとんどなきに等しい「〜前」という接尾辞をつけたのが「名前」だ、というのが真相に近かろうと思います。>
そういう点も確かにあるのでしょうね。しかし一方で、「歯・手・胃・目・絵・木・毛…」などの「一拍名詞」が今日でもかなり頑固に生き長らえていることを考えると、「名」の後に加えられた「前」に、何らかの意味合いを探りたくなります。
また、何かありましたら、お知らせ願います。