1997年12月22日

「タメ」の意味(情報言語学研究室(萩原 義雄))


「タメ」の意味(12/20文章)

「―おまえさあ、いくつだ」

わずかに腰を屈めて顔をのぞき込むと、べそべそと泣いていた北川は、二十三歳だと答えた。

「俺とタメかよ!」

いよいよ情けなくなって聖大は思わず背後を振り返った。宮永班長は、苦笑混じりの顔を歪めて、腕組みをしている。[毎日新聞夕刊連載本日
掲載分、乃南アサ『ボクの町』第二章4の6<73>より]

 この文脈の中で、聖大がつぶやくことば「俺とタメかよ!」の「タメ」の意味がウムーと解らない。私と同じようにいったい、なんだろと首をかし
げる御仁も多かろう。どうも若者ことばで「同い年」の意を云うようだ。「タメくち」といえば、「同年輩での会話」で、これが一級でも年上の先輩と
話す時、この「タメくち」を聞くといけないのだ。また、「タメ年」は「同年」の意だから、「おー!お前の兄ちゃん、俺とタメだ」ともいう。この「タメ」
の語源はどうも知れないのだ。ひょっとすると、動詞「溜め」かな?なんて思うのだがよく解らないのが現况である。
心当たりのある方一報をお待ちしてます。

言葉の泉>ことばの溜め池



Terry さんからのコメント

( Date: 1997年 12月 26日 金曜日 11:06:32)


言葉のよろずやTerryです。実は、気になっている言葉だったのですが、
全く語源がわかりません。よろずやでも取り上げてはみましたが...

恒例に従い(?)出身地別に身の回りでの使用状況を述べてみると何かがわかるかも。

40歳、埼玉県出身/在住の私の記憶によると、
昭和50年前後、高校時代に「タメドシ」という表現を使用していました。
昭和52年、高校卒業後、「タメ」が省略形として使用されている事例を覚えています。
「タメグチ」はそれ以降に出てきた言葉の様な気がします。



言葉のよろずや



岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 1997年 12月 30日 火曜日 10:21:36)


『こりゃ驚いてしまうまの珍タメ語辞典』(KAWADE夢文庫1994.1.5)というのがありまして、それによれば(p161)、「一九六〇年代には生粋の不良語だった」ということですが、記録がありますかね。太陽族やらみゆき族といったところでしょうか。



萩原義雄(代行) さんからのコメント

( Date: 1998年 1月 10日 土曜日 12:46:00)


森田康夫と申します。
タメの語源ですが、岡島さんの言葉の会議室で拝見したのであちらに書こうと思った
のですが、どうやってもつながらないのでこちらにメール差し上げます。
博打用語からという説があります。『談志楽屋噺(白夜書房:昭和62年)』とい
う本に出ていますから、引用しましょう。講談の神田松鯉のいれごと(ギャグ)の
説明をするくだりです。

「秀吉にねぇ、伊達政宗が初めて会った。正宗は、秀吉の顔を見ると、『おっか
あ、柿をくんねえっ』て顔してるから、正宗は小馬鹿にして、ふふんと笑った。秀
吉ぁ秀吉で、正宗を見たら、正宗は伊達百万石だが、独眼流片目だ。『なんだ、こ
れが伊達百万石の主か』と思うと、これも馬鹿にして、ふふんを笑ってたから、
オールセームだ。講釈師でも英語ぐらいは知ってんだ。わかりやすくいやあ、タ
メ、タメはねえ。」
タメってなぁバクチ用語で、同目(どうめ)のことだ。

赤字の部分が、神田松鯉のギャグ、青字は家元談志のコメントです。神田松鯉先生
は明治生まれの芸人。このあたりに源があろうかと思いますが、ここから先はなか
な難しいですね。日本国語大辞典を見ても方言大辞典を見てもとっかりがありませ
ん。個人的には、1971年(高校二年の時)、この言葉を聞いています。都内の
学校でした。『談志楽屋噺』は最近文庫になっていますから、(文春かな)立ち読
みでもどうぞ。



岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 1999年 3月 23日 火曜日 13:26:40)


 月刊言語の最新号の投稿欄にも、30年ほど前に使っていた、ということが報告されていました。



Yeemar さんからのコメント

( Date: 1999年 10月 26日 火曜日 1:18:00)


最高検察庁刑事部編著『隠語全集』(昭和27年、警務協会発
行)p.77によれば

 た   め 四    賭 博 仲 間  神戸、津、大津、
                   徳島、長野、金沢
                   松山

 た   め 四  十 不良青少年  横  浜

 ためじゆう 四 十 円 不 良 仲 間  仙  台
            与 太 者

 た め 百 四 百 円 賭   博  徳  島

   ……

 ためりよう 四  円 一   般  神  戸

とあり、「四」を示すらしい。バクチ用語の同目と関連が
あるでしょうか、ないでしょうか。



さんからのコメント

( Date: 1999年 11月 02日 火曜日 14:50:45)


梅花女子大学の米川明彦教授の文章を見つけました

読売新聞大阪



岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 1999年 11月 04日 木曜日 14:30:11)


 月刊言語の本年9月号の投稿欄に、『談志楽屋噺』を引いた投書が載っています。



Yeemar さんからのコメント

( Date: 1999年 12月 02日 木曜日 0:03:31)


古い例ではないのですが、「言語生活」290 1975.11 p.47〈ことばのくずかご〉に

一行情報
〔……〕
同等の口をきくのを、ぼくら“タメ口”というけど
 (「女性セブン」9月24日号57)

とあります。「参考」欄はなし。これが見坊氏の初見?

雑誌版「ことばのくずかご」ゆっくりゆっくり熟読中です。



岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 2001年 2月 14日 水曜日 15:30:33)


 月刊言語3月号、米川氏の文章に、『談志楽屋噺』を引くなど、タメの論あり。



かねこっち さんからのコメント

( Date: 2001年 10月 11日 木曜日 10:21:04)


岩波の大番頭小林勇の随筆につぎのような一節がありました。

  先生の将棋は、小野五平名人に教わったもので、四段であったから、かけ出しの
 私とやるときには、大駒を落とすのが当然であるが、私はいつも対馬(たいま)で
 指してくれと我儘(わがまま)をいった。

 小林勇『蝸牛庵訪問記』(1993年、講談社学術文庫)括弧内はルビ

「先生」は幸田露伴、将棋という題名のこの文は昭和9年のの出来事として登場します。

大辞林第二版
たいま 【対馬】
(1)将棋で、平手(ひらて)のこと。
(2)将棋の力が同じ程度であること。

「たいま→ため」説は苦しいでしょうか。
上記の「たいま」にしても昭和9年ですから熟成期間はじゅうぶんではないでしょうか。
ただなぜ将棋において対等の力量であることを「対馬」というのか、という疑問は残りますが。



かねこっち さんからのコメント

( Date: 2001年 10月 11日 木曜日 12:39:38)


対馬は漢和辞典(大漢語林)にも将棋の用語として項目がありました。
これ漢語ですかね。



岡島 昭浩 さんからのコメント

( Date: 2001年 10月 23日 火曜日 15:44:25)


 何も調べずに書きますが、「馬」は「駒」のことではないでしょうか。駒を対等にして指すのが「対馬」である、と。漢語、といいますか、中国将棋でも使うのか、というと、どうでしょう。漢語大詞典でも引いて見ないと行けませんね。

 「タメ」の語源としては、月刊言語1999.9の投書欄に「同目から」と考えているのよりは、ずっとありそうな気もします。その投書は「同目」を「ダウメ」としているのですが、これは間違いですから。

今日本国語大辞典の旧版を見ると、「タイマ」で対等とか言う意味の方言がありますね。ますますあやしい。
「たいま」が「目」に引かれた語源俗解で「たいめ」になったとか。「馬」の呉音メを考えるよりもそちらがありそうでしょうか。



Yeemar さんからのコメント

( Date: 2001年 10月 23日 火曜日 22:52:35)


たいまんはる

〔語源未詳〕けんかする。一対一の決闘をする意の不良用語から。
 83年版〔現代用語の基礎知識〕・キ〔キャンパス用語集 一九九六年版〕

(米川明彦『若者ことば辞典』東京堂出版 p.123)

これも何か関係があるでしょうか。



OG3 さんからのコメント

( Date: 2001年 10月 26日 金曜日 9:17:59)


「対馬」について,将棋観戦記者の東公平さんのページ(http://www.pat.hi-ho.ne.jp/~kou-higashi/bbs/index.shtml)で尋ねたところ,東さんから

対馬の由来はしりませんが、私の少年時代、神戸ではごく普通に使われていた言葉です。飛落ちや角落ちを片馬といっていました。

と教えていただきました.
私も,落語の「二人癖」で「片馬下ろしてもろてもめったに勝てん」と言うせりふを聞いたことが有ります.



かねこっち さんからのコメント

( Date: 2001年 10月 26日 金曜日 13:44:53)


昔「たいまん張る」を耳にしたとき、思い浮かんだのが麻雀の「対面」でした。
(麻雀では「トイメン」ですが同時に漢字「対面」も浮かびました)
3年ほど前、ある言葉遊びのWebページがありまして、そこの掲示板に「タメ」
という言葉について話題になりました。
そのとき小生は

 対面→たいまん→タメ

というような意見を書き込んだことがあります。
(現在その掲示板は閉鎖されてしまい、過去ログが読めないのですが)
全く根拠はありませんし、言葉の変化の順序としては少々ヘンではあります。
ただ、「対面」の正対するイメージは「一対一の決闘」に近いのでは・・(笑)

掲示板の質問者はどうやら検索でこのスレッドを見つけて、「同目」説で納得してし
まったようすでした。

「たいまんはる」も「タメ」もまあ不良仲間の言葉でしょうから、「対馬」が将棋を
はなれて不良言葉で対等をあらわす「たいまん」となり、縮まって「タメ」となる、
ということも考えられませんでしょうか。



かねこっち さんからのコメント

( Date: 2001年 10月 26日 金曜日 13:48:34)


小生は中国将棋(=象棋)には駒落ちはないと聞いていましたので、「対馬」は漢語
ではあり得ないのではないかと、思っておりました。
しかし、何人かの中国人に聞きますと、象棋にも駒を落としてハンディキャップをつ
ける方法があって盛んに行われているそうです。
「対馬」を聞いてみましたが、象棋の用語としては聞いたことがないそうです。
(聞いたのは若い中国人ですが)
ただ、象棋の駒はふつう「棋子」と呼ばれているようです。
逆に中国でも対等にたたかう場合に「平手」の文字を用いるようです。

小林勇は長野生まれで17歳で上京し、岩波書店で働き、「対馬」が登場する随筆の
当時は31歳、しかも江戸っ子の露伴先生に「対馬で指してくれ」といっているので
すから、東京でもふつうに使われていた言葉だったんでしょうね。
小生の周りの将棋を知っている男性数人に聞いて回りましたが、「対馬」という言葉
を知る人はいませんでした。
(小生も知りませんでした)



武市祥司 さんからのコメント

( Date: 2001年 10月 30日 火曜日 19:02:11)


「タイマンはる」とは,まったく別に,「〜とタメをはる」という使い方はありませんか?
「同程度の〜」「遜色ない〜」という意味で使います。

「タメどし」などはこの語からの転化ではないかと思っています。
元々は,すでにご指摘のあるようにバクチ用語からの転用
(おそらく「対面で(同じ金額を)張る」?)と思っていました。



武市祥司 さんからのコメント

( Date: 2001年 10月 30日 火曜日 19:18:08)


上の補足です。

私は「対面で(同じ金額を)張る」と思っていたのですが,
すでにご指摘のあるように,
 「同目」→「対目」→「タイメ」→「タメ」
となっていったと考えた方が,すっきりしますね。



岡島 昭浩 さんからのコメント

( Date: 2001年 11月 05日 月曜日 16:08:16)


 「どうめ」→「たいめ」には音変化としては無理があります。

「対馬」が中国にあるか、ということでは、「対」1字に「対等」の意味があるのは、中国でもそうなのか、ということを調べないといけないな、と思っているのですが。

 今、これを書き込むのは、某所で、英語sameのピジンtameから来たという、すごい説を目にして、ここのことを思い出したからです。



武市祥司 さんからのコメント

( Date: 2001年 11月 08日 木曜日 22:24:32)


岡島さんの,「どうめ」→「たいめ」には音変化としては無理がある
というご指摘はごもっともですね。説明不足でした。

「タメ」の「タ」は「対」のつまったもので「対等」の意味,
かつ,「メ」はサイコロや花札の「目」(あるいは「勝ち目」などの「目」)では
ないかと思ったわけです。

したがって,変化としては,「対目」→「タイメ」→「タメ」と考えています。

「対馬」が語源ではないかという着眼も面白いと思っておりますので,
また,何かわかりましたら,お教えください。


posted by 岡島昭浩 at 22:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ■初代「ことば会議室」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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