誤写の推定
岡島昭浩
- 04/10/10(日) 13:27 -
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「目を引く誤植」の関連スレッドです。
たまたま、桑原博史全訳注『西行物語』講談社学術文庫(平成10.11.6)を見ていて、
家豊かにしては、須達壇弥梨が勢ひを移し、所従・眷属・七珍万宝に飽き満てり。(p23)の、「須達壇弥梨」に、「しゅだつだんやり」というルビがついているのが、まずは目に入りました。p26の注を見ると、
須達壇弥梨《しゅだつだんやり》 「須達」は須達多《しゅだった》ともいい、古代インドの斜衛《しゃえ》国の長者。釈迦に仕え、祇園精舎を建てた。「壇弥梨」は不明。あるいは「須達多|闍梨《じやり》」で、「闍梨」は僧を示す阿闍梨の意か。とあります。
翻刻凡例には、片仮名を平仮名に改めたなどとは書いてありませんから、板本も平仮名なのでしょうが、この誤写を考えるならば、書承の途中に片仮名本の存在が考えられます。「タシヤリ」が「タンヤリ」に変わったのでしょうから。あるいは、平仮名本でも「之」から「ん」への誤写、ということも考えられましょうか。
ともあれ、この本の影印本も出ているようですから、それを見ないと何も言えませんし、諸本を付き合わせねば、誤写の推定などしてはいかんのですが、たまたま眼につきましたので、書き付ける次第。
【452】
Re:誤写の推定――須達壇弥梨
Yeemar
- 04/10/10(日) 15:37 -
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▼岡島昭浩さん:
>の、「須達壇弥梨」に、「しゅだつだんやり」というルビがついているのが、まずは目に入りました。
これは、かなが先にあって、それに書写者なりが漢字をあてたのでしょうか。〈「壇弥梨」は不明〉とあるからには、この用字は校注者の与り知らぬものでしょうね。
「や」に「弥」をあてると訓でよむことになりますから、中国の用字ではないのだろうと思いますが、インド人の名前に訓仮名をあてたりすることがあるのでしょうか。
【453】
Re:誤写の推定――須達壇弥梨
岡島昭浩
- 04/10/10(日) 17:01 -
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▼Yeemarさん:
>>の、「須達壇弥梨」に、「しゅだつだんやり」というルビがついているのが、まずは目に入りました。
>「や」に「弥」をあてると訓でよむことになりますから、
ええ、それで目についたのです。
底本は、正保三年版本ということですが、
底本の仮名を適宜漢字に改め、仮名づかいを歴史的仮名づかいに統一し、当て字は普通の表記に改めるなど、表記上の統一と整理をはかった。ということなので、影印を見ないことには、話が始まらないと思いはするのですが、ここにメモでもしておかないと、忘却のかなたに消えてしまうだろうと思い、書き付けた次第です。
【467】
Re:誤写の推定――須達壇弥梨
佐藤
- 04/10/14(木) 10:12 -
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▼岡島昭浩さん:
>影印を見ないことには、話が始まらないと思いはするのですが、
とりあえず一つ。霞亭文庫本。見開き左5行目。版本のようですが、刊記欠。
奈良絵本も参考になりましょうか。同名の京都大学本。見開き右、後ろから4行目。
【468】
Re:誤写の推定――須達壇弥梨
岡島昭浩
- 04/10/14(木) 22:28 -
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▼佐藤さん:
有り難うございます。すばらしい。
>とりあえず一つ。霞亭文庫本。見開き左5行目。版本のようですが、刊記欠。
文庫本の本文どおり、というところですね。
>奈良絵本も参考になりましょうか。同名の京都大学本。見開き右、後ろから4行目。
おお、「しゆたつたんみり」ですね。「壇弥梨」の音読みとしてふさわしい形ですね。なかなか面白い。しかし「須達多|闍梨《じやり》」には、遡れなさそうですね。
【469】
Re:誤写の推定
佐藤
- 04/10/15(金) 12:29 -
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▼岡島昭浩さん:
>p26の注を見ると、
>
須達壇弥梨《しゅだつだんやり》 「須達」は須達多《しゅだった》ともいい、古代インドの斜衛《しゃえ》国の長者。釈迦に仕え、祇園精舎を建てた。「壇弥梨」は不明。あるいは「須達多|闍梨《じやり》」で、「闍梨」は僧を示す阿闍梨の意か。とあります。
ちょっと字を変えて「檀弥」で検索すると「檀弥羅・檀弥利・檀弥栗」にヒットします。もし長者であれば「須達・壇弥[梨利栗羅]」と並列させられるのかもしれません。が、ヒット先の文脈からすると仏敵らしいのが気になります。
【470】
Re:誤写の推定
益山 健
- 04/10/15(金) 13:52 -
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>あるいは「須達多|闍梨《じやり》」で、「闍梨」は僧を示す阿闍梨の意か。
須達多が阿闍梨の称号をつけてよばれることはあまりなさそうな気がするのですが, どうでしょうか。
【471】
Re:誤写の推定
岡島昭浩
- 04/10/15(金) 17:10 -
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佐藤さん、また、益山さんのご指摘により、
「誤写の推定」ではなく、「誤注の指摘」といったものになってしまったようですね。
ありがとうございました。
【472】
Re:誤写の推定
佐藤
- 04/10/15(金) 17:46 -
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気になったのでもう少し調べると、ちょっとだけ込み入ってました。織田得能『仏教大辞典』だと、仏敵の悪王は「ダンミラ 檀弥羅」としてあがっており、これとは別に長者の「ダンミリ 檀弥離」が立項されてました。『西行物語』の「須達・壇弥梨」も長者を並列させたものなのでしょう。
学術文庫の校訂者も、広く諸本を見渡すか(奈良絵本は「たんみり」だった)、いくつかの仏教辞典を丁寧に引けば正解が得られたでしょう。あるいは底本に忠実であろうとして「たんやり」から抜け出られなかったのかもしれません。が、非難するよりもまず自戒の契機として記憶したいというのが正直な気持ちです。