2001年04月13日

東・西・南・北(道浦俊彦)

4つの方角を言う場合の順番などに関しての質問です。
ふつうは「東西南北(とうざいなんぼく)」と言いますよね。
これが麻雀だと「東南西北(トン・ナン・シャー・ペー)」となります。
そして、NEWSは「北東西南」の順です。
国によって、順番は違うのでしょうか?基準は何でしょうか?

それから、4つのうち2つの方角を言う場合も、「東北」と言ったり「北東」と言ったり、「東西(とうざい)」といったり「西東(にしがし)」と言ったり、「北西」と言ったり「西北」と言ったり、順番がバラバラですが、何か基準はあるのでしょうか?
どなたか、よろしくご教示ください。お願いします。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2001年 4月 13日 金曜日 14:00:45)

 東西南北は、「東西」と「南北」を組み合わせたもの、「東南西北」は麻雀の順序ですよね。ちょっと性格が違うようにも思います。

 NEWSの語順は、方位の順序として使ってよいのでしょうか。

 未確認ですが、「西北・東北・西南・東南」が伝統的な言い方で、「北西・北東・南西・南東」と、南北を先に言う言い方は翻訳語的なものあろうと思います。

「とうざい」と「にしひがし」は、中国語の語順と、日本語の語順の違いになりますね。「さゆう」と「みぎひだり」などのように。これは言語による習慣の違い、と考えるところですが、その習慣を作った原理があるはずだ、という研究もあります。音の性質であったり、「認知」であったり。


小駒勝美 さんからのコメント
( Date: 2001年 4月 16日 月曜日 15:17:58)

直接関係ないかもしれませんが、麻雀の「東南西北」が実際の方位と裏返しの
関係になっているのはなぜでしょうか。
(以下は等倍フォントで見てください)

  北
 ┌─┐
東│ │西
↓└─┘
 →南   


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2001年 4月 16日 月曜日 21:11:48)

私は昔、大学で中国語を履修したのですが、そのときは「東南西北」と習った覚えがあります。

いま小学館『日中辞典』を見てみますと、「方角」の項目に

ほうがく【方角】…私はよそへ行くといつも〜がわからなくなる/我一出門就総是分不清東南西北
とありますので、「麻雀では東南西北」ということではなく、現代中国語においても東南西北というとらえかたでよいと思います。

ご参考までに。


かねこっち さんからのコメント
( Date: 2001年 4月 17日 火曜日 7:58:12)

小駒勝美 さん

>麻雀の「東南西北」が実際の方位と裏返しの関係になっているのはなぜでしょうか。

ある中国人(台湾の)に聞いた話によりますと、麻雀の台は「天」を表現しているそうでありまして、競技開始の際、麻雀の全ての牌は一見伏せられているようであるけれども、実は天空に向かって開かれているのだそうです。
地上にいる我々(つまり遊技を行う者)は空を見上げている格好となるわけですね。

小駒さんの図解を俯瞰するのではなく、下から見上げていると考えると実際の方角と一致しますね。


小駒勝美 さんからのコメント
( Date: 2001年 4月 17日 火曜日 11:45:04)

かねこっち様

ありがとうございました。納得しました。
麻雀は天上(星界)の競技だったわけですね。


道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2001年 4月 20日 金曜日 16:23:10)

皆さんありがとうございます。
そういえば、麻雀と同じ並びなのが、、キトラ古墳の四面に描かれた「青龍・朱雀・白虎・玄武」が「東南西北」で、さらに天井には星図が描かれていました。
古墳と麻雀、意外なところで中国とつながっていますね。よく考えると不思議はないわけですが。
そうすると、古来、「にしひがし」「きたみなみ」、「東西」「南北」の和語の世界と、中国の「東南西北」(トンナンシャーペー)があって、ともに「東西」が優位な軸としてあって、「東西」「東南」「東北」のように「東」が先にくるものと、「西北」「西南」西が先にくるものがあって「南」と「北」では「南北」の順。それぞれの優先順位は「東西南北」ということ。(都の西北、西南の役、東西対抗、東北地方など9
そこに明治以降に欧米の「北南」を軸とする、方位の順番が入ってきた。
「北東」「北西」「南西」「南東」「南北」はその順番。(南西航空、北東の風2メートル、北北西に進路を取れ・・・でしたっけ?、南東の風1メートル=気象用語は欧米風か。南北戦争=南北は欧米と日本・中国と同じなのか?)
だからそれがぐちゃぐちゃに混じって混乱している・・・ということでしょうか?
あー混乱してきた!!


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2001年 4月 20日 金曜日 16:41:17)

 中国でも古くは「東西南北」という言い方があり、孔子は「東西南北人」でありました。


道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2001年 4月 21日 土曜日 10:24:09)

キトラ古墳より孔子のほうが当然古いですよね。
そうすると、「東西南北」のほうが古いのですかね。
孔子の時代に麻雀はなかったのかな?


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2001年 4月 22日 日曜日 23:08:16)

>キトラ古墳の四面に描かれた「青龍・朱雀・白虎・玄武」が「東南西北」で、

この部分、よくわからないのですが、四面の順序を「東南西北」で書いて行くのは現在の見方ではないのでしょうか。「青龍・白虎・朱雀・玄武」と書いてもいいのではないでしょうか。


道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2001年 4月 23日 月曜日 10:43:46)

いえ、そういう事ではなく、(文章で順番を書いてあったのではなくて、)天井を真ん中にした図面が新聞に載っていて、それによると、そういう配置だったということなんですが。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2001年 4月 23日 月曜日 15:46:48)

 麻雀と同じだ、というのはわかるんです。

 しかし、それは「東南西北」という順序を示すものにはならないので、孔子との(礼記ですが)、先後関係は考える必要はないでしょう、ということです。


岡島 昭浩 さんからのコメント
( Date: 2001年 6月 28日 木曜日 17:35:03)

 『言語生活』144(1963.9)のp84「こんなことがある 社会科・理科の方位(北島和)」

 日本語では方位を示すのに東西南北と並べるが、これが欧米では北南東西であることは大人には耳新しいことではなく、周知の通りである。


道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2001年 6月 28日 木曜日 19:06:14)

1963年に「子供」だった私は、当時すでに「大人」だった、両親に、耳新しいことかどうか、聞いてみることにします。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2002年 08月 10日 土曜日 13:55:11)

話が逸れるようですが、多少の関連はあると思われますので、こちらに。

司馬遼太郎氏は「東北というのは戦後」の言い方だと述べています。博学の作家の発言なので、つい信じそうになりますが、ちょっと考えるとおかしい。東北本線は1891年開通。東北帝国大学は1907年誕生。『日本国語大辞典』の「東北」には与謝野鉄幹の用例(1896)が出ています。東北は戦前から東北と言ったのでしょう。

真意不明ですが、めずらしい発言なので記しておきます。

 井上〔ひさし〕〔略〕伊能忠敬を書いたときに調べたんですが、昔の地図というか、案内書がありますね。何宿から何宿までが何里何町というもので、米沢あたりは非常に厳密に作られています。たいした宿場もないんですが、きっちり里程を記している。やはり紅花の輸送をするため、馬方への報酬を距離で出していたんでしょうね。非常に近代的なことをしている。ところが仙台から北に行くと、もうめちゃくちゃです(笑い)。伊能忠敬が実際に歩くと、全然違う。江戸後期になってもおおらかというか、いいかげんというか。そういうところから見ても、東北はばらばらですね。
 司馬〔遼太郎〕 しかし語感としては、東北と言うよりも奥州と言ったほうがいいですね。私が小学生のときは奥羽と習いました。東北というのは戦後ですね
 井上 東北と言うと文化的にレベルが低いような響きさえ感じます。関西も近畿と言ったほうがいいですね。
(週刊朝日 2001.11.09 p.159)


後藤斉 さんからのコメント
( Date: 2002年 08月 12日 月曜日 19:23:54)

明治天皇は明治9年に「東北巡幸」を行っています。

>明治天皇は、明治9年6月2日から7月21日にかけて東北各地を巡幸された。
>「東北御巡幸記」という随行記者の記録がある。

「東北御巡幸記」は国立国会図書館のOPACで「明治文化全集」への収録が確認できます。(リンクがたどれるでしょうか?)
http://webopac2.ndl.go.jp/ows-bin/syousai.cgi?tmp_11493_6948&SORTKEY=0
明治文化全集  第1巻  明治文化研究会‖編
東北御巡幸記 岸田吟香編(明治9年刊)

したがって、「東北」は明治初年にはさかのぼります。

私論・天皇観の遍歴(U) 


後藤斉 さんからのコメント
( Date: 2002年 08月 12日 月曜日 20:47:09)

いささか長く、前項と多少食い違いますが:

樺山紘一ほか『対話「東北」論』福武書店, 1984
p.13 岩本由輝の発言
「東北」というとらえ方はおそらく新しいものです。戊辰戦争の過程、なお
明治と改元される以前の慶応四年七月頃に木戸孝允が「東北諸県儀見込書」を
書き、「東北ハ関已西ト違ヒ」といっているあたりが「東北」という表現の
使いはじめじゃないでしょうか。しかしそれが用語として定着をみるのは、
上野を基点にした鉄道ができてはじめて、東京なり関西なりから方角的に
具体的に認識できるようになってからじゃないかと思いますね。明治九年と
十四年に明治天皇が、いわば占領地であるこの地方を巡幸していますが、
そのときの呼び方は二度とも「奥羽巡幸」です。私は、明治十五年に
日本鉄道が東北線をつくったとき、奥羽じゃなくて「東北」という呼び方が
出てきているのに注目したいんです。その東北線の全通が明治二十四年で、
三十一年に常磐線、三十八年に奥羽線が全通して、そのへんで「東北」が
できあがる。


かねこっち さんからのコメント
( Date: 2002年 08月 13日 火曜日 10:43:28)

「青龍・朱雀・白虎・玄武」という順序は「青春・朱夏・白秋・玄冬」という季節
と対応していて、この順序はそのまま自然の順番でありますから、動かせないので
はないでしょうか。
また「青龍・朱雀・白虎・玄武」の四神は、それぞれ「東・南・西・北」の方位を
つかさどっているということですから、中国で方位を「東南西北」という順序でよぶ
のは必然性があってのことではないでしょうか。

東西南北というのは方位を精密にいう場合にもちいる言葉ではなく、あちらこちら、
どこでも、というような意味合いをもつように思うのですがいかがでしょう。

孔子の「東西南北人」というのは、あちこちさすらう人というほどの意味ではない
でしょうか。

現在中国で「東西」というと「品物」という意味となっているようですが、これは
あちこち流通するもの、といった意味合いのような気もいたします。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2002年 08月 13日 火曜日 23:24:13)

 なるほど、かねこっちさん、五行ですね。

 すると、「東西」にあたるのが「春秋」というわけですね。「春秋夏冬」という言い方はあったりするのでしょうかね。


UEJ さんからのコメント
( Date: 2002年 08月 14日 水曜日 04:13:25)

結構引っかかります。

Google 検索: 春秋夏冬


道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2002年 08月 21日 水曜日 11:53:43)

「春秋(ハルアキ)」は慶応義塾塾歌(作詞・富田正文)にも出てきます。
3番の歌詞で
「春秋深め 揺るぎ無き」
です。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 03月 28日 金曜日 08:13:04)

上のご発言、

> 未確認ですが、「西北・東北・西南・東南」が伝統的な言い方で、「北西・北東・南西・南東」と、南北を先に言う言い方は翻訳語的なものあろうと思います。

に関連するかと思いますが、学生が試験答案で次のように書いていました。

社会の地理では方位は南東と読むのに、どうして東南アジアというのかといわれた日にはこたえられません。
なるほど、答えにくいことです。Southeast Asia の翻訳ならば南東アジアでよさそうですが。

これについて小野正弘氏は「日本語学」2002.11増刊「日本語あれこれ事典」の中で「南東・南西・北西・北東」などは〈方角〉、「東南・西南・西北・東北」などは〈地域〉であると意味の違いを説明しています。

また「東南」は平安時代からあるのに対し、「南東」は明治時代から〔注、しかし『日本国語大辞典』によれば「南東」は地方凡例録(1794)にもある、また「たつみ」の読みでは書言字考節用集にも〕というふうに新旧が分かれるとも説明しています。つまり、旧の言い方が〈地域〉の意味に、新の言い方が〈方角〉の意味に分化、特化したというご見解のようです。

私も基本的に賛成したいと思います。

文化庁『言葉に関する問答集 総集編』(財務省印刷局)では、測量の歴史に詳しく触れたりしてちょっと読みにくいのですが、新旧を軸に論じています。「土地・地域などでは「東、西」を先にする習慣が古くからあり、気象や航海に関しては、西洋流の「南、北」を先にする習慣が受け継がれて用いられているということになろう。」とあります(p.598)。「気象や航海」を「方角」と読み替えれば小野氏の説と同じになります。

ところが、地域に関して、旧の言い方である「東南アジア・東北地方・中国東北部・西南戦争・西南学院大学・都の西北」などがある一方で、新の言い方である「北東アジア・南西諸島・南西アフリカ(ナミビア)」もあり、混沌としてまいります。『言葉に関する問答集』には「例外として」、南西諸島・北西太平洋海膨・北西太平洋海山群が挙げられています。しかし、例外として処理しうるものでしょうか。

「東南アジアとは言うが、東北アジアと言わぬのはなぜか」と質問されれば、ちょっと返答に窮します。


浜通り中通り さんからのコメント
( Date: 2003年 04月 18日 金曜日 06:03:28)

初めて書き込まさせて頂きます。

南西諸島や南西アフリカについてですが、

これは、暗に「南の方の西」という意味合いを込めて、南西の順番になっているのかと思います。
たとえば「西南アフリカ」だと、あたかも「西アフリカ」の「南」の方というニュアンスが感じられてしまう恐れがあり、「アフリカ」の「南」の方の「西」にあるこの地域を、「西南」と訳すのは問題があると考えられたのではないかと思います。(西アフリカはセネガル・ギニア・マリ等のアフリカ大陸の北の方の西の地域のことです)

「南西諸島」は、日本の「南の島で、西の方にある島々」というニュアンスを出したかったのだと思います。たとえば本土から沖縄に旅行に出かける人が「南の島に行く」とは言っても、「西の島に行く」とは言いませんし。それに「日本から南西の方角に向かって延びていく島々」というニュアンスも出せますし。

そもそも、これらの地名は、学者などが明治以後に翻訳したり名付けたりしたのでしょうから、わかりやすさを優先して決められたのかも知れません。そういえば、アジアは普通「西アジア」と「東アジア」に分けられるので、「東南アジア」は、「東アジア」の「南」の方という意味も込められているのかと思います。

そういう意味では、「北東アジア」は不思議な言い方ですが、これは、中国の「東北三省」や、日本の「東北地方」と紛らわしくなるからなのでしょうか。下の参照したページによると、北東アジアは、「環日本海経済圏」などの、「日本海に面する裏日本の意義を主張する立場」から使われ始めた言い方らしいので、そういう意味でも混乱を避ける意味合いがあったのかと思います。但し、このページでは、外務省の「方角の読み方を英語にあわせる習慣」の影響が書かれてもいます。

もっとも、現代にあっては、新しい地域名を言い始める人が、「都の西北」のような漢文的な言い回しが存在することにそもそも気付いていない、ということは十分考えられますが。

講演「北東アジアの近況」


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 11月 11日 火曜日 18:48:50)

上記「講演「北東アジアの近況」」はこちらに移動しているようですね。

上記講演では、「北東アジア」「東北アジア」の問題は枕として触れられています。これを主題とした文章が「朝日新聞」夕刊 2003.11.11 p.11に載っています。「呼び名に潜む大きな溝/「東北アジア」か「北東アジア」か」(和田春樹(東京大名誉教授・ロシア史)。

〈日本以外の漢字圏の国々では、「東南アジア」と並んで、「東北アジア」という言葉と認識が確立している。漢字文化圏では、東西を前に出して、南北を後ろにつけるのが不動の語順である〉、しかるに日本(とりわけ外務省)だけは英語の言い方に合わせ「北東アジア」を使っていると指摘。さらに

 漢字文化圏の言葉をとらず、英語の直訳である「北東アジア」を使うのは、小さな脱亜入欧であり、地域構築の戦略上愚策である。それに「北東アジアと東南アジアの連携」と言ったら、美しくない。
と主張。

ではなぜ「東南アジア」? 和田氏の文章では

石井米雄氏によれば、「東南アジア」という認識が英米で確立したのは戦中戦後のことであったという。戦中戦後の日本人は、「Southeast Asia」という言葉を見て、迷いなく「東南アジア」と訳した。朝日新聞では、一九四五年十一月五日号に、ロンドン電により「東南アジア方面に拡大中の政情不安」について報じている。
しかし、『日本国語大辞典』には「東南アジア」は坪内逍遙「内地雑居未来之夢」(1886)の例が出ており、和田氏の説明は史実に合っていないのではないか。「東南アジアとは言うが、東北アジアと言わぬのはなぜか」に関しては、よく説明してあるとはいえないようです。


posted by 岡島昭浩 at 09:47| Comment(1) | TrackBack(0) | ■初代「ことば会議室」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
一海知義「東西南北と東南西北−日本と中国の方位」『図書』岩波 2003.11

というのがあります。

http://shisly.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_7230.html
にも見えます。
Posted by 岡島昭浩 at 2008年05月19日 23:05
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