2003年03月26日

朝食をしたためる(道浦俊彦)


ボブ・ウッド著、伏見威蕃訳『ブッシュの戦争』(日本経済新聞社)の冒頭の3ページに「のんびりと朝食をしたためていた」という一文が出てきました。私は「これは何かの間違いだろう」と思い、『新明解国語辞典』を引いたところ、ちゃんと「食事をとる意味の老人語」として載っていました!ビックリ!!Google検索では「朝食をしたためる」「昼食をしたためる」がそれぞれ4件、夕食、夜食は0件。「したためる」は4000件以上あり、何をしたためているかを見てみると、「手紙、文、日記、遺書」などでした。

現代においては、やはり「したためる」=「書く」という行為を指していると思うのですが。「認める」と書いて「したためる」という読みも(普通は「みとめる」と読んでしまうので)難しいのではないかと思いますが、「したためる」の使用の現状と、今後の展望に関して、ご意見を伺いたいと思います。



Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 03月 26日 水曜日 14:36:49)

私はたまたま、湾岸戦争を取り上げた手嶋龍一『一九九一年日本の敗北』(新潮文庫)を読んでいますが、自分も生きていたはずの近過去の世界情勢が、論客により徹底的に検証・再構成され、まったく未知の相貌を呈していることにおどろきます。『敗北』というタイトルのとおり、日本の政治家・役人の憂うべき実態がよく描かれていて、巻を措くあたわずという感じです。


閑話休題。梶井基次郎の「冬の日」には、「夕餉をしたために階下へ降りる頃は」とありますね。老人語といわれれば、たしかに今は使わないなあと思います。私の語感としては、あまりビフテキやらラーメンやらをしたためるという感じはしません。「お茶漬けをしたためて」なら言いそうです。

梶井基次郎短編集「冬の日」(新潮社)



後藤斉 さんからのコメント
( Date: 2003年 03月 26日 水曜日 15:35:36)

『新潮文庫の100冊』には他に(翻訳ものも含めて)10例ありますが、目的語はどれも「夕餉、晩餐、朝食、食事、定食、正餐」というふうに具体的な食品名ではないのですが、偶然でしょうか。

『絶版100冊』『大正の文豪』『明治の文豪』や他の例も同様でした。

(「をしたため」で検索)


福知山で昼食をしたため、そのまま町も見物せずにあわただしく出発した。

小松左京 探検の思想

初版発行:1966年11月25日


郡司は諦めて、ほかのスタッフと一緒に、遅くなった昼食をしたためた。

内田康夫 長崎殺人事件

光文社電子書店  2001年 8月24日(一九八七年にカッパ・ノベルス)


あるいは干物と納豆と豆腐の味噌汁で朝食をしたためながら、

文春ウェブ文庫版

丸谷才一  食通知つたかぶり (神戸の街で和漢洋食)(文藝春秋 昭和47年10月号)


夕食をしたためた後に、半隊に自由行動の許可が出た。

住吉新家通りの有名な伊丹屋の表座敷奥座敷に上って昼食をしたためた。

天下茶屋で昼食をしたためた。

大岡昇平 堺港攘夷始末

2001年6月22日発行 (『堺港攘夷始末』一九八九年一二月 中央公論社刊)


藩侯は側近の者と昼食をしたためていた。

岡本好古 日本海海戦

「徳間web書店」版.(初出1976年6月 新人物往来社)



道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2003年 03月 26日 水曜日 18:54:07)

Yeemarさん、後藤さん、どうもありがとうございます。

この訳者は、ビンラディンのことをさしたブッシュ大統領の言葉を「犯人」ではなく「下手人」という言葉で訳していたりして、そういう表現がお好きなようです。1951年生まれ、と奥付けにはありましたが。



後藤斉 さんからのコメント
( Date: 2003年 03月 27日 木曜日 10:32:57)

漢字表記の方はどうしてもゴミが多くなるので探しづらいのですが、『新潮文庫の100冊』所収の福永武彦『草の花』に3例があるようです。

11150101.txt

朝食を認めてから、私は外科病棟の個室に汐見の顔を見に行った。

冷たくなった汁で食事を認めた。

11150102.txt

藤木と向き合って食事を認め始めた。


次は一応疑問例ですが、「みとめ」かと思われます。(前後関係から、ワインを飲まずにラベルに感心してもらうのでもいいようなので)

林真理子 最終便に間に合えば

院長が私のワインを認め、どのような顔をするかと考えるだけで胸がドキドキする。

文春ウェブ文庫版 (昭和六十年十一月 文藝春秋刊)



km さんからのコメント
( Date: 2003年 03月 27日 木曜日 10:59:06)

福永武彦・草の花の3例はいずれも「したた」とルビがありました。


ほかに以下の例がありました。

明治の文豪・夏目漱石・明暗

(1)彼は停留所の前にある茶店で、写真版だの石版だのと、思い思いに意匠を凝

らした温泉場の広告絵を眺めながら、昼食(ちゅうじき)を認(した)ためた。


大正の文豪・島崎藤村・夜明け前

(2)物頭が樋橋(といはし)まで峠を降りて昼食を認(したた)めていると、

追々と人足も集まって来た。


絶版100冊・福永武彦・死の島

(3)まず寝床の中でラジオのスイッチを入れて大作曲家の時間を聞く、時報が八

時をしらせるとダイヤルを名演奏家の時間に切り換え、それを聞きながら床を上げ

る、洋服に着替える、簡単な朝食を認(したた)める、必要な品を書類鞄(かば

ん)に詰め込む、そして入口のドアに鍵(かぎ)を掛けて冬の寒い戸外に出て行く

だろう。

(4)雨が降っている割には表はまだ明るかったのに、二階に通ってみると二人の

女は和室の卓袱(ちやぶ)台(だい)に向い合って、夕食を認(したた)めてい

た。

(5)お風呂よりも御飯が先と女中さんに命じてあったから、ちょうどその時大き

なお盆を抱えて女中さんが部屋にはいり、机の上に食器を並べ、どうぞごゆっくり

と言ってさがって行ったから、わたしたちは場所を移動して遅い夕食を認(した

た)めることにしたが、その間もわたしはなるべく陽気に振舞い、綾ちゃんも調子

を合せ、それでいて二人の間にこれから起るべき事柄はわたしも彼女も充分に承知

していたのだ。



後藤斉 さんからのコメント
( Date: 2003年 03月 27日 木曜日 11:38:22)

ありがとうございます。

実例として見つかるのはやはり目的語として食事のいろいろな形態を指す語が

きているものばかりで、具体的な食べ物が使われている例はありませんね。



Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 03月 27日 木曜日 20:05:28)

「食事を食べる」はだめで「お茶漬けを食べる」はOKですが、これとは逆に「食事をしたためる」はOKで「お茶漬けをしたためる」はだめなのでしょうか。だとするとおもしろいことです。「したためる」は「片づける」の意味もあったため、「食事をしたためる」は、「食事をすます」のような意味合いもあるのでしょうか。しかし、「義経記」(室町中か)には

出てより飯{いひ}をしたゝめ給はねども、痩せ衰へもし給はず。(日本古典文学大系 p.86)


忠信は酒も飯{めし}もしたゝめずして、今日三日になりければ、(同 p.220)


菓子ども引寄せて、思ふ様にしたゝめて居たるところに、(同 p.223=これは『日本国語大辞典』に載っている)

とあります。「したたむ」には「調理する」の意もありますが、ここでは「食べる」の意のようです。しかしこれが現代語に当てはまるかどうかは別問題です。


また、「飯」「酒」「菓子」も具体的な食べ物とまで言えるかどうかにも問題がありそうです。


posted by 岡島昭浩 at 12:22| Comment(0) | TrackBack(0) | ■初代「ことば会議室」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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