2003年10月12日

わざと言語変化(佐藤)

 故意に変化させることがあるようです。地名の用字は好字二字にしないさいとかいう言語政策(?)も含め、便宜的に変更したものとか。そうした例を教えてください。
 明治初期の鉄道の時刻表(当時は「時間表」?)に、「八時」を「八字」と表すのがあります。下記リンク先によると江戸時代の不定時法の「時(とき)」に紛れるのを避けたものとか。
 「誤解を避ける方法」に投稿すべきかとも思ったのですが、会話・メール主体との趣旨ですので新たに立てました。
第9回 ステーション・ベルの歴史(その2) 


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 10月 12日 日曜日 13:18:36)

まずは、同音衝突の回避と思われる言い換えを網羅することを試み、「私立」を「わたくしりつ」、「市立」を「いちりつ」……と列挙しようとしたところで、すぐネタが尽きてしまいました。網羅的に記述した書物というのはあるのでしょうか。(新しい語もあり、書物で網羅は難しい?)

高杉親知氏が、ホームページ中の「同音異義語への異議」で「私が知っているもの」としてかなりくわしくまとめていらっしゃいます。壮観です。書式を変えて示すと:

科学(かがく)、化学(ばけがく)/計上(けいじょう)、経常(けいつね)/権限(けんげん)、権原(けんばら)/工学(こうがく)、光学(ひかりがく)/硬口蓋(かたこうがい)、高口蓋(たかこうがい)/甲辰(きのえたつ)、甲申(きのえさる)、庚辰(かのえたつ)、庚申(かのえさる)〔これは同音衝突によるものではないでしょう〕/紅茶(こうちゃ)、黄茶(きちゃ)〔どの分野で言うのでしょうか〕/後母音(うしろぼいん)、高母音(たかぼいん)、広母音(ひろぼいん)/今週(こんしゅう)、今秋(こんあき)/試行(しこう)、施行(せこう)〔「せこう」は単に誤読か、誤読に由来の言い換えか?〕/事典(ことてん)、辞典(ことばてん)、字典(もじてん)/市立(いちりつ)、私立(わたくしりつ)/売春(ばいしゅん)、買春(かいしゅん)/売電(うりでん)、買電(かいでん)/波線(なみせん)〔私は言い換えの意識なし〕、破線(やぶれせん)

工業→えこうぎょう、興業→おこしこうぎょう、鉱業→やまこうぎょう/公爵→きみこうしゃく、侯爵→そうろうこうしゃく/試案→こころみのしあん、私案→わたくしのしあん/晋→すすむしん、秦→はたしん/製糸→いとのせいし、製紙→かみのせいし

肝動脈、冠動脈→冠状動脈(かんじょうどうみゃく)/水星、彗星→帚星(ほうきぼし)/整数、正数→正(せい)の数(すう)/符号、負号→負(ふ)の符号(ふごう)

ほかに思いつくものと言えば……。

音声学で「舌」を「ぜつ」。(「下」と区別か。ただし「前舌」は「まえじた」。)「半狭母音」を「はんせまぼいん」、「半広母音」を「はんひろぼいん」。(これは何かと区別しているのでしょうか?)

私の立てたスレッド「誤解を避ける方法」は、主として対人関係のなかでの誤解、もっと具体的には感情の行き違いを生むような言い回しを意図したものです。「あなたと私の間には誤解があるようだ」というあの「誤解」です。当該スレッドの初めでもう少し詳しく断っておくべきだったかもしれません。


佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 10月 13日 月曜日 16:55:41)

こう列記されると同音衝突でいかに苦心しているかが分かります。「そうろうこうしゃく」などは「時→字」くらい悲劇的ですね。

ちょっと面白い辞典を入手したのでついでに御紹介します(skidさんなら先刻ご承知かも)。福永恭助・岩倉具実編『口語辞典』(928頁。森北出版、昭和26)です。編纂の趣旨は、口語体の仕上げを行うため、文末表現だけでなく、難解な単語も口語用に置きかえようというもの。割り切りがよいというか、野心的というか、ともあれ「まえがき」のうち「字引をつくるについて採った方針」をみると


(ii)「光度」と「硬度」、「公爵」と「侯爵」、「科学」と「化学」のような紛らわしい言葉は、生きた口語となり切る見込みのないものですから、口語としてふさわしい言葉を捜すことにしました。捜しても工合のいいのが見付からない場合には、ためしに新しく造てっ見ました。(強調佐藤。「造てっ」はママ)

これだけでも、漫才風にいえばツッコミどころが目立ちます。で、代替表現ですが、とりあえずは和らげが中心。

Ko-do 硬度, Katasa. § レンズの硬度:− レンズの Katasa.
Ko-do 光度, Akarusa. § レンズの光度:− レンズの Akarusa.
(なぜかローマ字を多用します。「和英辞典や何かと同じように、便利なローマ字」との一節はあるのですが。o-はoの上に長音符が乗ったもの)

Ko-syaku 公爵, Kimi-Ko-syaku; Kinsyaku.
(「侯爵」は立項せず。「見込みがない」と切り捨てられた? 「公爵」で言い換えたので立項の用がなかった?)

Kagaku(Kwagaku)科学,Gakumon; Rigaku.(用例略)
Kagaku(Kwagaku)化学,Kegaku. § 科学と化学との別:− Rigaku to Kegaku to no Kubetu.
(キンシャク・ケガクは「ためしに新しく造てっ見ました」?)



佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 10月 13日 月曜日 19:49:08)

『口語辞典』、Webcatによると1939年版もあるよう。で、刊行が口語辞典出版会、発売が日本のローマ字社だそうです。そこから調べなおしてみると、福永恭助は漢字廃止・ローマ字採用論者で、海軍軍人。『國語國字問題』(聚英閣, 1926)の著書あり。『口語辞典』にローマ字を採用するにはそうした経緯があったのですね。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 10月 13日 月曜日 21:28:22)

そうそう、「くびちょう(首長)」。「市長」と区別するためでしょうか?

くびちょうさん、地方のくびちょうさん〔松浦清春・連合副事務局長〕(NHK「日曜討論」1999.12.19 09:00)


skid さんからのコメント
( Date: 2003年 10月 15日 水曜日 01:20:29)

本題から逸れてしまいますが、『口語辞典』について。
戦後の森北出版の「まえがき」は8頁ですが、戦前の口語辞典出版会(発行所は福永恭助の住所と同じ)の「MAEGAKI」は23頁あります。
また、再版本には「Nidomeno Suriを出すについて」10頁が加わります。
「MAEGAKI」にいわく、

  私たち二人はローマ字を国字にすることを長年主張している者なのです
  けれども、このZibikiにローマ字を使っているのはそれとは少しも関係
  がないのです。

それにしては、巻末に「ローマ字文の書き方」が17頁も付いています。


佐藤 さんからのコメント
( Date: 2003年 10月 16日 木曜日 00:58:57)

 やはりご存じでしたか! それにしても、すっと諸版の情報が出てくるところが素晴らしいことです。Webcatで「23,928,17p ; 20cm」「巻末:參考書」などとあって、架蔵書とは本文のページ数しか同じでないので、どんなものかと思いをはせていたところでした。ありがとうございました。
 「少しも関係がない」というのは、やっぱり怪しいですよね。ローマ字で書くと同音語の認定がむずかしくなるから言い換え語をさがそう…… そういう発想もあるように勘繰れるし。ただ、それが、悪いとばかりもいえないかもしれない。口頭語なら、やはり同じ問題に遭遇するわけなので、うまく行くものなら言い換えた方がよいし。
 ともあれ、同音衝突の回避に人間はどのような工夫をするのか、の一大集成とも見られる本なので(大げさ?)、今後も末永く見ていきたいと思います。


道浦俊彦 さんからのコメント
( Date: 2003年 10月 16日 木曜日 07:56:05)

同音語、「船主」と「船首」、「試案」と「思案」、「市道」と「私道」などが思い付くところです。「試案」は、NHKのアナウンサーがよく「しあん、試みの案」と言い換えていますね。


岡島昭浩 さんからのコメント
( Date: 2003年 10月 16日 木曜日 08:39:04)

「騎手」とは違う「馬手」が確かあると思いますが、「馬主」を「ばぬし」と読むのは、「馬手」との混同を避けるためでしょうか。

と、思ったら、NHKのページにありました。

データファイル(放送と言葉):No.33 (2001.3)


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 10月 17日 金曜日 23:10:11)

こんにち東京ドームの近くに「水道橋」の地名が残るとおり、徳川時代、江戸の水道設備はなかなか高水準のものであった。両国の「江戸東京博物館」には、木製水道(木樋)が展示されている。

神田上水の建設に当たったのは大久保主水であったが、「水は濁らざるを尊しとして「モント」と読むべしと言ったという」(杉村覚氏ホームページ)。

大久保主水が「もんど」でなく「もんと」と称したという説明を、私は「文京区ふるさと歴史館」で見たことがあります。今、それを展示図録で確認しても当該の記述はありません。

一種の忌詞でしょうか。縁起を担いで「言語変化」させる例としては、ほかに「豆腐」を「豆富」……と列挙しようとして続きません。

「ふぐ(河豚)」を下関などで「ふく」と言っているのは、方言か、古語が残っているのか、それとも「福」と懸けているのでしょうか。

「しがねえ恋の情が仇」の「玄冶店(げんやだな)」を「げんじだな」と誤読する人がいるのはわかりますが、歌舞伎では「源氏店」を「げんやだな」と読ませるというのは、これはいかにも無理矢理という感じです。


Yeemar さんからのコメント
( Date: 2003年 10月 17日 金曜日 23:17:15)

「託老所」とせずして「宅老所」。これは言語変化というより命名の時点で「宅老所」となっていたものでしょうか。こんにち一般的に聞かれるこの名、広まったのはここ数年のことです。

「タクロウジョ」と聞いて、お年寄り向けの民間デイサービスとわかる人は、どれぐらい増えただろうか。漢字で書けば「宅老所」。「宅」の字がミソだ。
「託児所の『託』ではありません。ここを自宅のように思って過ごしてほしい。そんな思いを『宅』の字に込めているのです」
 民間デイサービスの草分け「宅老所よりあい」の下村恵美子さんは、そう話す。
「よりあい」が福岡市内にできたのは五年前。特別養護老人ホームに勤めていた下村さんら三人が、
「もっとお年寄りとのんびり過ごしたい」
 と考えて、ある寺の茶室を借りて始めた。(「週刊朝日」1996.09.27 p.?)
これが「宅老所」の発祥でしょうか。


posted by 岡島昭浩 at 07:22| Comment(0) | TrackBack(0) | ■初代「あれこれ会議室」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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