口語文の立て札
岡島昭浩
- 04/5/12(水) 0:44 -
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日下部重太郎『国語の趣味と常識』(大正11年)には、漢文でない、普通文・口語文の碑を取り上げています。
碑ほど大げさではないものの、明治四十年の本に次のような記事がありました。
聞く熊本県阿蘇郡なる北小国村に、山野しげ女という者あり。かつてその父の、化粧料にとて数百金を与えたるをば、いたずらに費消することを欲せず、他日これを公共の資に投ぜんとして、ひたすら貯蔵したりしが、たまたま村内の橋梁すでに朽腐して、行通の危険ありと聞くや、すなわちあげてこれを架橋の費に寄付したりという。
橋を鳳来橋といい、村内を流るる一溪川に架せらる。橋畔にはひとつの立て札あり、記するに数行の文字をもってす。つきてこれを読めば、「子供らが橋の上から魚を釣りまたは遊び戯むるるは、はなはだ危きことですから、お見当りの方は、その都度お差し止め下さい」という。
語なんぞ平易にして、同情に富めるの多きや。人のこの村にいたるや、もし一女子の義挙を聞きて、さらにこの立て札を見るあらば、かならずや一村をあげていかに推譲協同の徳に充つるかを想見するに余りあらん。
講談社学術文庫に収められている『田園都市と日本人』(内務省地方局有志)です。
【64】
『国語の趣味と常識』
岡島昭浩
- 04/5/12(水) 0:52 -
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http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/PDF/kusakabe/syumi.pdf
『国語の趣味と常識』は上のURL。『国語百談』の増補版です。
【701】
Re:口語文の立て札
岡島昭浩
- 05/1/26(水) 11:01 -
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「おせん泣かすな」の逸話で有名な本田作左衛門。
『逸話文庫』(明治44)で、
本多作左衛門罷り越し、制札を見候処、法度の箇条、多く、むづかしき故、
一、人を殺すものは命がないぞ。
一、火をつけると火あぶりになるぞ。
一、狼藉をせば作左しかるぞ。
仮名文字にて、三ヶ条に書き改む。其後よく治まりしとぞ。或時、作左エ門、留守の妻女の方へ、書状を遣はしたる文に
一筆申、火の用心。おせん泣すな、馬こやせ。(古老物語)
近代デジタルライブラリ
「古老物語」は、古老の談話によるものなのか、「古老物語」によるのか、わかりません。同名異書も多そうですし。
なお、後半の有名な手紙は、ここでは、「一筆申」で始まっていますが、「一筆啓上」で始まるものが、何によるものなのか、実はよくわかりません。「一筆申上候」