限られた世界で通用するからこそ、日本語表現の最前線かもしれないし、次代の表現の先取りかもしれない…… などと考えずに、面白い現象とか言い回しとかがあったら教えてください。
まずは、「○○を発生する」(「気になることば」では既出)。理系ではよく使うようです。「"を発生する"」でググったら約85,900件だそうです。違和感がなくなるのも遠くない?
→ 燃料電池
佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 04日 木曜日 00:51:27)
googleでの検索結果をちょっと詳しく。
「"を発生する"」約85,900件
「"を発生させる"」約121,000件(こちらは違和感がない用法)
「を発生する」が多いといっても、やはり「を発生させる」の方が多数ではある。
上のリンクを読んでいたら「副生する」という言い方がありました。これも検索します。
「"を副生する"」約104件中
「"を副生させる"」4件
こちらは逆転。「副生する」が、「発生する」ほどには一般性がなく(というより一般にはまず使われない)、よりいっそう専門用語的なため、独自用法で使われやすいのかと。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 04日 木曜日 15:20:41)
第一に、外国からカルテルを通じてウランを購入し、通常の原子炉(軽水炉)でこれを燃焼する。〔広瀬隆〕(『日本の論点'95』文藝春秋 1994.11.10 p.346)私ならば「燃焼させる」と行きたいところです。広瀬隆氏は、早稲田大学理工学部卒。理科系の言い回しでしょうか。
佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 09日 火曜日 20:26:55)
「平成一年」
「〈元号〉元年」ではない書き方、史学方面の文章でよく(普通に?)見受けますが、少しずつ広がっているのでしょうか。イデオロギー上の理由で「元年」を用いないのでしたか。
→ あけましておめでとうございます
佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 11日 木曜日 05:10:58)
「片泊まり」
一泊朝食付きのことだそうです。夕食が付くと「両泊まり」かと思うのですが、そういう言い方はないようです。単に「泊まり」というのが2食付きで、夕食なしが変則だったので出来た言い方でしょうか。
リンク先に「京都ではこう呼びます」とあるので、方言語形でしょうか? あるいは他の地方でも言うことがあるのか。
とここまで書いてきて念のためにインターネット版『大辞林』を見ると、「片旅籠(かたはたご)」への空見出しでした。
→ 京の町家で”片泊まり”
UEJ さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 11日 木曜日 22:44:41)
↓のようなページを見つけました。
素泊まり:お泊まりのみ
半泊まり:ご朝食のみ
片泊まり:ご夕食のみ
本泊まり:一泊二食付き
だそうです。
→ ご利用料金
UEJ さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 11日 木曜日 22:47:45)
「夕泊まり(=一泊夕食付)」という用語も発見。
→ 朝日屋旅館料金表
佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 12日 金曜日 00:18:35)
UEJさん、素晴らしい用例をご教示いただき、ありがとうございました!
1)一食欠けるのを「片泊まり」と「半泊まり」で表す荒技。
もともと「片泊まり」と言っていたところに、同じ意味の「片泊まり」が入ってきたけれど、駆逐できなかった。そこで、両者併用する代わりに意味をずらすことにした…… といったストーリーが浮かびます。方言地図上ではおなじみ。
2)一食欠ける「片・半泊まり」に対して「本泊まり」。
さすがに「両泊まり」では、あんまりですよね。反省(笑)。
3)「夕泊まり」
現実的な表現で分かりやすい。「半泊まり/片泊まり」では混乱しやすいことから生まれた表現なら、お話としては興味深いのですが、そこまで考えるのはそれこそ考えすぎかもしれませんね。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 12日 金曜日 01:51:50)
部分だけ、という連想で「みどり」というのを思い出しました。
「時代物は原作がおもしろい。全段通すと部分の良さが立ち上がる。部分だけの、みどり上演で芸だけ見ろと言っても若い観客には無理。ハムレットだって墓掘りの場面だけやってもわからない」〔市川猿之助〕(朝日新聞夕刊 2000.02.14 p.17)何これ、「みどり」は「緑」? と思って『大辞林』をみると「見取り」の項にありました。
(「緑」とも書く)歌舞伎・浄瑠璃を、通し狂言として上演せず、一幕・一段ずつを適当に組み合わせて上演するやり方。幕末以降はこのやり方が多い。「―狂言」この「『緑』とも書く」というのはおもしろいと思いました。新聞記事はそこを踏まえてかな書きだったか。『日本国語大辞典』には江戸時代の用例も載っています。
通にとっては当たり前のことばかもしれませんが、私は「通し狂言」しか知りませんでした。一般にも知られていないであろうことは、Googleを見てもわかります。「"通し狂言"」の2710件、「"通し上演"」の766件に対し、
・「"見取り狂言"」は21件、「"緑狂言"」は0件、「"みどり狂言"」は20件。
・「"見取り上演"」は6件、「"緑上演"」は0件、「"みどり上演"」は、上記記事の引用1件、他の関係ないの1件で計2件。
・「"見取りで"」の形は135件あったが、そのうちそれらしいのは7、8件程度。
通は「見取り」「見取り」と多用しているのかもしれません。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 12日 金曜日 01:54:48)
> ・「"見取りで"」の形は135件あったが、そのうちそれらしいのは7、8件程度。
これは探し方が悪いかもしれません。もう少しあるかもしれません。
佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 12日 金曜日 10:44:08)
訂正。ついでにちょっと書き換えます。「片」が先なら「半」が後、「半」が先なら「片」が後、という風に。
誤:もともと「片泊まり」と言っていたところに、同じ意味の「片泊まり」が入ってきた
正:もともと「片(半)泊まり」と言っていたところに、同じ意味の「半(片)泊まり」が入ってきた
UEJ さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 13日 土曜日 09:43:06)
↓のページには「チェックイン20時以降は朝泊まりとなります。」とあり。
おそらく朝食のみということなのでしょう。
→ 海潮温泉 あめや荘別館
佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 13日 土曜日 15:44:55)
「緑上演」「朝泊まり」! ここまで興味深い例が出てくるとは……
「見取り→緑」の連想で、ジョウビタキという小鳥の漢字表記を。
図鑑では「上鶲」「尉鶲」と二様あり、どうやら前者が優勢のようです。以前、菅原浩・柿澤亮三編著『図説日本鳥名由来辞典』(柏書房, 1993)でみたら、どちらにも古めな(といっても室町くらいだったか)典拠があり、どちらに決めるかは保留していたように思います。
さいわい『日葡辞書』にも立項されていて「I∧obitaqi」。オ段長音が合音なので「尉鶲」が正解かなと、自分ではけりをつけています。たしかに頭が銀白色なので言い得た名前だなと納得しているところ。ところが、『邦訳日葡辞書』には訳者注として「I∨obitaqi(ジャゥビタキ)の誤りか」と開音を示唆しています。「上鶲」とのみ表記された参考文献に依ったのでしょうか。
ここまで書いてきて、あるいはすでに誰かが指摘してそうな気がしてきました。『日国2』『時代別室町』はともに「尉鶲」のみ掲出。
→ ジョウビタキ(タジマニア特別保護区さん)
佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 18日 木曜日 22:44:39)
そうそう、花火の開き方もこちらにリンクさせてください。
境目が二つあるのが八重芯(やえしん)
境目が三つあるのが三重芯(みえしん)
逆ではありませんよ。
→ 大曲の花火とは(一番下の方に記述あり)
佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 29日 月曜日 16:35:32)
まえに製本屋さんの符牒を紹介した。当然、活版屋さんには”文選読み”という文字(活字)の呼び名がある。例えば、(下段は同音異字の例)
日 にちヒ (きさきヒ 妃)
本 もとホン (はしるホン 奔)(他四例を省略──佐藤注)
などというように、和訓と音を同時にいい、文選棚に残り少なくなった活字を補給させたものだ。(横山和雄『出版文化と印刷』出版ニュース社 1992)
普通なら、前がモンゼンで、後がブンセン。が、読み進めてきて「文選棚」と出てきた瞬間、印刷業界だと前のもブンセンヨミと言うのかもしれない、などと思ったことでした。振り仮名はなし。どなたか御教示を。
佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 30日 火曜日 00:57:50)
これでいいのか…… 実はこれが正しい、とか。↓
→ 書誌データの作成及び提供(国会図書館)
道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 30日 火曜日 02:31:29)
専門用語ということで・・・黒部ダムに行ったのですが、そこに書かれていた言葉で「打設(だせつ)」というのが、コンクリートの打ち込みのの様です。私は初めて耳にしましたが、土木関係者では常識の言葉のようで、Google検索でなんと39万件(!)もありました。
後藤斉 さんからのコメント
( Date: 2003年 09月 30日 火曜日 14:50:25)
>Google検索でなんと39万件(!)
普通に「打設」を検索すると「打 設」を検索した場合とほぼ同じ数字が出ます。語の検索としては、したがって、フレーズ検索結果の「約22,900件」の方が実情に近いものと思います。これでさえ、実際には何を数えて出てきた数字なのか、私にはよくわからないのですが。
圧接技術の用語として「かしめる」という動詞があって「かしめ工具」といった
使い方もするようです。『日本国語大辞典』には方言としか載っていないのですが。
→ Google検索 "打設"
NISHIO さんからのコメント
( Date: 2003年 11月 16日 日曜日 02:18:14)
「元年」のこと。
表計算ソフトのExcelは日付を元号で表示すると「1年」になってしまいます。
入力する際も「元年」と書くと日付とは認識せず、文字扱いになります。
シリアル値 yyyy/m/d形式 ggge年m月d日形式 ge.m.d形式
4,594 1912/7/29 明治45年7月29日 M45.7.29
4,595 1912/7/30 大正1年7月30日 T1.7.30
9,855 1926/12/24 大正15年12月24日 T15.12.24
9,856 1926/12/25 昭和1年12月25日 S1.12.25
32,515 1989/1/7 昭和64年1月7日 S64.1.7
32,516 1989/1/8 平成1年1月8日 H1.1.8
仕事上は元号表記を一切使わないので支障はありませんが、これだけはずっと気になっています。
NISHIO さんからのコメント
( Date: 2003年 11月 16日 日曜日 02:31:54)
「押下」
「おうか」と読みます。国語辞書に載っていませんが、電気通信業界ではふつうに使われています。「電鍵押下」「改行キー押下」など。
「電釦押下」というのも何度か見たことがあります。読み方は不明です。
NISHIO さんからのコメント
( Date: 2003年 11月 16日 日曜日 02:54:56)
「活線(かっせん)」
通電状態の電源線。「活線作業」などといいます。広辞苑には載っていませんが、ハイブリッド新辞林にはありました。
「厚膜(あつまく)」と「薄膜(はくまく)」
半導体用語です。「厚膜IC」「薄膜技術」など。なぜか片方だけ湯桶読みです。
植物組織のほうは「厚膜(こうまく)細胞」と言うようですが。
高杉親知 さんからのコメント
( Date: 2003年 11月 30日 日曜日 16:49:42)
初めまして。高杉と申します。
「律速(りっそく)」は需要が大きいようで、普及させる会まで存在しますね。
http://www.h3.dion.ne.jp/~nahonoro/
ディスプレイ業界で使われている「むら」(表示輝度の不均一性)はいまや mura として英語でも使われるようになってきています。
「画素(がそ)」は画面の各点のことですが、赤緑青の三原色の場合、三画素で一まとまりになります。これを「絵素(えそ)」といいます。
画素のうち、回路などを除いて実際に光が通る部分を「開口部(かいこうぶ)」といいます。建築の流用でしょうか。
製造途中の不良判定基準が最終段階のものより厳しい場合、不必要に不良品と判定されてしまいます。これを「逆鞘(ぎゃくざや)」といいます。