了しました。
この作品、「うかうかと」を「鵜化鵜化と」、「じりじり」を
「慈輪慈輪」などと、自覚的に宛字を多用しているところに特徴
があり、テーマとも結びついています。その宛字のリストアップ
はともかくとして、他の「目についたことば」を報告します。
◎同じ部首の漢字の連続
肝臓肥大で死んだのだった(p.25)
商用で上京してきた折挨拶に来たので(p.88)
糸蒟蒻の原料は蒟蒻芋だし(p.156)
咀嚼し咽喉を鳴らして嚥下し続けるのだ。(p.212)
◎副詞の呼応の問題
悪事を考える者は須く性悪説の信奉者なのだろうと思ったり
する。(p.190)
◎地口
江戸前の男前の板前に手前それが気構え腕前あたり前と身構
えられそうだが(p.112)
◎その他
生きた伊勢海老が大漁で沢山入ったからと何故か魚善が安く
で一匹売ってくれたことがあった。
*この「安くで」、辞書にないものの、東西を問わずとき
どき聞かれます。
腿肉は三分の一のみを葱間にする。白葱を挟んで串刺しにす
るのでハサミと称する焼鳥屋もあるそうだ。(p.78)
*ネギマについては以前本欄で触れられていました。
岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 1998年 2月 06日 金曜日 10:18:19)
買ってかえった日が頭痛で、寝ている隙に妻に先を越され、私はようやく昨日読み始めました。
宛字ですが、副詞の語尾の「り」を「利」であてるか、「痢」であてるかの使い分けなど見ていったら面白かろうと思いながら読んでます。面白い表現に出くわしても、手触りが良くて箱と馴染んでいる感じの本なので、頁に折り目を付けるのが憚られてしまい、いけません。
「ネギマ」は、私も記憶に留めました。
同じ部首の漢字連続、「安くで」はYeemarさんのページにありますね。「魑魅魍魎」と「執筆再開の筒井作品」ですね。
最近、asahi-netが近くなったような気がします。
→ ことばをめぐるひとりごと(Yeemarさん)
岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 1998年 2月 06日 金曜日 12:42:25)
「慈輪慈輪」はジワジワではないか、と思いましたが。
慈輪慈輪絞めていく。(p.227)
池田証寿 さんからのコメント
( Date: 1998年 2月 06日 金曜日 13:23:19)
筒井康隆の漢字の使い方は、ワープロを使うことでいちだんとすごみを
ましたかに思いますが、実証は出来てません。以前読んだ本では
「櫟」なんて難しい漢字を人名につかったりしていて実に面白い。
漢字が足りなくて小説が書けないという作家もいるらしいですが(昨日の
朝日新聞の夕刊)、少し見習ってほしいです。
まだ、購入してないのでこれから買いに走らねば。
岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 1998年 2月 06日 金曜日 23:04:07)
池田さん、書き込んで頂いて嬉しく存じます。
蘊蓄を傾けさせて頂きますと、『朝のガスパール』に出てきた、「櫟沢」という名前は、デビュー当時から使っている名でありました。
『朝ガス』では、小説中の「作者」の名として「櫟沢」が使われていたのですが、かつての使い方はペンネームでした。女性名でたしか櫟沢美和ではなかったかと。
で、私も『敵』を読了。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 1998年 2月 07日 土曜日 20:57:41)
「慈輪慈輪」は「じわじわ」でしたか。重箱読みなのですね。
そういえば、重箱読みのオノマトペがほかにもいくつかありま
した。
『朝のガスパール』(1992)の登場人物には「櫟沢(くぬぎざわ)」
とカナが振られていますね。また、筒井氏が初期に使っていた
のは、櫟沢美也(「コドモのカミサマ」NULL 6号、1962.2など)
という名であったはずです。
オノマトペの宛字については筒井康隆氏本人が
>>普通の小説の中で、慣用句となった「どきどき」「はらはら」
>>「わくわく」「いらいら」「がたぴし」などの擬態語、擬声
>>語を濫りに使うのは下品とされているが、どうしてもこの種
>>の語を入れて誰でもが容易に思い浮かべ得る感覚を表現した
>>い時がある。そういう時は辞典を利用して漢字をあてはめれ
>>ばよい。うまく行けばスマートな表現になるし、「やっぱり
>>鬼才だ」などと褒められたりもする。〔………〕やはりこう
>>いうものはぶっつながりにやっては泥臭くなり、いやらしい。
>>あくまで小説中の一カ所で、効果的に使うべきだろう。
(『虚航船団の逆襲』1984,p.60)
と語っており、参考になります。
岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 1998年 2月 09日 月曜日 11:08:13)
わあ、済みません、Yeemarさん。
和服の似合う人妻の名は「美也」でしたか。でも考えてみるとこれだったら、男性名としてでも通用しそうですね。女性だと思い込んだ小松左京氏をからかったのでしょうか。
池田証寿 さんからのコメント
( Date: 1998年 2月 09日 月曜日 14:33:08)
「櫟沢」の「櫟」は「気楽」がかけてあるかな、と思ってました。
『敵』は途中までですが、「信子」の章の「躯躯躯躯躯」は
すごいですね。
おもわず、駄文をものしてしまいました。
池田証寿 さんからのコメント
( Date: 1998年 2月 09日 月曜日 14:35:20)
あれ、駄文のURLが出ない。
http://member.nifty.ne.jp/shikeda/tti.htmlです。
岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 1998年 2月 09日 月曜日 14:55:46)
拝読しましたが、成る程。面白いです。桧桧桧桧桧。迩篭迩篭。
>あれ、駄文のURLが出ない。
ページ名を入れないと出ない仕様のようです。やや不便ですが。
いれときます。
→ 筒井康隆『敵』のJIS感字論的解読
情報言語学研究室(萩原義雄) さんからのコメント
( Date: 1998年 2月 10日 火曜日 20:50:13)
筒井康隆さんの『敵』のなかで氣になったこと。(次の3つかな?)
1、100頁の「赤緑色盲なのか頓珍漢な化粧をした老婆で」は、ちょっとおかしな表現ではないでしょうか。
だって、女性には色盲の潜在性はあってもでないのですから。
2、279頁の「初老の年齢に達してから思い返すと」とあるのですが、ここでは「初老」をいくつに設定しているのでしょうか?
国語辞典を引き、少しずつ年齢に誤差があることを考えますとふと考えてしまう表現なのです。
主人公儀助の年齢とみてとるか?です。
3、用字では、「やはり」「やっぱり」「矢っ張り」と三様あって、その使用には特別な意味があるのかなんて考えてしまいました。
番外:妙味あふれる象徴語の技巧については、「ことばの溜め池」にまとめてみましたのでご覧ください。
→ ことばの溜め池2/9
satopy さんからのコメント
( Date: 1998年 2月 11日 水曜日 16:51:22)
『日本大百科全書』によると、
赤緑色覚異常者は、日本では男性の4.5%にみられ、女性の0.2%にみられる。
とありました。
池田証寿 さんからのコメント
( Date: 1998年 2月 12日 木曜日 10:47:26)
>桧桧桧桧桧。迩篭迩篭。
いろいろ考えてみましたが、いいのが思いつかないですね。
「蚊睨豹論家」なんてのはすぐに出てくるのですが、どうも
こういうあてこすり敵表現しか思い浮かばないのは、
精神状態がよろしくないのかもしれません。
でも、とにかく『敵』はたのしめました。
情報言語学研究室(萩原義雄) さんからのコメント
( Date: 1998年 2月 12日 木曜日 13:21:35)
佐藤さん、そうですか?女性の色盲率0.4パーセントは知らなんだ。
感謝します。まんざら出鱈目じゃあないんだ。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 23日 日曜日 16:03:37)
ネギマについて、こんな文章を書いてくれた学生がいます。
〔逗子の居酒屋で「ネギ間 150」と書いたメニューを見て疑問を持ったが〕どの辞書を開いても「ねぎま」は葱と鮪の関係しか載ってないのである。では、焼き鳥の「ねぎま」はどうなのだろう。鮪を鶏肉に置き換えただけなのか、それとももしくは焼き鳥の「ねぎま」は「ねぎ間」でいいものなのか。ちなみに近くのスーパー、もしくは飲み屋の焼き鳥は「ねぎま」と表記されていた。「目についたことば」のもとの文章がたどれなくなってしまいましたが……
岡島 さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 23日 日曜日 22:03:09)
おっしゃるとおり、「目についたことば」が行方不明になっていますね。
とりあえず、朝日ネットに残っているものがありました。
→ 目についたことば
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 24日 月曜日 02:15:45)
「ねぎま」はこちらですね。
→ 目についたことば