『明鏡国語辞典』(大修館書店)が刊行されました。さっそく、楽しく読んだり、使ったりしています。
これまでの辞典と違ったどのような特色があるか、だんだんに見つけてゆこうと思います。
初めに疑問を書くのは気が引けますが、「二酸化炭素」が立項されていません。「一酸化炭素」はあるのに。遺漏と思われます。「炭酸ガス」はありますが、空見出しとしてでも「二酸化炭素」が立っていなければ、「炭酸ガス」にたどり着けません。
他の辞書『集英社(2)』『新潮現代(2)』『三省堂(5)』『岩波(5)』には立項されており、『新明解(5)』は「二酸化」があって用例に「―炭素〔=炭酸ガス〕」とあります。これで炭酸ガスを参照することができます。
※「辞書にないことば」のスレッドに投稿しようと思いましたが、どうも錯雑していて、新しい書き込みができないようです。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 09日 月曜日 05:06:31)
二酸化炭素探偵ではないのですが、関連してもう1件。
「尿素」の項に、「工業的にはアンモニアと二酸化酸素から合成され」とあります。「平凡社世界大百科事典」(CD-ROM版)で見ると、「二酸化炭素」となっています。「二酸化酸素」は、ふつうに考えても、どうも誤植らしく思われます。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 09日 月曜日 05:56:11)
「塩基」の項目に、塩基の例として「水酸化ナトリウム・水酸化アンモニウム・苛性{かせい}ソーダなど。」とありますが、苛性ソーダというのは、まさに水酸化ナトリウムそのものですから、重言ではないでしょうか。
田島照生 さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 09日 月曜日 17:16:42)
私も買いました。「看護師」、「逆ぎれ」、「オンデマンド出版」、「化学物質過敏症」、「BBS」などといった新語から、「パソドブレ」、「デリンジャー現象」、「音義説」、「クロソイド」、「ドルメン」、「自己資本比率」などといった百科的項目まで、かなり幅ひろく採録していました。
Yeemarさんが指摘された「二酸化炭素」は、やはり遺漏なのでしょう。「万遺漏なきを期す」とはいかなかったようで…。
まだ意味論的な語義説明には目を通していないので、とりあえずどうでもよい事柄から。
・「ご」(語)の項の用例。「七万語」。ちゃっかり宣伝しています。
・「さき」(先)の項の例文に次のような例文があり、ちょっと笑えました。
「辞書づくりは先の長い(=長い年月を要する)仕事だ」
・「エロチック」の項には、こんな説明が。
「『エロ』と略すと、より肉欲的な意味合いを帯びる。」
…なるほど。
以下は『朝日新聞(夕刊)』(平成十四年十一月一日付)から引用。
『明鏡』の編集は、88年に始まった。明鏡とは「澄みきった鏡、転じて公明正大のたとえ」。名前の候補は約30あったが、「21世紀の、今の日本語を正しく映していく鏡としたい」と決めた。採録する言葉選びに約2年。北原さん(北原保雄さん―引用者)と4人の編集委員らが百回以上の会議で、99年ごろまで各項目の執筆作業と校正を重ねた。00年ごろから10月半ばの印刷直前まで、収録語の検討や校正は進められた。
skid さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 10日 火曜日 23:23:11)
新聞記事があったことを知らず、書店で見つけて驚いたのですけれど、うちの『朝日新聞(夕刊)』(平成十四年十一月一日付)には載っていませんでした。
版数が違うからでしょうか。
同じ都内でも、松井栄一先生が載ったときの写真が、カラーになっているのといないのとがありました。
『明鏡』はページ数の割に収録語数が7万と少な目なので、そのぶん情報量が多いと思ったのですけれど、活字が大きいぶん字詰や行数は少な目だから、たいして違わないのかもしれません。
ちなみに、ほとんどの辞典と同様に「たんすのこやし」は載っていませんでした。
岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 11日 水曜日 00:17:46)
「たんすのこやし」ですか、なるほど。
手元の用例では、石川英輔『大江戸エネルギー事情』講談社文庫1993(元1990)
人が織機の前に座って足で縦糸を動かし、横糸を一本ずつ手で通しながら織っていた時代の布は、大変な貫重品だった。〈たんすのこやし〉などという言葉のある時代に住むわれわれには、その貴重さがとうてい想像できないほどである。
ですが、もうちょっと古そうです。
たまたま下のサイトを見つけましたが、ここにも載っていません。
→ 相原コージ先生に捧ぐ慣用句辞典
田島照生 さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 11日 水曜日 02:16:28)
なぜでしょう。もしや「大阪版」の文化欄にのみ載ったとか?
現在、大修館書店のホームページには、新聞記事に載った井上ひさしさんのコメントの一部が掲載されています。ここでも確かに「十一月一日」となっています。
『朝日新聞』は、十一月の中旬ころにも『明鏡』の広告を掲載していました(かなり大きな広告です)。それ以前に、『日本経済新聞』(日付は失念しました)は、第一面の出版社別の広告に『明鏡』を載せていました。他紙は存じません。
→ 大修館書店のトップページ
skid さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 12日 木曜日 08:52:01)
11月24日の朝日新聞(朝刊)に大きめの広告があって、そこにも井上ひさし氏のコメントが「朝日新聞十一月一日付」と載っていました。
社会面だったら記事の差し替えはしょっちゅうあるようですが、文化欄はどうなのでしょう。
たとえば、発売日がずれこんでしまったために記事を変えたとか。
井上ひさし氏といえば、11月19日の『類語大辞典』では広告の半分が井上氏の写真でした。
珍しく書名に「講談社」が入っていないこの辞典、角川書店の『類語国語辞典』みたいに縮刷版を出してくれないと使いにくそうです。
『類語大辞典』は何ヶ月か前から他の広告と一緒に予告が入り、内容見本も送ってもらったので分かっていました。
22日に神保町へ行った折、書店で『明鏡』を知った次第です。
以前は、大修館書店から新刊案内が届くこともあったのですが、近々直接行って内容見本があったらもらってくるつもり。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 16日 月曜日 20:53:48)
「うきぐも【浮き雲】」「うきな【浮き名】」などに「公用文では「浮雲」。」とか「公用文では「浮名」。」とか書いてあるので、「これは何だろう?」と疑問に思いました。「浮雲・浮名」などを例示している公用文の規定があるのでしょうか。
「浮き輪」は「公用文では……」の注記がないため、公用文でも「浮き輪」でしょうか。
公用文の書き方の規定は、各省庁や各自治体で独自のものを作っているようですが、その直接の根拠となる通達なり通知なり申合せなりがどういうものであるのか、私は存じません。とりあえず茨城県の「公用文における漢字使用等について」には「昭和56年10月1日 事務次官等会議申合せ」として次のようにあります。
複合の語〔略〕のうち,活用のない語であつて読み間違えるおそれのない語については,内閣官房及び文化庁からの通知の定めるところにより,「送り仮名の付け方」の本文の通則6の「許容」を適用して送り仮名を省くものとする。の例として「受皿・売場・買物・掛金」などがあります。しかし、「浮雲・浮名」などはありません。
skid さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 16日 月曜日 22:30:54)
文化庁(文化部国語課)編集の『公用文の書き表し方の基準(資料集)』(第一法規出版)を見ますと、「文部省公用文送り仮名用例集」に浮雲・浮名が載っています。
そのほか、浮足・浮草・浮袋・浮世がありますが、浮輪はありません。
浮袋でよいなら浮輪でもOKだと思うのですけれど、こういうのってとにかく例示されたものだけが認められてしまい、載せられていないものはダメと解釈されてしまいがちですね。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 16日 月曜日 23:03:23)
すると文化庁の資料集によったのでしょうかね。ただ、『明鏡』では「浮き足」は「公用文では……」の注記がなく、「浮世」は「新聞では、慣用の固定として「浮世」と書く。」とあります。どうも注記の基準がはっきりしませんね。
ただ、「公用文では……」という注記は、「『取り扱い』か『取扱い』か?」などでよく悩む人がいるので、よりどころを求めたい人にとっては親切な試みだと思います。
[公用文]浮雲
というような簡潔な表示にしてはいかがかと思いますが。
skid さんからのコメント
( Date: 2003年 01月 16日 木曜日 05:40:20)
この前の朝日新聞の広告では、井上ひさし氏のコメントに「大阪版」と付け加えられていました。
また、開封し忘れていたダイレクト・メールなどを見たら、TESクラブという大修館書店を主とする割引特価販売の案内に「2002.11.1.朝日新聞より」として井上氏のコメントだけ転載してありました。
そして、内容見本も同封されています。
このTESクラブはホームページもあって、誰でも会員になれるようです。
『大漢語林』なんか6割引ですよ。
田島照生 さんからのコメント
( Date: 2003年 01月 17日 金曜日 03:08:51)
実を申さば、私もTESクラブ会員です。本を注文すると、自動的に会員に登録されます。年に二度、カタログが届きます。
今春は、明治書院とジョイントして、『新釈漢文大系』既刊本を約五十万円で販売しています。「在庫本特別販売目録」でも良書が見つかります。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 07日 金曜日 01:42:25)
『明鏡国語辞典』「みいだす【見出す】の項に「語構成は「見-出いだす」。これを「見い出す」のように書くのは誤り。」とあるのは親切なことです。手近のいくつかの辞典をみてもこのことは書いてありませんでした。
私は「見出だす」と書きます。「出づ」に対して「出だす」ですから、これでよいのではないかと思います。「送り仮名の付け方」の通則2を適用するわけです。ただ、現代語として「いでる」がないのが不安です。「送り仮名の付け方」は文語は視野に入っているのかいないのか。
「見出だしがたい」と書いた私の文章を見て、人が「見出しがたい」とすべきではないか、ワープロでもそう出てくる、と言いました。しかし、それでは「みだし」と読まれてしまうおそれをもちます。「(新聞の)見出し」ということばもありますし。
手近の辞書では、『三省堂国語辞典』が「見出だす」を採用。『新明解国語辞典』は「見出(だ)す」とします。私は目下は断然『三省堂国語辞典』派です。(しかし過去に書いたものは必ずしもそうなっていないかもしれません。)
××××氏の『×××における××××』という研究書のp.159には「適切な口語訳を見い出しがたい。」とあります。これは『明鏡国語辞典』のいう誤用例。
skid さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 07日 金曜日 12:35:10)
「出で立ち」というのがありますね。
私は「見出す」派なんですけれど、確かに「みだし」と紛らわしいという意識はあります。
「みだす」と読み間違う人もいるでしょう。
でも、事によると「見出だす」も「みでだす」なんて読み間違えている人がいるかもしれません。
「見いだす」が一番いいんじゃないかと思うんですけど。
skid さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 07日 金曜日 12:58:53)
「出で湯」も忘れちゃいけない。
「出光石油」を「でびかる」と読んでいた笑い話がありましたっけ。
道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 08日 土曜日 13:02:36)
九州の「出水」も、九州以外の人は普通「デミズ」と読んでしまいますよね、「イヅミ」ではなく。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 08日 土曜日 16:22:01)
鹿児島県出水市は振りがなも「いずみ」と表記するようですね。おそらく人々の頭には「出づ」との関連性はもはや意識されていなくて、それで「でみず」と読んだりするのでしょう。そもそも、「泉」自体、語源は「出づ水」なのでしょうが、「稲妻」を「いなずま」と書く伝で「いずみ」になってしまったものと思います。
「いでゆ」は、「温泉」の熟字訓として使われることも多いように思います。「出水」とどちらが多いのでしょう。近江俊郎の「湯の町エレジー」には「風のたよりに聞く君は 温泉(いでゆ)の町の人の妻」だったと思いますが、今、ホームページを検索すると、いろいろな表記があり、どれが真実の歌詞かわかりません。
『明鏡国語辞典』からちょっと離れてしまいました。
ついでに、『明鏡』といえば「明鏡止水」という四字熟語を連想しますが、これは宇野宗佑首相が無念の辞任のときに、無理に威厳を作りながら漏らしたせりふでもあります。そこで、この国語辞典を開くとき、私はいつも元首相の顔が浮かぶのです。
→ 出水市ホームページ
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 08日 土曜日 16:25:45)
上のコメントは意味不明な部分がありました。
誤 「出水」とどちらが多いのでしょう。
正 「出湯」とどちらが多いのでしょう。
岡島 さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 08日 土曜日 18:44:33)
話題はそれ続けますが、出水の北、水俣にある温泉地は湯鶴温泉と書き、「ゆのつる」と読んでいます。しかし旧式の書き方は「湯出温泉」であり、この表記から考えると「ゆのづる」であったのかもしれません。
明鏡止水、私も宇野首相を思い出します。たしか「め↓いきょーし↑す↓い」というようなアクセントで言っていたような気がします。新明解では「政治家が使う」といった注記がしてあったと思います。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 08日 土曜日 21:35:08)
うちにある「NHK THE NEWS 1989」というビデオ(1989年12月に放送された「ニュースハイライト」〔1年を振り返る番組〕を収録したもの)を見てみました。宇野総理は「明鏡止水の心境でございます」と言っていますが、アクセントはやや不安定なものの、おそらくは平板のつもりで「メーキョー・シスイ」と言っているように聞こえます。
新明解では初版以来「不明朗のうわさが有る高官などが、世間に対して弁明する時などによく使われる」ですか。すると、宇野総理以前から弁明用語であったふしもあるのですね。いつごろからの話なのでしょう。
岡島 さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 08日 土曜日 22:14:58)
Yeemarさん、ビデオでのご確認、有り難うございます。
宇野発言は私の頭の中で変わってしまったようです。「明鏡止水の心境であります」だと思っていました。別の人のと混同しているのかもしれません。
道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 08日 土曜日 23:22:43)
Yeemarさん、「出水」を最初は「イズミ」と書いて、ちょっと考えて「イヅミ」と書きました。調べませんでした。「イズミ」だと「イズ+ミ」だと「出ず水」になると思って、「出ないとまずいな」と「イヅミ」に直したのでした。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 12日 水曜日 07:38:08)
ハヽアどうやらこのことらしいですね。
明鏡止水=昭9戦前に鳩山一郎が用いたころから弁明用語であったということでしょう。『新明解』の主幹もこのあたりのことが頭にあったのでしょう。
「帝人事件」の「帝人」すなわち「帝国人絹会社」は金融恐慌の震源地となった鈴木商店の子会社で、台湾銀行は鈴木商店に対する債券の担保として帝人株二十二万株を所有していた。この株の取引をめぐって昭和九年四月、帝人、台湾銀行幹部、つづいて中島久万吉商相、鳩山一郎文相らが起訴された。その際、鳩山が貴族院での答弁中に使ったのが「明鏡止水」で、鳩山は無実の身を証明する意味で使ったものである。結局「帝人事件」は昭和十二年十月、「空中楼閣」であったとして全員無罪となったが、これは斎藤内閣の倒閣を目的とした事件であった。(奥山益朗『現代流行語辞典』東京堂出版、1974)
面独斎 さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 19日 水曜日 04:10:19)
「明鏡止水」は、現代用語の基礎知識(編)『20世紀に生まれたことば』(新潮OH!文庫、2000)の1934(昭和9)年の項にも載っていますが、説明がちょっと違っています。
【明鏡止水】「帝人事件」ではなく「樺太工業汚職事件」となっています。はたして事実はどうなのでしょう。なお、この「明鏡止水」の直前の項目として「帝人事件」も収録されています。
樺太工業汚職事件で起訴された文部大臣鳩山一郎は、2月28日、貴族院での答弁で、「明鏡止水」(曇りない鏡と静かな水のように邪念のないこと)の心境と言って、無実を証明する意味で使ってから流行した。
skid さんからのコメント
( Date: 2003年 02月 19日 水曜日 17:41:37)
樺太工業汚職事件は、帝人事件の衆議院本会議中に暴露されたものです。
『東京朝日新聞』昭和9年2月16日に「鳩山文相俎上に上り/政友同士討の大醜態/岡本氏の暴露演説/衆院挙げて騒然」の見出しで、リードには、
この動議に対し岡本氏は質問に名をかつて登壇するやその言論は遂に
樺太工業会社に関する鳩山文相と自身との内面暴露にまで及んで泥試
合の火ぶたを切つたので各派とも今更に驚き、(後略)
とあります。
正確なところは知りませんが、帝人事件を株売買にからむ政界の綱紀粛正事件とみれば、鳩山一郎もその事件の関係者となるのでしょう。
岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 03月 15日 土曜日 18:34:00)
>××××氏の『×××における××××』という研究書のp.159には「適切な口語訳を見い出しがたい。」とあります。
飯間浩明 程度副詞「いと」はなぜしきりに用いられるか―「源氏物語」「枕草子」を対象に― 『国語学 研究と資料』26
という、意欲的な論文のp6に引用してある文献ですね。
→ ↑
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 03月 16日 日曜日 02:00:44)
――汗顔の至りでございます。