はじめまして。島根大学に通っている者です。
みなさんは「おもむろに」をどのような意味で使われていますか。私はたとえば、
・隣りで座っていた人がおもむろに立ちあがった
・私達が話していると、その人がおもむろに話に入って来た
などです。つまりは「突然に」の意味で使っているのです。しかし、先日辞書を見
ていると「ゆっくりと」と定義されていました。また、「徐行」などの「徐」の字
を当てていたので、なお驚きました。友人などに使用法を聞いてみると、9割ほど
が「突然に」で使っていました。「ゆっくりと」の意味で答えた人は私と同年代の
愛媛県出身者や、私の親(三重県在住)などです。もしかしたら、地域差、年齢差
などがあるのかと思うのですが、何よりデーターが少なすぎます。そこで投稿させ
ていただきました。ちなみに、「突然に」の意味といっても、同等ではなく、「突
然に」がスピード感があるのに対して、「徐に」は鈍さがあるというのでしょうか、
ぬうっ、という感じがあります。転用された、と言われればそんな気もするのです
が、やはり「おもむろに行く」は「徐行」とは思えません。
また、少なくとも私の周囲では多くの人が「突然に」の意味で認めているにも関
わらず、辞書では何ら触れていないことにも疑問を感じます。せめて誤用、とでも
あれば納得できるのですが。
もしかして周知の事実について聞いているのではないかと、内心ハラハラしてい
ます。よろしくお願いします。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 1999年 7月 18日 日曜日 2:43:11)
太田さんとはそれほど年が違うとは思わないのですが(うそです、
1967年香川県生れ)、私は「ゆっくりと」という意味合いで使いま
す。加えて「目立たずに」という語感を感じます。「鞄から書類を
おもむろに取り出した」というと、これ見よがしというのではなく、
控えめな態度で、という感じがします。「彼がおもむろに顔を出し
た」も、いつの間にか彼が来ていてぬーっと顔を出した、という感
じがします。しかし、書類を見せられる側や、彼に覗かれる側にと
っては、いささか予想外の行動であるかもしれず、そこに「突然に」
(相手から見て)という意味の生ずる余地があるのではないかと思い
ました。
森田良行氏『基礎日本語1』(角川書店)の「おもむろに」を見る
と、やはり「ある行為をあわてずにゆっくりと行い始めること。」
とあり、「『おもむろ』が、ある行為から次の行為へと移る動作の
開始を前提としているため、単に『おもむろに歩いた』とか『おも
むろに挨拶した』などとは言わない。」とあります。太田さんも、
「おもむろに行く」とはお使いにはならないのではないでしょうか。
「突然に」とは区別してお使いなのでは、と思います。
仮に以下のような使い方が生じているならば、調べる必要があ
ると思います:
「赤ん坊がおもむろに泣き出した」「おもむろに跳ね起きた」
「路地から子供がおもむろに飛び出した」等々。
ウェブにあった疑問例:
★私はおもむろにフィンを脇にかかえてダッシュした。
★大きなずた袋〔ママ〕を持つや否や、おもむろに窓を開けて
ためらいもなくそこから飛び降りた。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 1999年 7月 18日 日曜日 2:56:13)
>>ウェブにあった疑問例:
この2例とも、私ならば「やにわに」というところです。
小矢野哲夫 さんからのコメント
( Date: 1999年 7月 18日 日曜日 17:44:53)
「おもむろに」が「突然」の意味で使われているとのこと。興味深く拝見しました。
「やおら」が、「おもむろに」とほぼ同じ意味なのに、「即座に」「直ちに」の意味で理解している若者がかなりいることは、既に知られていますが、「おもむろに」もそうなんですね。
夏休みに入ってしまったので学生さんに聞くことはできませんが、休み明けにでも尋ねてみたいと思います。せわしい世の中になったみたいに感じます。
Yeemarさんの「やにわに」も、誤解している若者がいそうですね。
→ けとば落ち穂拾い
言魔 さんからのコメント
( Date: 1999年 7月 21日 水曜日 6:44:07)
拙サイトではとりあげませんでしたが、この「おもむろに」
「やにわに」とセットで「いきなり」という若者用語があります。
不思議な現象ですが、本来のいきなりという意味では使用されず、
「その次に」などの意味で使われているような気がします...
→ 言葉のよろずや(ただいま突貫工事で更新作業中)
森川知史 さんからのコメント
( Date: 1999年 7月 21日 水曜日 15:28:45)
「おもむろに」が「突然に」の意で使われる、というのには驚きました。
私などは、そういう意味で使われるのを、まだ一度も聞いたことがありません。無論、私自身(1952年生まれ)も全くそういう使い方をしたことがありません。
太田さんが書いておられる例では、「やにわに」だな、と思って読み進めると、Yeemarさんが指摘しておられて、ほらほら、と思ったことでした。
これは、若者が誤用して広まった、ということのようですが、何故このような誤用が広まったのか、が興味深い気がします。
太田 さんからのコメント
( Date: 1999年 7月 22日 木曜日 13:01:09)
テレビニュースでのことです。ADさんが放映されているのを知らず、堂々と歩い
ていったことを20代女性アナウンサーが「おもむろでしたが」と表現していました。
私から見れば突然の出来事でしたが、ADさんの行動それ自体は、あわてずゆっく
りしたものでした。意味のずれが、発話した人の心情を述べたものか、対象となっ
た人の行動を分析したものか、で生じるのかと思いました。
Yeemarのご意見が参考になりました。これからもみなさんの意見を参考に考えてい
きたいと思います。そういえば、私は「やにわに」を使いません。また、めったに
聞きません。恐らく「おもむろに」で代用しているのだと思います。
ところで、疑問がひとつ増えました。「おもむろに」を、「ゆっくりと」で使われ
るみなさんは、「おもむろ」と名詞でも使われますか。辞書によっては、副詞でし
か掲載していませんでしたし、「やにわ」は聞いたことが無いので。
taijaS さんからのコメント
( Date: 2000年 7月 18日 火曜日 21:02:06)
ああ既にここに書いてありましたか…
私もひょんなことから昨日、若い人たちが「おもむろに」をそのように理解していることを知りました。
発端は、日本国語大辞典の「ようよう(漸々)」の項目のひとつ「そろそろと。おもむろに。徐々に。」の語義説明について、「一つだけ意味の違う『おもむろに』が、なぜこんなところに混ざっているのか?」と言い出した子がいたこと。
もしやと思って確認したら、発言者は案の定「脈絡無く唐突に、いきなり」の意に解しているとのこと。
「やをら」における語義変化とよく似たことが、「おもむろに」にも起こっているとは…。喜び勇んでこちらへ報告に来たのですが、書き込み直前に念のため検索したら、こちらではすでに一年前に議論の対象になっていたことが判明。知りませんでした。
> 夏休みに入ってしまったので学生さんに聞くことはできませんが、
面白いので、ついでにその場に居合わせた20〜21歳の男女に尋ねてみたら、13名中12名が上記の意味の方に挙手、1名が「よくわからない」、本来の「動作などが緩やかで落ち着いている」の意味に理解している者は、皆無でした。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 01月 14日 火曜日 01:02:42)
「やおら」について、『三省堂国語辞典』第4版(1992)では〔「急に」の意味でも使う〕と言及がありますが、いつごろからの用法でしょうか。下記の例などは、ゼンゼン新しいでしょうか。
次に会ったのは、彼女の番組に招かれた時、彼女はひとりソファに座っている私の胸を、なぜかギュッとつかんだので、私は思わずとびあがりそうになった。〔略〕私はあの気くばりの人と、私の胸をやおらつかんだ人が、同一人物とは、今でもどうしても信じられないのだが……。「ぎゅっと」つかんだのですから、これはいきなりつかんだのでしょう。(林真理子『チャンネルの5番』〔1987年発表〕講談社 1988.02.22 p.53)
岡島 さんからのコメント
( Date: 2003年 01月 14日 火曜日 05:21:23)
たしか、「やおらちゃん」という人のコメントがあったと思うのですが(このスレッドではないかもしれませんが)、検索しても見あたりませんね。
どんな内容かは覚えていませんが。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2004年 03月 16日 火曜日 09:48:21)
柴田武『知っているようで知らない日本語 3』ごま書房 1988.02.25 p.198「「やおら」立ちあがる」に
会議などの席上、自分が何か思いつくと、人の発言中にもかかわらず、突然、ガバッと立ち上がって話し出す人がいる。こういうとき、“彼は「やおら」立ちあがって……”などと表現する人もいるが、これはちょっとおかしい。〔略〕本来は柔らかな態度でゆっくり立ち上がることをいうものだ。さかのぼることにはなりませんけれども。
佐藤 さんからのコメント
( Date: 2004年 03月 16日 火曜日 10:22:04)
この例はどうでしょうか。
と云ひも終らず、さすがに服だけは脱ぐと、いきなり卓子の下に伸べてあるわたしの寢床に潜り込み、やをら頭からすつぽりと毛布を引き被つたかと見ると、忽ちごうツといふ大鼾だつた。(牧野信一「緑の軍港」)
青空文庫のもので、「底本」は1990年のもの、その「親本」は1936年発行だそうです。
→ 牧野信一「緑の軍港」(真ん中あたりにあります)
佐藤 さんからのコメント
( Date: 2004年 03月 16日 火曜日 18:49:58)
井上史雄・鑓水兼高『辞典〈新しい日本語〉』の「やおら」だと「東北・関東方言
では戦前から「だしぬけに」の意味で使われていた」と。牧野信一も神奈川県出
身。佐藤も知識としては「やわら=ゆっくり・ゆったり」が頭に入ってますが、
方言というか母語というか、そのレベルでの感覚だと「急に」の意味がまず思い
あたります。
masakim さんからのコメント
( Date: 2004年 03月 17日 水曜日 07:09:40)
次の例を末広鉄男さんが日国友の会に投稿しています。
やおら立上って出てゆきかけた丹那の背後に、鬼貫の早口な声がかかった。/「丹那君、まちたまえ、慌てちゃいかんよ。〈略〉」
―鮎川哲也『黒いトランク』光文社文庫1956年、287ページ
最近、以下ののコラムでも扱われています。
「ことばの路地裏」『毎日新聞』(大阪本社版)2004年2月12日夕刊
「日めくり」『読売新聞』平成14(2002)年04月03日