1999年05月12日

ここではきものを(Yeemar)

あいまい文の「ここではきものをぬいでください」の出典を
ご存じの方はいられませんか。

高見順の随筆だという説を見ました(大類雅敏「句読点おも
しろ事典」)が、本当でしょうか。もっと古いような気がし
ます。「東海道中膝栗毛」か何かで見た記憶もありますが、
探し出せません。鈴木棠三「ことば遊び辞典」にはありませ
んでした。別のが載っています。

いっぽう、「弁慶ガナ、ギナタヲ」の出典は国定読本かと思
いましたが、CD-ROMを検索したところでは、べつに「ガナ、
ギナタ」と行換えされている個所はないようです。

私の認識では「小学校の生徒が、教科書の『弁慶ガナ』のと
ころで改行してあるのをそのまま切って読んだ、そうしたら
友達に笑われた」というところから「なぎなた読み」といわ
れたものと思うのですが、違っていますでしょうか。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 1999年 5月 13日 木曜日 0:48:20)

 「ふたえにしてくびにまく」でしたか、これは子供の本では一休さんの話になっていたと思いますが、あてにはなりませんね。

 『日本国語大辞典』には「ぎなた読み」はあるけど「なぎなた読み」はないのですね。

なぎなた読みの部屋


言魔 さんからのコメント
( Date: 1999年 5月 13日 木曜日 16:13:42)

しろくまのページを紹介しようと思ったら...
岡島先生が既にリンクしていた...
ところで、私のところでは、「漢字都都逸」という
新企画を開始しましたが...投稿が少ないので
どなたか遊びに来ませんか..

言葉のよろずや


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 1999年 5月 15日 土曜日 23:23:02)

 「て首に」、一般的には近松ということになっているのですが、これも出典はいかに。


後藤斉 さんからのコメント
( Date: 1999年 5月 16日 日曜日 20:58:00)

>一般的には近松ということになっているのですが、これも出典はいかに。

さる方にうかがったところ、薄田泣菫の『茶話』にあったようだ、とのことでした。
勘違いの折はご容赦を。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 1999年 5月 17日 月曜日 13:48:52)

質問を申し上げっぱなしで失礼しました。

「二重にしてくびにまく」も大類氏『句読点おもしろ読本』で
紹介されていたのですが、本自体がどこかに行ってしまいまし
た。部屋が散らかっているのです。

言魔さんの「漢字都々逸」で思い出しましたが明治初期に漢語
都々逸というのがあったそうですね。今でいえば流行語都々逸
みたいなものでしょうか。覆刻本を入手しようと思っていたら、
版元が倒産してしまったようです。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 1999年 5月 25日 火曜日 15:59:37)

「て首に」
たしかに『茶話』にありました。冨山房百科文庫では454頁(中巻)。大正6年11.27の記事とのこと。
以前、「校正おそるべし」で取り上げた、大阪毎日の『校正の研究』にも紹介して有りました。

カネヲクレタノムというのの出典はいかに。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 1999年 7月 30日 金曜日 17:19:42)

「て首に」を一休としているもの。芳賀矢一・杉谷代水『作文講話及び文範』(明治45初版)。学術文庫では138頁。「仏教上の寓意がある」とのこと。「一休咄」も、どこまで遡れるものやら。


岡島 昭浩 さんからのコメント
( Date: 2001年 11月 08日 木曜日 14:44:50)

「て首に」の近松、茶話以前。
高島平三郎『逸話の泉』大正4.4.1初版(大正7.7.15の10版による)「近松門左衛門数珠屋を凹ます」(p370-371)


岡島 昭浩 さんからのコメント
( Date: 2002年 03月 11日 月曜日 16:28:03)

「て首に」の近松、『逸話の泉』以前。
岸上操『内外古今/逸話文庫 第五編』博文館 明治27.2.2
「近松門左衛門数珠屋を困らす」(p32-33)

文末に(篁園灌夫)とあり、これが情報提供者か出典であるらしい。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 11日 水曜日 19:28:16)

「ぎなた読み」に関係すると思いますので、こちらに投稿します。

これは終止形でしょうか、連体形でしょうか。

そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は

ぱつとあなたの意識を正常にした
高村光太郎のこの「レモン哀歌」を中学で習ったとき、「トパアズいろの香気がたつ。」と、そこで区切って読んでいました。「トパーズなんて宝石は見たことがないけれど、トパーズ色の香りか。いかにも詩的な表現だなあ」と思っていました。

しかし、トパーズは、ほのかな黄色のついた透明な宝石です(ほかの色のものもある)。まさに「レモン果汁」のような、淡い光を放ちます。

すると光太郎の詩は、「トパアズいろの香気」ではなく、「トパアズいろのレモンの汁」「香気が立つレモンの汁」「その数滴のレモンの汁」「天のものなるレモンの汁」というわけで、すべて「レモンの汁」にかかる連体修飾語ではないか、と思われはじめました。今の中学ではどう教えているのでしょう。

さだまさし「つゆのあとさき」では

つゆのあとさきのトパーズ色の風は
遠ざかる 君のあとをかけぬける
とあり、これは風に色がついている詩的表現と思われます。さだまさしさんは、「レモン哀歌」から発想したのでしょうか。それとも「トパーズ色」という表現は光太郎の詩以前からあったのでしょうか。


道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 12日 木曜日 07:54:54)

切っても良いのではないでしょうか。どちらの解釈も可だと思います。

さだまさしは「檸檬」という曲もあって、梶井基次郎から取ったのだと思いますが、高村光太郎も当然意識していたのではないでしょうか。「つゆのあとさき」だってタイトル、文学作品からのパクリだし。というより、文学作品のイメージを曲で表したという意味での「本歌取り」でしょうか。村上龍にも「トパース」という小説ありませんでしたかね?


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 12日 木曜日 20:16:25)

ありがとうございます。

じっと見ていると、切った方がやはり自然かな、と思われてもきました。そこで改行しているということも、切るほうに説得力を与えます。

それにしても、

「トパアズいろの香気が立つ。その数滴の天のものなるレモンの汁は」
「トパアズいろの、香気が立つその数滴の天のものなるレモンの汁は」

では、ずいぶん意味が違うわけで、詩なればこそ許される多義性、あいまい性です。

詩に句読点がないのは、多義性を生むためのくふうなのでしょうか。詩学にくらいので、わかりませんが。

「つゆのあとさき」は永井荷風ですね。そのイメージで、さだまさしさんの歌を聴くとちょっとおかしくなりそうです。


UEJ さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 13日 金曜日 13:31:04)

「香気」は厳密に言えば「よいにおい。香り。(広辞苑)」なのでしょうが、
前の文の「がりりと噛んだ」から、レモンを噛んだときに飛び散る
しぶきのことも意味しているのでは無いかと思ったりしました。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 07月 13日 日曜日 01:27:27)

三浦圭三『日本文法講話』(昭和7.2.15 啓文社)の6ページ。

時事新報(大正十二年十二月廿六日)の記事も此種の適例であらう。それは
  よみちがへ
ある日、慶用寺のお祭りにたくさん人がまゐりました。そして、廊下を通って、庭の前まで出ますと、柱に、「このさきは、きもの無用(ママ)」と書いてありました。人々はそれをよみちがへて「このさきは、きもの無用」と読んで、男も女も、着物を、ぬいで行きました云々。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 12月 24日 水曜日 17:39:26)

> 三浦圭三『日本文法講話』

スレッド標題の「ここではきものを」の古い例をお教えいただきました。ありがとうございます。お礼が遅くなりました。

「日国.NET」の「小林祥次郎の 発掘日本のことば遊び」第11回、「名歌のパロディ」に、清濁にかかわる文句の豊富な例がありました。中に句切り方に関する「ふたへにまげてくびにかけるやうなじゅず」も含まれていますが、薄田泣菫『茶話』以前の例は出ていません。


新会議室に続く

posted by 岡島昭浩 at 22:03| Comment(0) | TrackBack(1) | ■初代「ことば会議室」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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