2003年08月29日

「です」の拡張

 〈「です」の拡張〉という題で書こうと思っていたのと似たことが、佐藤さんによって書かれていました。
ニュース番組やその内容要約などで、「名詞Aガ、名詞Bダ」文型、必要以上に使ってるように思いませんか? (中略)たとえば、「連続ひったくり犯が逮捕です」

私がニュースで特に気になるのが「次です」。それから同時通訳での「誰それです」(「今、発言しているのは誰それです」の意味で)と、(「今、御覧頂いている映像は」と言わずに)「○○です」。

「福岡です」「仙台です」には違和感を感じないので、単なる慣れの問題かとも思いますが。


道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2003年 08月 31日 日曜日 20:13:31)

「次です」じゃ「次(のニュース・話題)です」という省略形だと思います。新聞で言うところの「見出し」のような「テレビニュースの接続詞」でしょうか。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 08月 31日 日曜日 21:02:36)

「次のニュースに参ります」「次のニュースをお伝えします」が、「次のニュースです」になっているのが、「ですの拡張」なのです。

前もどこかで書いた「恐縮いたします」が「恐縮です」になるのも同様でしょうか。

佐藤さんへのリンクがなされていなかったので、張り直します。

充電日記2003年8月


佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 02日 火曜日 10:17:38)

文構造を考えると、2)なんでしょうね。
 1) [12連続ひったくり犯が]22逮捕です]21
 2)[123連続ひったくり犯が]33逮捕]32です]1

 リンクしていただいたところには「新聞の見出しの影響でしょうか」と書いたのですが、たまたま来室されたK先生に話題をふると「(テレビなんだから)画面に出る字幕の方が近いのでは」と。そうですね、ニュースの内容要約や見出しが字幕にも出ますが、それに「です」を直結させた表現かもしれません。
 とりあえず、こんな風に考えています。各ニュースには名称が付けられており、それが新聞の見出しの作り方を見習ったものであって、それにデスを直結したのが「連続ひったくり犯が逮捕です」タイプの拡張になるのかなと思っています。
 ただ、そう考えると「次です」「恐縮です」はまた別途考えることになりそうです(でも、何か関係はありそう。ごくごく低い次元では「言い慣れ」とかも視野に入れて)。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 02日 火曜日 23:29:29)

 佐藤さんのおっしゃるように、また道浦アナもそういう意識をお持ちのようですが、「見出し」ということと関係しそうですね。

 今日は、久しぶりに十時のNHKニュースをじっくりと見たのですが、たしかに、「……です」は、見出し的なものに現れやすいようですね。

 「次です」の他に、「……について、レポートです」「……の事件で、新たな展開です」など。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 03日 水曜日 16:08:22)

うなぎ屋で叫ぶ「ぼくはうなぎだ。」という文のことを連想します。

順序として周知のことから書きますが、奥津敬一郎氏らは、この文を「ぼくはうなぎを食べる。」ということだと解釈し、「だ」は述語を代用すると考えました。つまり「だ」は「食べる」の意味を表しているということです。

この「主語代用説」については、「ノダ説」「コピュラ説」「分裂文説」などの反論があって、奥津氏『「ボクハ ウナギダ」の文法』にはその紹介および再反論も増補されています。ちなみに、「分裂文説」というのは、「ぼく(が食べたいの)はうなぎだ。」と解釈する説です。

今、仮に奥津説に従い「ぼくはうなぎだ。」の「だ」(「です」)を述語の代用としますと、「……について、レポートです。」「……の事件で、新たな展開です。」は、何もめずらしくないことになります。この場合の「です」は「……についてレポートをお送りします。」「……の事件で、新たな展開がありました。」などを「代用」していると考えることが可能だからです。

ところが、われわれの直感では、このような場合、「です」が述語を代用しているとは信じられません。「……について」と来れば、あとの述語には用言が来てほしいのですが、「レポートです。」は、どう見ても体言述語で、「……について」とうまく呼応していないようです。

つまり、「だ」は「(レポートを)お送りする」の代用にはならないし、そこから考えると、「(うなぎを)食べる」の代用になるというのもあやしくなる。奥津氏の説はここに来て難所にぶつかるのである――という考えが湧きます。

ところが逆に、「……について、レポートです。」のような言い方が現実にあることを重視すれば、やはり「だ」(「です」)は「お送りする」(「お送りします」)の代用になっていると考えることもできます。そうすると、「……について、レポートです。」「……の事件で、新たな展開です。」などの言い方は、「だ」(「です」)の「拡張」ではなく、「だ」(「です」)の本来の用法に基づいたふつうの言い方ということになります。

以上、奥津説とからめてこの問題を考えてみたのですが、いかがでしょうか。

一方、「連続ひったくり犯が逮捕です。」の場合は、「です」が述語(たとえば「逮捕されました」)を代用しているわけではなく、述語の一部(「されました」)だけを代用(ということばが使えるなら)しているということになり、奥津説では解けません。ただ、「連続ひったくり犯が逮捕をされました。」ということであれば、「ぼくはうなぎだ。」と本質的に同じ「ウナギ文」ということになります。

「[連続ひったくり犯が逮捕]です。」というような、字幕スーパー引用語法とみれば不自然さは解消されますが、このような言い方は、字幕スーパーや新聞の見出しと関係なく用いられるようにも思います。
 ・「(店頭で)おっ、新製品が発売だ。」
 ・「こんなに成績が悪いのでは、今に契約も解除だ。」
 ・「天ぷらそば一丁〔が〕、追加です。」〔いずれも作例〕
これらは、「ウナギ文」と考えて解けるものか、それとも、やはりテレビニュースと同じく一種の「字幕スーパー引用語法」なのか、この点、判断に迷います。

最後に、「次のニュースです。」「福岡です。」などは、これはその場の状況に支えられて、体言述語だけをぽっと投げ出した言い方だと思います。「こんばんは、7時のニュースです。」「ごはんです。」「閉店でーす。」「はい、おつり。」「はい、夕刊。」などと同類であると思いますが、いかがでしょうか。

なお、私はニュースを聞いていても「……について、レポートです。」のたぐいの言い方は聞き逃していました。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 03日 水曜日 21:07:05)

 なるほど、「ですの拡張」ではなく「ですの安易な使用」というのがよいのかもしれません。

 動詞で終わる文に比べて「名詞+です」で終わる文は作りやすいけれどもやや意味が曖昧になりやすい。あるいは舌足らずな感じを持つ。従って、ニュースなどの文には余り向かない。しかし、近年はそれが安易に使われるようになってきた。

というところかもしれません。

 なお、書こうと思っていた「ですの拡張」には、

今の気持ちを一言で言いますと、どうなりますか?
やったーです。

のようなものも考えていたことを思い出しました。なんでもかんでも名詞化して使うことも、日本語としては許されるものではありましょうが(松下のいう「模型名詞」はそれでしたっけ)、近年それが著しいものにも思われます。


佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 03日 水曜日 21:56:33)

2文の混交で解釈できないかな、と安易に考えたりもしますが、ベースには下にリンクした論文があります(第七節、涙をにじませながら読んだという先輩がおりました)。

「切符の切らない方」の解釋


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 03日 水曜日 22:55:26)

「やったーです。」というような言い方は、今まであまり注意しておりませんでした。「『ファイト一発!』な彼」(週刊朝日 2001.11.02 p.16)というような安易な連体修飾についてはよく指摘されますが、さては双方軌を一にする現象でしょうか。

「連続ひったくり犯が逮捕です」は、上では無理やり(?)「ウナギ文」と解釈してみたのですが、「連続ひったくり犯逮捕です」などというニュースもありそうです。こうなるとウナギ文という解釈はむずかしく、「字幕スーパー引用語法」という考え方の方がしっくりきます。こういう言い方は最近のものか、明治大正にはなかったのかも気になります。

「……について、レポートです。」は、「羅馬字にて日本語の書き方」というような「〜にて」と連用修飾節のあとが体言で終わっている言い方とは関係ないでしょうか。「羅馬字にて……」は文のねじれでしょうか。


いらかおる さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 04日 木曜日 11:50:25)

けさのNHK「おはよう日本」の気象コーナーで、「前線に注目です」と言っていましたが、これは無理でしょうね。


佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 04日 木曜日 13:19:05)

ウナギ文(構文?)を当てはめるなら、次のようかと。

 (次のニュースは) 連続ひったくり犯が逮捕 です。
  僕は       ウナギ         だ。

( )内が省略されたとみる。省略は、表す必要がなければ実現されるわけで、質問への答えでもそう。質問内容は繰り返さなくても(ないほうが)よい。

 (今の気持ちは) やったー です。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 04日 木曜日 14:26:20)

私は、

連続ひったくり犯が逮捕だ。
ぼくがうなぎだ。

というふうに分析すれば、ウナギ文として扱えると思ったのです。「は」と「が」を変えていますが、
  「(おいおい、うなぎを注文したのは彼じゃないよ、)ぼくがうなぎだ」
というのもウナギ文と思われますから、かまわないでしょう。
  「例の連続ひったくり犯は、逮捕だ。」
とすれば、よりウナギ文らしくなります。

「おっ、新製品が発売だ。」「なんてことだ、広島のみならず長崎にも原爆が投下だ」「気の毒に、田中君もリストラか」「あの凸山代議士も、ついに逮捕か」「連続ひったくり犯が、逮捕だ」などはいずれも一種のウナギ文と考えることもできます。この場合、「だ」は「(〜を)された」という述語を代用していることになります。

一方、「次のニュースは[連続ひったくり犯が逮捕]です」とも解釈することができますが、この場合は、「次の歌は[ジュリーがライバル]です」「私の信条は[笑いが一番]です」などと同じく、ウナギ文とは考えにくいのではないかと思います。


佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 04日 木曜日 17:34:37)

ああ。「ウナギ文」を出したのは不用意でした。「うなぎ」の位置にくる要素の性格など、あれやこれや考えているうちに混線しました。省略とした要素との関係が等位過ぎますね。御指摘多謝。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 04日 木曜日 23:04:09)

スタジオには政治部の渕上記者です。(2003.09.04 NHK「ニュース10」今井環キャスター)
この言い方は以前から気になっていました。これは、「渕上記者に来ていただいています」と言えば視聴者に失礼で、かといって、「渕上記者に来てもらっています」「渕上記者がおります」と言えば尊大のようで、どうにも困った挙句、述語を略したものかと思っていました。
ではここから、秋元解説委員とともにお伝えします。(2003.03.20 NHK 武田真一アナウンサー)
これならばスマートかも知れません。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 04日 木曜日 23:58:39)

「やったーです」は、「ですの拡張」というよりも、「安易な名詞化」であると書きました。「安易な名詞化」は、「あなたの〈うれしい〉が、私の〈うれしい〉です」のようなものを考えていましたが、これは引用の問題かもしれない、と。そして、下のスレッドと関連するものであろうと。

「やったー、という感じです」をここに書いていたことでもありますし。

会話に於ける直接話法の疑問文で敬語付き


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 18日 木曜日 21:23:02)

「あなたの〈うれしい〉が……」の類例を。

魚料理の「知らない」「わからない」にお答えします!(「オレンジページ」2003.10.02号)〔朝日新聞2003.09.17 p.23〕
これはカッコ付きで引用そのものですが、「魚料理に関する疑問・質問にお答えします!」でないところが今風です。


道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 19日 金曜日 07:59:59)

スタイリストの女性(20代前半)に、「来週、旅行に行くんだ」と話したら、
「いってらっしゃい、です。」
といわれました。これで思い出したのは、中学や高校の部活動で、女子バレーなどで、後輩が先輩に向かって使う、
「先輩、ガンバです!」
という言い方です。「頑張って下さい」という意味なのでしょうが、「ガンバ!」という掛け声に「丁寧語」にするために「です」を付けている、ちょっと変わった形ですが、中高生には定着しているのではないでしょうか。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 19日 金曜日 09:07:26)

「いってらっしゃい、です」
これはよい例ですね。読点を書いてらっしゃるのをみると、「です」の前にはポーズがあるのでしょうか。
「ガンバです」は、ポーズなしで言っていそうですね。そういえば「はいです」というのも聞いたことがあります、ポーズなしで。

「こんにちはです」もあったような。「ちわー(っ)す」の基底形(?)か。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 11月 05日 水曜日 22:41:00)

2003.11.05 フジテレビ「アサヒビールチャレンジ・アジア野球選手権2003兼アテネ五輪最終予選「中国×日本」」で、長坂哲夫アナウンサーが

タイガースの安藤優也がマウンドです。(
野球中継、ことに民放のそれはあまり見ませんが、常套句でしょうか。これも「ぼくがウナギです。(彼ではないよ)」の類例といえるでしょう。




posted by 岡島昭浩 at 20:30| Comment(1) | TrackBack(1) | ■初代「ことば会議室」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
サザエさんのタラちゃんの影響でございます。
その場合、○○、で〜す。が付きます。代用品が構わないとはいえ、焼き鳥屋でウナギや鯰は豚でもないです。昨今のトンカツの風味はゴマで護摩かされてる。(とんでもないことでございます。)と丁寧に話すのを聞いたタラちゃんは です。の用法を会得するの巻。です。
Posted by Simon at 2007年01月19日 16:18
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ニュースの「ウナギ文」今昔
Excerpt: こちらに「50年前の例」を出しました。「ウナギ文の一種」と解釈しています。
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