1998年06月22日

アメリカ合衆国(武市祥司)


皆さんのお知恵を借りたいと思います。

「Unites States of America」は、通常「アメリカ合衆国」と訳されていますよね。しかし、それぞれの英単語に対応する日本語単語から素直に訳すと、「アメリカ合『州』国」となるのではないでしょうか。

どうして、『州』の字が用いられずに、『衆』が用いられているのか?

以前に、本多勝一氏などがこの問題を取り上げていたようにも記憶しているのですが、結局どういう結論だったのかを覚えておりません。

ともかく、「合『衆』国」の訳語が用いられるようになった理由をご存知の方、ご教示くださるよう願います。



岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 1998年 6月 23日 火曜日 12:53:14)


 本多勝一の『アメリカ合州国』、朝日文庫では持っているのですが、これには付録が付いておらず、「合州国」については、あとがきに簡単に「全くそのまま訳せばこうなるからです」として、「合衆国は中国語からの輸入らしく、これについては単行本の付録に専門学者の検討結果を収録してあります」。
 凡例には「合衆国が誤りだと主張するわけではありません」とあります。「専門学者の検討結果」を読んでのことでしょう。

 詳しいのは、斎藤毅『明治のことば 東から西への架け橋』(講談社1977.11.12)の第3章でしょう。
 これには「合衆」は、「衆人共同して事業を営むの意」であり、「合衆国」は「共和国」に通じることを説いています。その証拠はいろいろ挙げてあるのですが、面白いのは、幕末から明治の文献に見える、ドミニカ合衆国、スイス合衆国、「アウストラリヤの独立して合衆国となり」、フランス合衆政府、などの例でしょう。

 また斎藤氏は、stateを「州」と訳すことの不合理にも触れています。United States を直訳するならば、「連邦」となるのでありましょう。あるいは「合邦国」とでもしますか。



武市祥司 さんからのコメント

( Date: 1998年 6月 23日 火曜日 18:55:11)


なるほど、ありがとうございました。

・「合衆国」という訳語は、原義からすると誤訳とは言えない
・一時期(幕末から明治初めにかけて、英語が必要となり
それに対する訳語が考案された時期?)に使われた
「合衆国」が、慣用的に使われている

ということですね。



岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 1998年 6月 25日 木曜日 11:59:29)


 日本では、アメリカのことは「合衆国」よりも先に「共和国」とされていたようですが、中国から(あるいは中国語を操る米国人から)「合衆国」を仕入れたようです。
 条約締結の時は「合衆国」であるようです。



岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 1998年 8月 15日 土曜日 13:50:48)


 本日到着の『古書通信』に、石山洋「訳語「合衆国」論議」が載っていました。
 斎藤毅氏のものの紹介のようです。



Yeemar さんからのコメント

( Date: 2001年 9月 01日 土曜日 5:23:04)


「合州国」を使用している2人の文章を挙げます。

アメリカはステイトのユナイテッド(結合)で合衆国というより合州国であり、連邦政府と州政府との間で独立以来ずっと権限争いがつづいている。〔猪瀬直樹・ニュースの考古学〕(週刊文春 2000.01.27 p.66)

先日、久し振りに息子と電話で話した。息子はアメリカ合州国東海岸に住んでいる。〔森巣博・時のかたち〕(朝日新聞夕刊 2001.08.23 p.4)
このことばについては高島俊男『お言葉ですが… 「それはさておき」の巻』 p.16「「合衆国」とは何ぞや?」にも論があります。要旨は:
酒井直樹『死産される日本語・日本人』にしきりに「合州国」が出てくる。雑誌「諸君!」〔1996年〕8月号では、阿川尚之「アメリカは合衆国か、合州国か?」の文中に、〈本多勝一記者の主張は、その通りである〉旨が記されている。滑稽。あほらしい。アメリカを「合衆国」としたのは江戸幕府の役人。周礼「大封之礼合衆也」による。福沢諭吉は「合衆」を「民主、共和、結合」の3種の意味に用いる。「合衆国」が分かりにくいなら「アメリカ連邦」あるいは「アメリカ連邦共和国」と言えばいい。「合州国」はくだらない駄洒落。
となかなかキツい調子で書いています。

『和英語林集成』第3版(1886)には
GASSHU ガツシウ 合衆 United; confederated: ―koku, United States; ―to, federal or republican party.
とあります。「合衆」は「United」と釈されており、べつに「United People」とかいう意味ではありません。「合」の字だけを「United」と解するならば、「United States of America」は「アメリカ合州」とするか「アメリカ合国」とすべきでしょう。

「合衆国・合州国」論争は、本多勝一氏の表記から始まったと考えてよいでしょうか。そうだとすると、
  • 当の本多氏は、いったん「合州国」の表記を始めたものの、「専門学者の検討結果」によれば「合衆国」はべつだん誤りでないことを知り、トーンダウンした。表記は、元に戻すのも定見がないようなのでそれで通した。
  • ところが、著書『アメリカ合州国』が評判になったため、本多式を採用する人が増えた。「合州国」では「United States States」(?)になってしまう問題はひとまず措いた。
といったところではないでしょうか。



かねこっち さんからのコメント

( Date: 2001年 9月 01日 土曜日 16:19:29)


「合衆国・合州国」論争の元であるかどうかはわかりませんが、小田実氏も随分
昔から「合州国」を使っているように思います。
すくなくとも小生が高校生であった1972年ころには小田氏の「合州国」を目に
していました。
氏のベストセラー「何でも見てやろう」は1962年だそうですが、これに「合州国」
がみえますかどうか。もちろん、現在も氏は「合州国」を使用しています。
ベ平連などの活動の主役であり、予備校の英語の講師でもあった氏ですから、若い
世代への影響力はかなりあったと思います。

本多勝一氏の著作をめぐっては「トーンダウン」の他、版の改訂の際の自著の
「改竄」などといった批判もあるようです。
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/8442/



Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 04月 18日 木曜日 10:36:26)

マルティネ、三宅徳嘉訳『一般言語学要理』(岩波書店、1972)p.viiiの「まえがき」(原著にあるもの)に、

 この本〔『一般言語学要理』原刊本〕が1960年に公けにされてから,変換言語学ならびに生成文法という題下に知られている教説がひろまった.これは合州国でブルームフィールド流の構造主義の硬直に対する反動として現われ,機械翻訳に関する探求と連関がなくはない.
とあります。

訳者三宅氏は「合州国」の使い手のようです。1972年ですから、小田実氏に先行はしていないようですね。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 04月 18日 木曜日 10:46:16)

> 「まえがき」(原著にあるもの)

ありません。マルティネが日本語版に向けて書いた文章を三宅氏が訳したものです。



Yeemar さんからのコメント
( Date: 2004年 03月 09日 火曜日 09:29:10)

加藤秀俊「われわれはなぜ話さないか 比較コミュニケイションの立場から」『言語生活』1961.11 p.37にも。

 アメリカという国は、考えれば考えるほど不思議な国である。とにかく、民族的に、世界中のあらゆる民族が、なんとなくよせあつまってでき上がった国なのだ。本来は「合州国」〔「州」に傍点〕であるのを、いつの間にか日本人が「合衆国」〔「衆」に傍点〕というふうに書きかえてしまったのも大いに無理からぬことなのである。
以下の本文には「合州国」「合衆国」は出てこないようです。上記引用中の「よせあつまって」〔寄せ集まる〕という語も興味を引きます。


上記の例は、以前見つけてシルシをしておいたのが、未整理でほうってあったものです。どうせ、本格的に整理するのは先のことなので、この際、この前後の号の「目についたことば」からいくつか。

●『言語生活』1961.10

 関〔良一〕 中島敦は『悟浄歎異』でナカグロを使っていますね、意味の切れ目のところで

 三島〔由紀夫〕 そんな例、ありますか。ぼくのやったのでは、何か見た目がきたなくなる。

 関 透谷は黒い読点のほかに白い読点を使いましたね。

 三島 当時はいろんな試みがあったんですね、確定していなかったから。村上浪六なんか、マルを使わない。みんな点で終わる。(p.14)


 関 〔……〕『即興詩人』の訳は、漢語象嵌なんです。やまとことばのワクに、中国の俗文学の字をはめこむわけです。(p.15)


 レジャー、レジャーとしきりに言われる。初めは何語かと思ったら、どうも英語のLeisureらしい。〔久留島秀三郎(同和鉱業社長)・気に入らぬこと〕(p.62)


●『言語生活』1961.11

 尾鍋〔輝彦〕 〔……〕このごろ、いろんな一般的な歴史の本が出るですが、そのとき会話を入れるか、入れないかでいつも議論になります。(p.13)


●『言語生活』1961.12

したがって、ライバルどおしの商業主義のたたかいは、所属の編集者の意識にも反映していく。〔滑川道夫〕(p.17)


 愚妻が食料品店に行って「バターをください」というと、店員が「フレッシュですか」ときいた。「いいえ」というと、店員は「ネオですか。キンリスですか。それともギンリスにいたしますか」ときいた。「ネオをください」と愚妻が答えた。〔……〕フレッシュというのは普通のバターのこと。〔こんなことがある・東京都葛飾区・入江正夫〕(p.57)


符帳で、レの字=五千円。ホンの字=千円。キの字=九。アタリ=ご祝儀。シタバにする=自分のカカァにする。=。木表(きおもて)がええ=器量がええ。アテ木=素性良さそうでもあばれる素質の木。見てくれが悪い〔女性?〕。フレズミ(振れ墨)=気の違った人間。ホゾズケ=御飯の時。〔地方出身の大工の会話。要旨〕〔録音機・職人のことば〕(p.79−80)


●『言語生活』1962.06

「切り抜き帳」(p.31)に、「へのへのもへじ」の分布〔「朝日新聞」3月26日〕が紹介してあって、おもしろい。



masakim さんからのコメント
( Date: 2004年 03月 10日 水曜日 06:22:58)

去年の「日めくり」にも“合衆国 共同経営する国家”と題して載っていました。


 多くの州が合わさって国が出来ているのだから、「合州国」と書くべきでは、という説もある。しかし、合衆国は、合衆(協力、共同、和親)する国の意味。斎藤毅著「明治のことば」によれば、The United Statesの中国語訳で、「共同経営する国家」を表す。

 命名者は、中国語の達人だったマカオ在住のドイツ人宣教師ギュツラフら。それが幕府の外交担当者などに伝えられ、日本におけるアメリカの正式国号として定着した。

 1854年に調印された日米和親条約正文にも、既に「亜墨利加合衆国」の表記がみえる。

 ―『読売新聞』平成15(2003)年10月30日



道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2004年 03月 10日 水曜日 10:14:56)

本多勝一に『アメリカ合州国』という本がありましたね。


posted by 岡島昭浩 at 17:40| Comment(1) | TrackBack(0) | ■初代「ことば会議室」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
しゃーっしゃっしゃー
Posted by マンボー at 2011年08月14日 11:21
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