大辞林や広辞苑は「早起き」の項に用例として、
「早起きは三文の徳」と載っていてびっくりしました。
わたしは「早起きは三文の得」と習った記憶があります。
Googleで調べたところ
「早起きは三文の得」 約7,480件、
「早起きは三文の徳」 約1,240件と
「得」が多いのに一安心しましたが
なぜ、中型の辞書が「徳」を採用しているのでしょうか?
寝坊助のわたしがうかがうのも恥ずかしいのですが
ちょっと疑問に思いました。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 06月 14日 土曜日 19:58:21)
「得」と「徳」とはしばしば相互乗り入れしていますね。たとえば尾崎紅葉「金色夜叉」には
これも娘と申すのは名のみで、年季で置いた抱も同様の取扱を致して、為て遣る事は為ないのが徳、稼げるだけ稼がせないのは損だと云つたやうな了簡出、長い間無理な勤を為せまして、散々に搾り取つたので御座います。のように、「徳」の字を「損」と対にして用いています。今なら多く「得」と書くところで、ここでは「徳」が「特」のあて字になっているのでしょう。このあて字はずいぶん古く(中世?)から見られたようです。(「続続金色夜叉」〔1903.06発表〕新潮文庫 p.448)
「得」は「利得」で金もうけにつながるもの、「徳」は「美徳」で、金もうけにはならないかもしれないが「よい」もの、ということだと考えれば、「三文の得」のほうがいいかもしれません。でも、ことばは既成事実を作ってしまえば勝ちですから、「三文の得」「三文の徳」いずれもOKといったところでしょう。
ACTION PRESENTS/得盛!〔ママ〕 SKI RESORT/in 北志賀高原/竜王SKI PARK/小丸山スキ-場.ハイツスキ-場〔ハイフン原文ママ〕というチラシを大学内で1998年以前にみつけましたが、「特盛り」と書くのが多数派であるように思います。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 06月 14日 土曜日 20:00:00)
混乱しています。訂正です。
> ここでは「徳」が「特」のあて字になっているのでしょう。
「徳」が「得」の、ということです。
UEJ さんからのコメント
( Date: 2003年 06月 14日 土曜日 20:39:44)
これを読んで思い出したのは「亀の甲より年のこう」。
Googleでは、
亀の甲より年の功:約1,570件
亀の甲より年の劫:約63件
広辞苑では「亀の甲より年の劫」を項として挙げ、
『「年の功」とも書く』としています。
道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2003年 06月 18日 水曜日 13:36:13)
『放送研究と調査』2003年6月号=最新号の101ページに、まったくこのテーマそのものの『早起きは三文の「徳」か「得」か』というコラムを坂本充研究員が書いてました。
それによると、国語辞典で最初に登場する「三文のトク」は、明治42年の『俗語辞海』(集分館)が「朝起きは三文の徳」。「早起きは三文の得」は昭和34年『新言海』(日本書院)。『日本国語大辞典』(第2版)では「朝起き〜」は「三文の徳」で用例は明治13年の河竹黙阿弥の『日本晴伊賀報讐(にっぽんばれいがのあだうち)』のセリフから、「早起き〜」のほうは「三文の得」で明治22年の禽語楼(きんごろう)小さんの落語が紹介されていたそうです。
で、坂本さんの結論は「朝起き〜徳」「早起き〜得」とで異なっていたらしい、ということです。
アナウンサー的な視点から言うと「得(LH)」と「徳(HL)」ではアクセントが違うのです。そのアクセントから言うと、私は「得」だと思っていました。もちろん、「早起き」が、です。ただ、「馬子にも衣装」「濡れてで粟をつかむ」というような成句の「馬子(HL)」「粟(HL)」という頭高アクセントが、ともに現在は「LH」という尾高アクセントになってしまって、「孫」「泡」と思われているというような現状もあります。そこから考えると「得」と「徳」が混同されるのも、一般的には、しょうがないのかな、とも思います。
skid さんからのコメント
( Date: 2003年 06月 19日 木曜日 20:54:11)
「早起きは三文のトク」が昭和34年の『新言海』では遅すぎると思って適当にあたってみたところ、明治45年の『大辞典』(山田美妙)にありました。
漢字表記は「早起三文徳」です。
大正元年の『新式辞典』も「早起き〜徳」です。
また、「朝起きは三文の徳」は明治41年の『大増訂ことばの泉 補遺』にありましたから、『俗語辞海』が最初ではないですね。
ところで、「徳」と「得」のアクセントは違うのでしょうか。
道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2003年 06月 20日 金曜日 08:01:19)
skidさん、アクセントNHK発音アクセント辞典と新明解アクセント辞典で「得」と「徳」は同じアクセントでした・・・。すみません。人名の「徳」はアクセントが違って頭高アクセントで載っていました(新明解アクセント辞典)。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 06月 20日 金曜日 21:10:39)
「朝起き」の場合は「徳」で、「早起き」の場合は「得」というのは、やはりおかしいと思います。skidさんがご指摘になっていることで、すでに問題点が現れていますが、古い時代には「得」「徳」が相通じていた、どっちを書いてもよかったというのが事実に近いのではないでしょうか。アクセントも一緒なのですね。
岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 06月 21日 土曜日 00:19:35)
道浦さんのように人名でない「徳」を頭高に言いたくなる気持ちは、私も分かります。これはおそらく「得」と区別したいが故のアクセントではないでしょうか。「人にとって大事なのは徳です」などという時に「得」だと思われたくない、という意識から頭高にいいそうに思います。
坂本 さんからのコメント
( Date: 2003年 07月 02日 水曜日 18:47:14)
skid さん、ありがとうございます。
道浦さんから同僚に連絡があり、読ませていただきました。
参考になりました。
実は、私がコラムを書いたのは、インターネットの文研ホームページで公開している「国語力テスト」で、「『早起きは三文の( )』( )の中に入るのは 1.得 2.徳 3.特 のどれでしょうか」という3択の問題を出しました。
とたんに「正解が2つあるのでは?」という指摘があったのです。
そこで、道浦さんが紹介してくださった【早起きは三文の「徳」か「得」か】というコラムを書きました。
「国語力テスト」では、1.得 69% 2.徳 30%という結果でした。
詳しいことは「国語力テスト」を集大成した『国語力アップ400問』NHK出版 p64に追記しました。書店で立ち読みしてください。
お礼が遅れて申しわけありません。
重ね重ね、ありがとうございました。
→ 文研:国語力テスト