1)足元をすくう(「足下をすくう」も同様)
8月11日「朝日新聞」(夕刊17面)から。11日の朝刊が休みだったため、10日と11日(前半)の全国高校野球選手権記念大会の結果を伝えている。問題の記事は、10日の岩国(山口)対羽黒(山形)戦の試合結果。「羽黒、足元すくわれた」と大きな見出しが踊る。文中にも、「岩国の粘っこい攻めに足元をすくわれた」とある。まず問題なのは「足元をすくう」。本来の表現は「足をすくう」のはずだが、もはや誤用ではないのだろうか。インターネットなんかで調べても、誤用としか思えない。にもかかわらず、けっこう目にする。新聞でも何度か目にした。次に気になるのは、「足をすくわれる」は「格上の者が格下の者に不覚をとる」のニュアンスがあること。たしかに2人の好投手を擁する羽黒は前評判が高かったが、これは対戦相手に対して相当失礼な書き方じゃないだろうか。
などと書きながら、新たにいくつかの疑問が湧いてくる。
1)-2「不覚をとる」は漢字で書くなら「取る」なのだろうか。表記の問題は別として、「不覚をとる」はなんか異和感がある。論理的に考えると「不覚をとられる」になりそうな気がするが、そんな表現は聞いたことがない。いちばん無難なのは「不覚を喫する」だろうな(大ゲサかな)。
1)−3「〜を擁する」ってすごく堅苦しい。通常は「〜を持つ」にするところだが、この場合は使えない。書きかえるなら「〜がいる」ぐらいか。これはなんかヘン。
1)-4「対戦相手に対して」って重言じゃないのかな。
2)しのぎ合う
4月8日「朝日新聞」(朝刊16面)から。山下泰裕・全柔連男子強化部長の署名記事に「2人がしのぎ合うことは、日本柔道界に大きなプラスだ」とある。
「凌ぐ」には主としてふたつの意味がある。@「困難などに耐えて状態を保つ」……「急場を凌ぐ」とか「危機を凌ぐ」とか。A「他者を超越して優位に立つ」……「A社の売り上げを凌ぐ」のような使い方(なんかヘンだな)。どちらの意味で考えても微妙にずれている気がする。「鬩(せめ)ぎ合う」(これも迂闊に使うと誤用と言われる)「競り合う」「競い合う」などとの混用ではないだろうか。「互いによく攻め、互いによく守り」(カッコよく言えば、「攻めも攻めたり、守りも守ったり」ってヤツ?)って意味で具体的な戦いを描写するのに「攻め合い、凌ぎ合い」という使い方ならアリの気がするけど、やや強引。
語呂がよく似ている混用が「凌ぎを削る」。これは「鎬を削る」が正しい用法だから明らかに誤用。この誤用は、ワープロソフト&ワープロの普及によって明かに増えた。
3)〜しませんでした(「〜ありませんでした」「〜できませんでした」なども同様)
ふつうに使われている表現で、誤用の問題とは性質が違う。ただ、うまい逃げ道がないという意味ではこちらのほうが深刻。
「〜しない」のデス・マス体は「〜しません」。これは小学生レベルの問題。しかし、「〜しなかった」をデス・マス体にするとどうなるのかがわからない。
もし、「美しい」の過去形として「美しかったです」が認められるのなら、「〜しなかったです」もアリの気がするが、いかんせん言葉足らず。
かと言って「〜しませんでした」は、いったん気になると、使えなくなる。「〜しましたです」がおかしいのなら、「〜しませんでした」もおかしいのではないか。文法的に解析するとどうなるのだろう。このあたりのことを考えはじめると、ますますデス・マス体の文章が書けなくなる。
Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 08月 16日 土曜日 02:52:24)
下記のスレッドが誤用の問題を扱っていますので、そちらにコメントさせていただきました。
→ 誤用(かと思われるもの)の用例集