以前、ホームページに「店で、『○番様』と呼ばれるのが不愉快だ」というようなことを書きました。
行列で並んで待つとき、店員がふだをくれるのですが、あとでそのふだの番号で「○番様、いらっしゃいますか」などと言うのです。どうも番号で呼ばれるのは、囚人になったような気がして抵抗があります。
私が憤慨するしないにかかわらず、この言い方は急速に広まりつつあるように見えます。もうあきらめるべき段階かもしれません。
似たようなシチュエーションで言われる「○名様、こちらへどうぞ」というのは、もう違和感をおぼえる人も少なかろうと思います。「名」というのは自分側について言うものであって、相手側に対しては「おふたかた」とか「おふたりさま」「おさんにんさま」などと言うのが、元来はふつうであったろうと思います(これはあくまで私の感覚)。しかし、今では、圧倒的多数の店員は「○名様」と言っていて、客の側も疑問を感じないでしょう。
これらは、「敬意逓減の法則」ならぬ「敬意逓増」の現象とでもいうべきものです。失礼なはずの言い方が、そのうち敬意を表すようになるという現象です(「ご記入してください」なども同様でしょう。私ならば、そう言われると内心怒りますが、もはや怒らない人が大部分でしょう)。
さて、この「○名様」というのがいつごろから使われ出したのかを語彙索引の検索で調べてみますと、私自身が索引を作った浅野信『巷間の言語省察』(1933)が出てきました。ただし、これは「○名様」という言い方がいけないというのではなく、広告にすぐ景品をつけたがる風潮を批判したものです。
某地へ何名様御招待、何々廻り何名様御招待等の何円券何万冊売出しといふことが始められた。(p.28)しかし「○名様」が使われていた証拠にはなります。
「○名様」は失礼だ、ないしは不愉快だ、という意見を読んだか聞いたかしたおぼえもありますが、忘れてしまいました。そのようなことを書いている文章をご存じの方はいられますでしょうか。また、上記のような言い方について、どのようにお感じになりますでしょうか。
→ 81番さま
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 04月 23日 水曜日 17:01:12)
手もとの何種かの国語辞典を引いてみると、「〜名」という助数詞は、「〜人」に比べて改まった言い方だとしているものが大多数で、森田良行『基礎日本語2』では「〜人」は「人口、家族、収容人数など」、「〜名」は「会員、参加者、欠席者、定員など」を表すという違いがあるようです。
とくに「〜名」がへりくだった言い方とは書いてありません。すると、これは私だけの感じ方でしょうか。
森鴎外「普請中」では、精養軒ホテルで「きのう電話で頼んでおいたのだがね」と案内を請うと「は。お二人さんですか。どうぞお二階へ」と給仕が答えます。私はこのように「お一人さま、お二人さま、三人さま、四人さま……」という言い方がよいのではないかと思います。
自分は今までにこれを特に不快と感じたことはありませんでしたが、
どうなのでしょうか。
苗字がない人への差別用語だったという変なことを言う人も以前いたのを思い出しました。
しかし、○名という言い方には差別的はもちろん謙譲的でもなければ失礼な言い方でもありません。そういう歴史的事実はありませんし、いまもってそういうことはありません。ただの勘違いだと思われます。