「中」の字音仮名遣いは「チユウ」であると思いますが、これが『新日本古典文学
大系』の何かの巻をみていましたら、実は最近の研究では「チウ」というのだと書い
てあったのであります。
後日、それを思い出していろいろ資料を見てみましたが根拠が分かりません。のみ
ならず、その『新大系』もブックマークをしていなかったため、何の巻だったか分か
らなくなってしまいました。その巻では、「住」とか「重」とかの字音仮名にも言及
していたと思いますが定かでありません。
現行の辞書は『新明解』『学研漢和大字典』『大字源』など手元のものを見ても、
みな「チユウ」です。「チウ」と書いてあったあれは幻だったのでしょうか。
岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 1997年 3月 05日 水曜日 17:15:03)
反応が遅くて済みません。書きかけの時にハングアップしたりして往生しました。
沼本克明氏の『日本漢字音の歴史』(東京堂1986.6.25)ではp255あたりに論がありますが、p28の表や、それらを圧縮したp42の表でみれば、東韻の三等などではiユウではなく、iウが本来の形であるということのようです。
沼本氏の大著『平安鎌倉時代に於る日本漢字音に就ての研究』(武蔵野書院1982.3)では、p557あたりに呉音の事が、p751あたりに漢音の事が書いてあります。
ややこしいことを忘れますと、「菊キク」「竹チク」などがキュクやチュクでないこととの対応からすると「窮キウ」「中チウ」がキュウ・チュウでない方がすっきりはします。
まあ、いろいろと問題がある訳で、従って下の様な論文があるわけです。
イウからユウへの転化の問題 佐藤喜代治 『国語学研究』3(1963.6)
ウ段拗音 高松政雄 『国語国文』39-7(1970.7)
「シウ」「シユ」「シユウ」 江口泰生 『文献探究』18(1986.9)
三番目のものにあるようにサ行音はちょっと問題になります。
范煎 皓茗 さんからのコメント
( Date: 1997年 3月 05日 水曜日 23:42:18)
唐突な質問に、お教え有り難うございました。
ずっと喉元にひっかかっていました。さっそく参照してみます。
なお、このことを初めて目にしたのは新日本古典文学大系『続日本紀』だったこと
が分かりました。凡例にこうあります。
>> 十四 字音仮名遣いについては、合拗音を採用し、また近年の字音研究の成果を
>> 採用した。旧来の仮名遣いと異なる主なものを以下に挙げる。
>> キウ(弓) クヰ(帰) クヱ(化) シウ(終) ジウ(充) チウ(中・虫・柱・
>> 駐・厨) ヂウ(重・住) ホウ(宝) ボウ(帽) モウ(毛) リウ(隆) イウ
>> (融)
この本は1989年3月刊ですが、以後に出た『大辞林第二版』『新大字典』なども、
これらの仮名遣いは採用していないようです。辞書はそれだけ慎重なのでしょうか。