さいわいカットバン1枚ですむけが……
というようなせりふが聞えてきました。はて「カットバン」というのは祐徳薬品の商標ではないかな、と不審に思いました。試みに「私の青空、カットバン」というキーワードでWebを検索してみたところ、このドラマでは
「千代子さん、カットバンを」
「カットバンだらけなんだ、化粧気なしで長靴履いて」
などというせりふが何度も使われているもよう。昔のNHKドラマではこういうことはありませんでした。
やはりNHKで、土曜深夜の「爆笑オンエアバトル」という番組では、漫才のねたの中で商標が続々出てきて、それがノーカットで流されています。漫才、コントという時代性を命とする芸をあつかう番組として、これは妥当な方針でしょう。
教育テレビの「ふるさと日本のことば」を見ていたら、ゲストが「ヤクルト」(2000.05)とか「東京ディズニーランド」(2001.01)とか言っていたので、おやおやと思ったこともありましたっけ。ところが、同時期に総合テレビの「クイズ日本人の質問」ではディズニーランドのことは「某テーマパーク」と言っていました(2001.01)。
これらのことに漠然と気づきはじめたのは、ほぼ2000年のことですが、そのころからNHKが方針転換をしたのかと思います。
2000.09、歌手aikoの「ボーイフレンド」という歌の中に「テトラポット」という語が出てくるので、「すわ放送禁止か」と物議をかもしました。当時の「sanspo.com」の記事(現在はNot Found)によれば、
同局広報局も「NHK全体で判断するのではなく、番組ごとに対応することになります」と柔軟姿勢も見え始めている。今後のNHKの方針を左右する可能性もあり、放送されるのか、禁止曲になるのか、注目を集めそうだ。ということです。この歌は結局、2000年末の「紅白歌合戦」で歌われました。
要するに、NHKでは、2000年ごろから、商標を放送することは必ずしも妨げないことになり、「ボーイフレンド」の一件でなおさらその方針が明らかになったということでしょうか。『NHK番組基準ハンドブック』なるものもあるそうですが、非売品であり、見られないようです。
NHKでニュース以外で商標が出てくるのは、古き良き時代が遠くなるようでさびしいものです。しかし、そのニュースでは「ギネスブック」を使わず、「世界の記録を集めた本」とか何とか言っておりますね。
UEJ さんからのコメント
( Date: 2002年 03月 28日 木曜日 04:20:47)
> 当時の「sanspo.com」の記事(現在はNot Found)
↓に引っ越してます。
→ 放送禁止?…aikoの新曲NHKで物議
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 03月 28日 木曜日 23:23:32)
UEJさん、ありがとうございます。
同記事中、山口百恵「プレイバックPartII」について、
「「真っ赤なポルシェ…」。ポルシェがドイツの自動車会社名のため、紅白に出場した際には「真っ赤な車…」と歌ったとあるのはよく知られたエピソードですが、当時(1978年)のビデオで確認してみますと、間違いなく「まっかなポルシェ」(阿木燿子の詞の表記では「真紅なポルシェ」)と歌われています。「真っ赤な車」と歌われたといううわさは、何かの間違いか、別の番組でのことだったのではないでしょうか(それは、よく知りません)。
余談ですが、歌が放送禁止の烙印を押される――事実は、制作者側の自粛にすぎない――までの過程を追ったルポルタージュとして、森達也『放送禁止歌』(解放出版社)が出色です。
この本の中で代表的な「放送禁止歌」とされている「イムジン河」(ザ・フォーク・クルセダーズ)は、NHKでは1994.08.20「日本フォークソング大全集」で、また、「竹田の子守唄」(赤い鳥)は1997.08.25「ふたりのビッグショー」で歌われています。こういったところには、NHKの主体性を感じます。
道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2002年 03月 29日 金曜日 04:05:55)
「真っ赤なポルシェ」の件、先日、NHK放送文化研究所の方に確認しました。「真っ赤な車」と歌ったのは、紅白ではなく、その前の何か別のNHKの歌番組だったということです。
「放送禁止歌」は、本が出るより前に、フジテレビのドキュメンタリー枠で放送されています。3年ぐらい前だと思います。
岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2002年 04月 02日 火曜日 21:49:16)
「古きよき時代」の証言として、小林信彦『パパは神様じゃない』第七章「年年歳歳」(ちくま文庫で101頁)より。
たとえば、ショウ番組に、赤塚不二夫が出てくると、司会者が「文春の漫画賞、おめでとう」などと言う。
これはNHK国内番組基準の第十一項〈広告〉の、〈特定の団体名または個人名〉という禁止項目に該当する。これは、正しくは、
「某出版社の漫画賞、おめでとうございます」
と言わなければいけないのである。
私は、いやみを言っているのではない。NHKでは〈セロ・テープ〉と言ってもいけないのである。(注意されたのは、十年前の私で、セロ・テープが商品名であることも知らなかったのだ。それじゃ、なんと言えばいいのですか、と私が訊くと、先方も、さて……と考え込んだ。)
「ミステリマガジン」一九七二年八月号から七三年一二月号にかけて連載され、1973.12.5、晶文社より刊行。ちくま文庫1991.12.4による。
セロテープはセロハンテープということでしたね、たしか。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 04月 02日 火曜日 22:36:34)
これを見ればいいのでしたか。
第12項 広告制定が昭和34年7月21日、改正が平成7年9月26日・平成10年5月26日ですから、改正までにずいぶん時間がかかっています。
1 営業広告または売名的宣伝を目的とする放送は、いっさい行わない。
2 放送中に、特定の団体名または個人名あるいは職業、商号および商品名が含まれる場合は、それが、その放送の本質的要素であるかどうか、または演出上やむをえないものかどうかを公正に判断して、その取り扱いを決定する。
「広告」に関しては、文言が変わっているのかどうかよく分かりませんが、平成7年(1995年)の改正ではサブリミナル禁止や方言使用の緩和などが、また、平成10年(1998年)ではアニメーションの映像手法についての定めが加わったようです。
→ 国内番組基準(NHK)
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 07月 09日 火曜日 19:11:06)
2002.07.09 NHKの「首都圏ネットワーク」の中で、「丈の高い七夕飾り」を作った人々のニュースを伝えた滝島雅子アナウンサーが、
〈世界の記録を集めたあの本への登録を申請することも考えているそうです〉
というような(細部不明)、まとめの文章を読みました。
「あの本」とはまた淫靡な響きではありませんか。ニュースらしからぬ、思わせぶりで隔靴掻痒の表現です。「ギネスブック」がまずいのであれば、NHKで適当な言い換え語を作ってはいかが。
「世界の記録を集めた本」が一語性に欠けるのであれば、「世界の記録本」はいかがでしょうか。
道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2002年 07月 10日 水曜日 10:42:07)
あ、あの本って・・・・アノ本ですよね。エヘヘ。
「ギネスブック」が使えないのなら、この文章(ギネスへ申請するという情報)そのものをカットすべきではないでしょうか。
「コンピューターで本物のように動く犬のロボットや、歩きながらヘッドホンで音楽などを聴ける器具を開発した、あの会社」
(=SONY)
「フランスからやってきて、見事会社の建て直しを図った、お寺の鐘の音にも似た名前の、あの社長」(=日産・カルロス・ゴーン社長)
とか、クイズとしては面白いので、NHKさんも、そのニュース原稿の後に、
「ところで、”あの本”というのは、一体なんでしょうか?次の3つの中からお選びください」ぐらいやるのなら、いいかな。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 07月 10日 水曜日 11:53:01)
「NHKニュース11」(1994-2000)のキャスターをしていたころの松平定知アナウンサーだったと思いますが、あるときヘッドホンステレオの開発秘話か何かの特集を放送するにあたって、
「このヘッドホンステレオ、……と申し上げても多くの方はお分かりにならないでしょう。小さな声で商品名を申し上げますと、……要するにウォークマンなのですけれども」
というような説明をしました(詳細は失念)。ソニーの商品をクイズで紹介することは思いつかなかったようです。
岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2002年 08月 06日 火曜日 21:10:34)
夕方にNHK教育テレビでやっている海外ドラマで、次のようなシーンがありました。
風邪をひきそうになり警戒していると思われる人物が、リンゴを摂取して風邪をひくまいとしている。リンゴと思って口にしたのがリンゴ型の蝋燭であったり、リンゴジュースをがぶ飲みしたり。さらにノートパソコンにかけより、「ああパソコン!」といいながら、体にパソコンをすりよせる。
そのパソコンには、大きくアップルのマークが見えました。おそらく、あちらでは「おお、アップル!」と言っていたのではないでしょうか。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 08月 13日 火曜日 21:47:37)
2002.08.11 「課外授業ようこそ先輩」
〔ナレーションで〕エレクトーンの平田君
エレクトーンはヤマハの商標。昔は科学番組「ウルトラアイ」で「語り・小林恭治 電子オルガン・柏木玲子」というクレジットが毎週出ていたのを思い出します。
岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2002年 08月 22日 木曜日 20:37:16)
先日のたしかサンデースポーツで、堀尾アナが山下大輔解説者に、「山下さんは横浜ベイスターズが優勝したときのコーチでしたが、横浜にマジックが出たときに、マジックインキを持っていたそうですね」というようなことを話していました。
「はい。マジックインキは消えませんから、マジックナンバーも消えないように願ってですね」
宣伝までしているようでした。
→ 本会議室・30年前の日記
岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2002年 09月 22日 日曜日 22:04:49)
→ 平成ことば事情812
skid さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 27日 金曜日 12:11:41)
『毎日新聞用語集』とか、共同通信社・時事通信社のハンドブック(市販)には特定商品の言い換えがいくつか載っています。
そのひとつにジッパーがあるのですが、『リーダーズ・プラス』によると一般名詞化したため裁判になったものの、商標の保護は「ジッパー・ブーツ」に限られることになったそうです。
ちなみに、日本ではチャックも特定商品名なんですね。
また、「ウェブスター」も一般名詞化して「ディクショナリー」と言うかわりに「ウェブスター貸して」で通じるとか。
こちらも裁判で、ウェブスターと関係ない出版社が「ウェブスター」を書名につけて販売しても認められることになっているそうです。
日本では『大漢和辞典』をモロハシと呼ぶことがあっても、他の漢和辞典では使えません。
なお、昭和37年頃に言海社から『言海国語辞典』が出版されていますが、大槻文彦の『言海』とは無関係です。