2004年03月30日

さんざめく(道浦俊彦)

森山直太朗『さくら』の中で
「さんざめく光の中で」
というフレーズが、夏川りみ『満点の星』の中では、
「さんざめく天河」
というフレーズがあります。思い起こせば谷村新司『昴』の中に、
「嗚呼さんざめく名も無き星たちよ」
とあって、それ以来かもしれないなと思いつつ、この「さんざめく」、辞書には「音」のことしか書いていません。『日本国語大辞典』は、
「ざんざめく」=(「ざざめく」の変化した語。「めく」は接尾語。「さんざめく」とも)大ぜいで声をたてて騒ぐ。にぎやかに騒ぎたてる。ざんざらめく。」
とあります。
これらの歌で使われているのは「光」です。視覚と聴覚が合体したのでしょうか。こういった「さんざめく」の使われ方は、いつ頃からなんでしょうか?もう認知されていると言ってよろしいでしょうか?視覚の「さんざめく」が載っている辞書はあるでしょうか?


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2004年 03月 31日 水曜日 14:14:30)

「弦歌さんざめく」(歓楽街で、三味の音や歌がにぎやかに響く)などというのですね。慣用句とまでは言えないのでしょうけれども。戦前の前田一「サラリマン物語」(1928)には

絃歌さんざめく紅灯の巷、なまめかしい三絃の音{ね}じめにつれて、
とあります。

ほかにも火野葦平「黄金部落」(1947-48)に「弦歌さんざめく町の雑踏を抜けて」。

野坂昭如「プアボーイ」には「さすが絃歌こそさんざめかぬが」(CD-ROM「新潮文庫の100冊」より、1968年の作品集に収録とのこと)。

尾崎士郎「人生劇場〔残侠篇〕」に「何時の間にか酔っぱらって絃歌{げんか}のさんざめく秋の夜の色街をあるいている」(CD-ROM「新潮文庫の絶版100冊」より、発表年は?戦前だと思いますが)。

どうも「昴」などのしずかなイメージとは違うようです。「ささめく」(ひそひそと話をする)との混同があるのでしょうか。

「昴」(1980年)は大ヒット曲だったので、他の作詞家に与えた影響は大きかったのでしょうか。以下は同一作家のものです。

夜めざめれば 窓の彼方に
さざめく 水銀の星たち(谷山浩子作詞作曲・歌「地上の星座」1982年)

いつのまにかさざめく 星たちの海原に
ぽつり浮かんだわたしの船は(同「船」1983年)

窓をあければ 暗い夜空に
いちめんの星たちが 光りさざめく(同「銀河通信」1984年)

これらは「さざめく」ですが、やはり従来は「笑いさざめく」のように使ったものでしょう。


後藤斉 さんからのコメント
( Date: 2004年 03月 31日 水曜日 14:52:59)

「さざめく/さんざめく」はにぎやかさの文脈で使われた例がやはり多いようです。いささか例外的な使い方にみえるのが:

辺りは静かで、木立の隙間から波のさざめく音が微かに聞こえてくる程度です。
  つかこうへい  あなたも女優になろう〜素敵な女性になるためのヒント〜

深沈とした黒の重厚な漆塗りの椀のなかにあのさんざめくような澄明のスープをみたして、香りに眼を洗われるような想いをしながら、ひとくち、ひとくち、ゆっくりとすすりたいと想いつめたくなるのは、どうしてだろうか。
  開高 健  新しい天体

屏風の金色を映した舞妓の簪だけ、ひとり、さざめく水のようにひらひら黒髪の中で揺れていた。
  横光利一  旅愁


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2004年 03月 31日 水曜日 15:26:45)

 オリオン舞い立ち
 スバルはさざめく
としたのは、堀内孝雄ならぬ、堀内敬三ですね。「冬の星座」


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2004年 03月 31日 水曜日 16:44:02)

後藤さんがお示しの横光のように、揺れるように光る様子を指すことがあるようですね。

スカートも普通の制服のよりはずっとこまかい棕梠《しゅろ》の葉のような襞《ひだ》で、歩くと腰のあたりでさざめくように崩《くず》れてゆれるのが粋《いき》だった。(平林たい子「ある思春期」)

細い首をしなしなと動かして、口のあたりで真向なレースのハンケチをもてあそんでいる指には、冷たいダイヤモンドがさざめくように光っていた。(平林たい子「地底の歌」)


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2004年 04月 01日 木曜日 00:26:51)

大辞林「さざめかす」で、

(1)ざわざわさせる。ざわつかせる。
「艦は金波銀波を―・して/不如帰(蘆花)」
とする用例も、揺れるように光る様子を表していると解することもできそうです。
『不如帰』下・一「陰暦八月十七日の月東にさし上り、船は金波銀波をさざめかして月色の中を駛る」

「スバルはさざめく」の「冬の星座」ですが、「しじまの中」は一番ですが、二番も静かな情景の中にあるのでしょう。昭和二十二年発表。

大辞林「さざめかす」


道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2004年 04月 01日 木曜日 07:25:26)

岡島さん、「冬の星座」は、たしか讃美歌に歌詞をつけたものですね?小学校の頃(昭和40年代)、音楽の教科書に載っていましたが、歌詞は覚えていませんでした。


posted by 岡島昭浩 at 23:07| Comment(0) | TrackBack(0) | ■初代「ことば会議室」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック