2003年07月21日

平板アクセントの「カレシ」(Yeemar)


平板アクセントの「カレシ」は何を意味するか? 広島県の短大教授でいられる方から「書物によって説が違う」とのご指摘のメールをいただきました。添えられたいろいろな説を見ると、なるほど齟齬があるようです(私の見つけた本と併せて該当部分を後に掲げます)。

諸説をまとめると、頭高の「カレシ」「カレ」(従来のふつうのアクセント)で言い表されるのは、
1.夫 2.本来の恋人 3.he 4.恋人 5.ボーイフレンド
などで、一方、平板の「カレシ」で表されるのは
1.ちょっと人に言えないパートナー〔浮気相手〕 2.遊び相手 3.恋人 4.軽いつきあい相手 5.本命の男性 6.〔頭高の場合よりも〕内側の人間関係
などとされています。

これを見ると、たとえば「恋人」は、頭高の2、4に入っている一方で、平板の3にも入っています。一見、諸説入り乱れているように見えます。

しかしながら、子細に検討すると、頭高は「公に認知された関係、後ろ暗いところのない関係」の男性に用いられるのに対し、平板は「秘密にしておきたい、ごく一部の人にしか知らせていない関係」の男性に用いられるという点で、それぞれ共通します。

したがって、頭高・平板それぞれの意味の違いについて、諸説は齟齬しているわけではないと、私は考えます。

……というようなことをご返事しました。

ただし、気になるのは、平板の「カレシ」の意味が、時期によって微妙に変化したりしてはいないだろうかということです。平板の「カレシ」の発生時期についても気になります。ご存じの情報をお持ちの方がいられましたらご教示ください。

なお、『新明解日本語アクセント辞典』(三省堂)には、平板のカレシは「避けたい」という意味のことが書いてあります。
【「カレシ」のアクセントに言及する文章】(年代順)*「span」タグでアクセントを示しています。IEでご覧ください。
● 平板化は、外来語だけでなく、在来語にも見られること。パーティー、パンツに匹敵する例に、二つの「彼氏」がある。週刊誌の記事に、
  でも、彼氏(ちなみに、このアクセントは平板)に見つかるのはちょっと。
という会話がでていた(山田美保子氏の文。「週刊文春」一九九四・三・一〇号)。
 まだ、女性語の範囲にとどまているのかもしれない。結婚した女性にとって、その夫は頭高のレシ(レシ近ごろ早く帰ってくる?)だが、ちょっと人に言えないパートナーの男性はカレシ(ちょっとカレシに会ってくる)で、このことばは、ささやくように発音するのだそうだ。(柴田武『日本語はおもしろい』岩波新書 1995.01.20 p.184)

●・彼氏 れし  本来の恋人
    かれし  遊び相手の男性
(米川明彦『現代若者ことば考』丸善ライブラリー 1996.10.20 p.96)

● しばし沈思黙考したのち、友人は意外な新説をとなえた。「意味がちがうのではないか。heの彼はレ、恋人の彼はカなのではなかろうか。どんもそんな気がする」と言うのである。〔略〕
 何人ものかたが、小生の友人である大学教師の推測はどうも正しいようだ、と知らせてくださった。すなわち今の若い娘たちは、恋人のことを「カ」と言う者が多い、とのことである。〔1997.03.20の文章〕(高島俊夫『お言葉ですが… 「それはさておき」の巻』文藝春秋 1998.01.30 p.62-63)

●若い人たちは「彼氏」をアクセントで区別する。従来の起伏型の「レシ」は恋人という意味、平板の「カレシ」はもっと軽いつきあい相手の意味で使うという。(井上史雄『日本語ウォッチング』岩波新書 1998.01.20 p.172)

●女性にとっての「彼氏」は、文頭を高く発音すれば、ただのボーイフレンドですが、平板に発音すれば本命の男性を意味することになるというわけです。「彼女」についても同じで、「カノジョ」を全部平板に発音すると、自分にとって特別な女性を意味するというのです。(池上彰『日本語の「大疑問」』講談社+α新書 2000.03.01 p.48)

●〔頭高の「カレシ」(A)と平板の「カレシ」(B)について〕(A)(B)ほぼ意味は同じ。但し、(B)はより内側の人間関係を表す。(岩松研吉郎『日本語の化学』ぶんか社 2001.04.10 p.231)



skid さんからのコメント
( Date: 2003年 07月 21日 月曜日 20:40:46)

みんな平板と頭高を対象によって使い分けているんでしょうか。

私は甚だ疑問に思います。

使い分けているとしたら、もともと地域によって平板と頭高の違いがあるから、どっちがどんな意味かというのも逆になるのことはないでしょうか。



Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 07月 22日 火曜日 00:05:29)

広島では〈女子大生数人に聞いたら、区別しないと言いました〉とのことです。


平板化という現象は、まずもって共通語のアクセントに指摘されるものですから、方言で2種の「カレシ」を使い分けないのは当然だろうと思います。



Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 10月 29日 水曜日 22:40:36)

小アンケートを加え、03.10.04に、「ふたつの「彼氏」」という題で文章にまとめました。


posted by 岡島昭浩 at 20:07| Comment(0) | TrackBack(0) | ■初代「ことば会議室」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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