2003年05月03日

ど真ん中(Yeemar)


「ど真ん中」というのは大阪弁である、野球中継によって広まったのである、東京では「真ん真ん中」と言うのである、という説を聞きます。これはどなたの説であったか、肝心のことを忘れてしまいました。巷間流布されている説でしょうか。


しかし、『日本国語大辞典』によれば、久保田万太郎(生粋の江戸っ子)が使っています。


してみると、この一事で「ど真ん中」野球報道由来説というのが、ぐらつくように思われるのですが、いかがでしょうか。


ご存じのことがございましたら、ご教示いただければと思います。



岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 05月 04日 日曜日 01:12:46)

丸谷才一『日本語のために』「当節言葉づかひ」でしょうか。

あれは野球の解説者がたいてい関西出身なので(あるひは関西出身でなくても関西人の多い野球選手のなかでもまれてゐるうちにどうしてもそれに近くなって)しきりに使ったせゐかもしれない。たしかに、「ドまん中に投げる」ならサマになるげれど、「まんまん中に投げる」では凄味がなくていけないかもしれない。


ここは、
伊藤正雄といふ国文学の先生の著書に『国語の姿勢  ある大学教師の“国語白書”』といふ好著がある。この先生、東京生れの東京育ちでありながら、ずつと関西の大学にお勤めだつたせゐで、上方ことばと関東ことばといふ問題にたいそう敏感になつたらしい。


という部分の後なのですが、この本で「ど真ん中」が取り上げられているかどうかはわかりません。ちなみに、この伊藤先生は足立巻一『やちまた』の拝藤先生のモデルですね。『忘れ得ぬ国文学者たち』右文書院 , 1973の著者ですし。

なお、『国語の姿勢』は黎明書房 , 1970



岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 05月 10日 土曜日 01:49:27)

Yeemarさんのコメント、並びに私が『放送用語論』から引いたものが、消えました。



岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 05月 19日 月曜日 18:34:30)

『国語の姿勢』みました。「戦後の日本語を点検する 五 関西語の進出」(p354)

交通やマスコミの急速な発達と、東京・関西の文化交流との結果、関西語が東京語と混血して標準語化し、純粋の東京語の影が薄くなった例も珍しくない。大阪の「ど真ん中」が、戦後東京の「まn真ん中」を制圧して、中央の座を獲得したのは、その好典型である。



岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 05月 23日 金曜日 22:26:25)

伊藤正雄氏。丸谷氏が「東京生まれの東京育ち」と書いたのは誤り。『国語の姿勢』の略歴にも「大阪市に生まる。幼少時を東京に過し、中学時代の半ばに郷里大阪に帰住」とあります。

「関西語の進出」で挙げられているもの。

「ガラスを破る」「窓を破る」

コキブリ(油虫)

かぼちゃ(唐茄子)

根性

えげつない(あくどい)

がめつい(貪欲だ)

いじましい(けちくさい)

してほしい(してもらいたい)

言うなれば・するなれば


なお、『忘れ得ぬ国文学者たち』が復刊されていまして、宣伝文句に足立巻一『やちまた』の拝藤教授のモデルであるとも書いてありました。

『忘れ得ぬ国文学者たち』



Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 05月 25日 日曜日 18:07:25)

「ど真ん中」については、橋本五郎監修・読売新聞新日本語企画班著『新日本語の現場』 (中公新書ラクレ、2003.02)でも触れられており、道浦さんのHP「平成ことば事情」も引用されています。


やはり関西から野球を通じて広まった、というふうに書いてあったと思います。(手持ちのお金が少なかったため、まだこの新書を買っていないのです)



masakim さんからのコメント
( Date: 2003年 05月 26日 月曜日 04:59:48)

私もまだ橋本五郎監修・読売新聞新日本語企画班著『新日本語の現場』 (中公新書ラクレ、2003.02)を購入していませんが、『読売新聞』2002年(平成14年)7月11日夕刊18頁の”44 「ど真ん中」と「真ん真ん中」”には次のように書かれています。


 「井川の三球目、ど真ん中に決まった」――。野球中継で使われる「ど真ん中」は、もともと関西の言葉だ。接頭語の「ど」について、「日本国語大辞典」(小学館)は、名詞や形容詞などの上に付けて強調する俗語で、「近世以来の上方の言葉。現在も関西方面を主として用いられている」と説明している。

 関東では本来「真ん真ん中」のように「真(ま)」を付ける。「真っ青」「真ん丸」「真正直」といった具合だ。東京・銀座にドラッグストアチェーンが進出するという記事の見出しに「銀座のど真ん中」と付けた時のこと。「ど真ん中は大阪弁だ」と先輩から指摘された。見出しを担当した筆者は大阪生まれだが、これが関西風の表現だとは全く意識していなかった。

 十年ほど前、山形県で新たに売り出された米の銘柄に「どまんなか」というのがあった。開発した同県立農業試験場によれば、「米どころ新潟と秋田に挟まれた山形は、米どころの中心といった意味。『ど』を付けて強めたつもりだったが、関西の言葉とは思わなかった」という。

 一方、気になる言葉をホームページで取り上げている読売テレビのアナウンサー、道浦俊彦さんは、「『ど』には、強調語という以上に、対象をけなす感じが込められている」とみる。「大阪ことば事典」(講談社学術文庫)にも「けんか用の語意を強めるための接頭語」とあった。「どアホ」「どケチ」「どあつかましい」「どタヌキ」……。確かに関西弁には、迫力のある言葉が多いようではある。



Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 05月 28日 水曜日 01:25:15)

『新日本語の現場』は、読売新聞の連載をそのまままとめたもののようですね。


「ど真ん中」の話になると、野球の話がよく出てくるように思われる、というのは冒頭に私が書いたことですが、これが丸谷才一氏の文章以来のことなのか、それ以前にだれか言っていたのか、興味は尽きません。丸谷氏は「あれは野球の解説者が……しきりに使つたせいかもしれない」と、いわば思いつきを記しているのですが、それがいつしか伝言ゲームで、人々の間で「野球解説者が広めた」となっていはしないだろうかと疑います。


私は、久保田万太郎が1928年に『春泥』の中で「道のどまん中」と使っているという『日本国語大辞典』のたった一つの用例から空想を広げて、「ど真ん中」というのは東京でもふつうに使われていたということであれば面白いな、と思いました。「野球を通じて関西弁から入った」ということが仮に信じられていて、しかもそれは俗説であったというような展開になれば、なおさら面白いと思います。



岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 05月 28日 水曜日 16:10:10)

クラッシュで飛んでしまった『放送用語論』を、今度はちゃんと引用します。

地方の方言のうちで、なんらかの理由で最近東京でも広く使われるようになった単語がいくつかある。大阪方言からの例が多いようであるが、野球中継などから広まったと見られる「どまんなか」や「もうひとつ」、ドラマから広まったと見られる「がめつい」などのほか、「えげつない」「ややこしい」「しんどい」など多くのものが、東京にいる人にも、時には使われもするし、少なくとも理解はされるようになった。


『放送用語論』63ページ 第1部第3章「放送用語と標準語」(石野博史氏)

NHK総合放送文化研究所 日本放送出版協会 昭和50年3月20日発行


『日本語のために』の単行本(1974.8)から一年も立たぬうちに、「かもしれない」ではない情報になっています。



岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 06月 04日 水曜日 15:58:01)

『日本語のために』の単行本は1974.8ですが、「当節言葉づかひ4江戸明渡し」は、『小説サンデー毎日』1973年4月号が初出のようです。


また、Yeemarさんは文庫版でお引きになっていると思いますが、私は単行本(S51.11.30 22刷)で引いています。「表記法」の注記の「字音仮名づかひは原則として現代仮名づかひ」というのは共通ですが、文庫本には、

字音の仮名づかひのうち、特に誤りやすいもの。「――のせい」(セヰとしない。「所為」の字音ソイの転だから)。
とあります。



NISHIO さんからのコメント
( Date: 2003年 11月 17日 月曜日 03:09:17)

山形県に「どまんなか」という銘柄米があります。名前の意味は、「山形県が米どころの中心を担っていくとともに、おいしさのどまんなかを突き抜ける味わいの米であること」だそうです。


「ど」はあまり品のよい接頭辞とは思えないので、食べ物の名前には不適切な気がします。というわけで、食べたことはありません。



どまんなか


posted by 岡島昭浩 at 15:16| Comment(0) | TrackBack(0) | ■初代「ことば会議室」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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