2001年01月25日

複製本あれこれ(岡島昭浩)


複製本が沢山出ています。あまり手に入らないものを複製してくれるのはありがたいと思います。でも、気になるのが値段設定。本の値段というのは、出版に必要な経費によって決まるわけではないのか、と思ってしまいます。
複製本の広告で目につくのが、「市場古書価格に比べてとても安い」というようなこと。これは比べてよいものなのでしょうか。原本の古書価格と比べるのはあまり意味がないと思います。かつての複製本の古書価格と比べるのは、まあ無意味ではないのかもしれませんが、どうも釈然としません。
著作権の切れた本の画像を公開したい、という思いはずっとありますが、インターネットが益々高速化、大容量化すれば、やりやすくなると思います。個人的な財布や、乏しい文科系の予算で学問して行くにはこうしたものが役立つでありましょう。テキスト化するには莫大な時間かお金がいりますが画像にするだけならそれほどでも無いですから。研究対象の文献ならテキスト化した方がよいに決まっていますが、参考文献なら画像でもある程度役立つでしょう。背表紙を切り落として製本をばらばらにする勇気さえあればあとはADF付きのスキャナがやってくれます。まあ、なかなか勇気は出ないので、時間をかけてスキャナでジーコジーコやってしまいますがね。コピーしたものならADFでやれる。公開するには元の所有者の了解が必要でしょうがね。
自分の持ってる著作権切れの本をコピーした後、古本屋に売っぱらってしまっても、その画像を公開することは著作権法上は問題の無いことのようですが、どうなんでしょうね。買ってくれなくなるかな、売ってくれなくなるかな。

さて先日、50MBまで無料のwebサーバーであるhoopsに、ちょっとだけ橘正一の論文の画像をPDFにしたものを置いて見たのですが(こちら)、その後、hoopsではファイルサイズが1ファイル当たり1MBまでに制限されることになりました。ダウンロードだけをさせるwebページにしないように、という配慮のようです。それで『方言読本』や『方言学概説』の画像を丸ごと、と思っていた計画は頓挫してしまいました。
vectorあたりが、そんなファイルの登録を認めてくれるかどうかの打診もしてみますかね。まあ難しいかな。ドキュメントのジャンルはありますが、それを画像でってのはですね。

さて、別の話題ですが、『和英語林集成』の初版の複製本は今でも買えます。Tuttleという所で出していますが、printed in Japan なんですね。洋書を扱っているところで検索すれば見つかります。たとえばamazon.co.jpとか。5000円もしません。北辰の複製本が十万円以上ということですが、解題が無いほかには、序文のページづけが違うだけのようです。もし初版の複製本がそんなに稀覯本であるのなら、福井大学蔵の日盛館版の画像の公開を考えてみようかと思ったのですが、その必要はありませんね。
三版は、学術文庫の古本も一万円ぐらいしてしまうようですが、見つからないがすぐに欲しい、という場合には、雄松堂の明治期刊行物集成のマイクロフィッシュで買う、という手がありましょう。1300円*11枚の、15000円程度で買えましょうか。
問題は第2版です。これは入手しにくい。私も持っていません。雄松堂の初期日本英学資料集成をみるしかないのです。これが分売可だったらいいのですがね。古辞書集成などはリールごとの分売もしているようですが。

ながくなりました。佐藤さんの「気になることば」の「本の値段」に触発されて、つらつら書きました。



面独斎 さんからのコメント

( Date: 2001年 1月 26日 金曜日 2:45:24)


「複製本」という場合と「復刻版」という場合とでは、何か違いがあるのでしょうか。

> 三版は、学術文庫の古本も一万円ぐらいしてしまうようです

昨年の11月ごろ、学術文庫版『和英語林集成』を東京八王子の古書店で手に入れましたが、1500円でした。定価が 1900円となっていますから、それよりも安く買っちゃったわけで、ど〜もすいません (^^;)。

なお、「港の人」(http://plaza29.mbn.or.jp/~mnh/) という出版社から『和英語林集成 初版・再版・三版対照総索引』なるものが出ているようです。全三巻で、セット価格が 75,000円+税だそうです。


『和英語林集成 初版・再版・三版対照総索引』



岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 2001年 1月 29日 月曜日 14:01:00)


 「復刻版」は、もともと「覆刻版」という言葉があったのを、作り替えたことばですよね。「覆刻」は「かぶせぼり」で、板本をばらしたもの(もしくはその敷き写し)をそのまま(ひっくり返して)板木に貼りつけて彫るわけですが、そのようなことをしなくなってからも「ふっこくばん」という言い方を残そうとして「復刻版」という文字を充てたもの、と考えられます(そこまで自覚的ではないかもしれませんが)。
一方、「複製本」というのは、原本に似せて作る、という意味が有りそうにも思えますね。和装本の場合には和装にしないと「複製本」といいにくい? ただ「複製」ならいいですけど。
写真版・影印本。写真版というのは白黒二値のものには使いにくい? 網掛けでないと。どうでしょう。影印本という言い方は日本では汲古書院が広めた、と『汲古』に書いてあったと記憶します。中国では「景印」をよく見ますね。


学術文庫はそのように安く買えてしまう可能性があるんで、高く売っているものを買いにくいですよね。人にも勧めにくい。でも、品切れになった、と聞いてからは、定価より安い値段では見たことがありません。私は新本で買った世代ですが、あれは何刷ぐらいまで出たのでしょうかね。
なお、Tuttleの複製本ですが、和文扉がなく、英文の扉もオリジナルではありません。



岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 2001年 1月 29日 月曜日 14:06:23)


青空文庫の掲示板で知ったのですが、

>国立国会図書館(所在地:東京都千代田区)
>は、明治時代の文学作品など著作権保護期間が満
>了となった約4万冊の蔵書の全文をインターネッ
>トのホームページ上で無料公開する計画を明らか
>にした。

これが、画像なのかテキストなのか、ということがその掲示板でも話題になっています。テキストであれば、物凄いことですが、キーワード検索、というようなことのようですから、フルテキストではないのでしょうね。
でも、四万冊ならたいしたもんです。

日経BP



豊島正之 さんからのコメント

( Date: 2001年 2月 12日 月曜日 11:56:00)


>あまり手に入らないものを複製してくれるのはありがたいと思います。
>でも、気になるのが値段設定。

複製本で気になる事のいくつか。

1. 品質

保存用・研究用に取ってあったマイクロを、そのまま複製して複製本と称する
のは、品質として問題があるものも多い。

汲古書院「古典研究会叢書 史記」(全12巻)は、最終巻にワープロのメモを挟み
込んで「惜しむらくは、諸事情から印刷用に再撮影し直し、もっと鮮明な写真を
用意することが出来ず、皆さまにご迷惑をお掛けしましたことをお侘びいたします。」
としたが、本来これは、広告なり凡例なりに予め掲げて置くべきものではないか。
一冊1万6千円×12冊を購入し続けた挙げ句に、出版社自らから不鮮明と宣言される
とは思わなかった。「惜しむらく」は出版社の矜持なり。
因みに、同社の「新譯華嚴經音義私記」は、複製本の再撮影と明記してあった。

2. 著作権

「原本に忠実」と標榜する複製本は、自ら著作物(「思想又は感情を創作的に表
現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」著作権
法)ではないと宣言したも同然。しかし、精密な複製本程、高度な技術・経費を要
する事は周知で、この辺りの権利保護は、なんとかならないものかと思う。




岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 2001年 2月 13日 火曜日 12:20:26)


 おっしゃるように、複製を公開することによって、「悪複製が良複製を駆逐する」事態にならないように気をつけねばなりませんね。

 品質は劣るが手に入れやすい複製と、やや価格は張っても高品質な複製とが、上手に共存していけるような状況が望ましいです。また高品質は、写真の質(それを出す紙質・印刷術)に求めたく、見掛け上の原装通りとか桐箱入りとか、一家の家宝になる、とか、そちらの方面への高質化はしないでほしいものです。

 昔の複製本を複製したものを公開する、ということは現行の著作権法上は問題のないことだと思いますが、そうしたものを「山賊版」と呼ぶ方もいらっしゃり、やはり躊躇します。



岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 2001年 3月 08日 木曜日 0:28:45)


 あちらの古書サイトなどで目にするENGLISH-JAPANESE DICTIONARY ROMANIZED by J. C. Hepburnは、『和英語林集成』第2版の英和部であるようです。
 縮約のニューヨーク版(か丸善版)と睨んでいたのですが、大はずれでした。手に入りにくい第2版の、英和部だけでも手に入って嬉しい。



岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 2001年 3月 08日 木曜日 23:05:33)


 面目ない。やはりニューヨーク版でした。ニューヨーク版が2版に基づくものでなく、初版によるものだと思いこんでいたための勘違いです。

 なお、この複製本を出したのは、SAPHROGRAPH。1975です。巻末広告にBrinkley's Japanese-English Dictionaryも載っています。



岡島昭浩 さんからのコメント

( Date: 2002年 2月 01日 金曜日 0:32:30)


 去年、退院直後に書いたものが公開されています。

かりん32号(PDF)



岡島 さんからのコメント
( Date: 2002年 10月 01日 火曜日 14:14:28)

 ついに公開されました。


 言語が0件というのはさびしいことです。

近代デジタルライブラリー



岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 16日 月曜日 00:57:49)

 近代デジタルライブラリーについての文章です。

『近代デジタルライブラリー』をめぐって(ARG)



岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2002年 12月 19日 木曜日 01:02:41)

 いつの間にか、華英・英華辞書集成というのが、また出たようですが、なぜ、モリソンの英華字典は出ないのでしょうかねえ。

華英・英華辞書集成synapse



岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 01月 21日 火曜日 22:42:03)

 私の、国語学論文も、けっこう頑張っていると思いますが、ここのところのJ-textの画像PDFはすごいですね。

j-text



岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 04月 01日 火曜日 00:01:26)

j-textはj-textsとなり、PDFが消えました。ネットではなく、CD-Rにより配布する予定なのだそうです。



岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 07月 09日 水曜日 17:51:04)

 このスレッドを見落としていました。ここに書いたほうがよかった。


世間にはWinMXなんてものがあって、そこで書籍の画像PDFなんかも流通してるんですってね。


ただし、こちらは著作権ぎれの安心データです。

うわづら文庫(日本文学等画像ファイル)



岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 08月 16日 土曜日 12:04:35)

 近代デジタルライブラリーに、ついに言語の部の登録がありました。


 辞書もいろいろ入っていますが、すごいなと思うのが、総記の『古事類苑』。


 それにしても、ますますインターフェースの改善が望まれます。ページに直接リンクがはれるようになど。

近代デジタルライブラリー



岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 08月 16日 土曜日 12:31:58)

 上の方に書いている、和英語林集成の第2版もあるようです。(というリンクも出来ない)


 また、上の方に書いている話題、「昔の複製本を複製したものを公開する、ということは現行の著作権法上は問題のないことだと思いますが」ですが、今の複製本を複製すると、不正競争防止法によって訴えられることになるということです。「第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。の第3項」

他人の商品(最初に販売された日から起算して3年を経過したものを除く。)の形態(当該他人の商品と同種の商品(同種の商品かない場合にあっては、当該他人の商品とその機能及び効用が同一又は類似の商品)が通常有する形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入する行為


初版から3年たっていれば、よいことになります。出版契約を3年とするのが通例であることを思い起こします。
不正競争防止法



岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2004年 04月 04日 日曜日 09:03:08)

 近代デジタルライブラリー、ページへのリンクも張れるようになりました。


 それに、著作権情報も表示されるようになり、有り難いことです。


posted by 岡島昭浩 at 18:29| Comment(0) | TrackBack(0) | ■初代「あれこれ会議室」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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