誤用(かと思われるもの)の用例集――体言+ごとく
岡島昭浩
- 04/5/16(日) 12:51 -
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誤用(かと思われるもの)の用例集の続きのようなものです。
普通は〈体言+の+ごとく〉。
〈体言+ごとき〉であれば、「貴様如きに斬られる拙者ではござらぬ」のように使うのですが(日本国語大辞典1で「さげすみやけんそんの表現」と)、〈体言+ごとく〉はどうでしょう。
これを考えるきっかけは、浜崎あゆみの歌(ならびに詞)で「俯瞰になる、傍観者ごとく」というような歌詞、「forgiveness」という題のようです。
「傍観者みたく」のような若者言葉からのものなのか、九州人らしく「傍観者んごと」から来ているのか。
こういったものは、電子テキストでも、プレーンなものでは探しにくいですね。
「さげすみやけんそん」のあるようなもので、「ごとく」をたまたま見かけました。
南方熊楠の「履歴書」(河出文庫の『南方熊楠コレクションIV』369ページ)に「切られ与三郎ごとく三十余カ処もかすり疵がつく」と。
【74】
Re:体言+ごとく
岡島昭浩
- 04/5/16(日) 15:11 -
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▼岡島昭浩:
>南方熊楠の「履歴書」(河出文庫の『南方熊楠コレクションIV』369ページ)に「切られ与三郎ごとく三十余カ処もかすり疵がつく」と。
南方熊楠にはよくあるのでしょうか。
従来ごとく少破損あるごとにその神社の林中より幾分を伐ってただちにこれを修めなば事済むなり。
従来ごとくあまりの大害を仕出さぬよう、その兇勢を抑制するの功はありなん。
前述ごとく欧米人いずれも、わが邦が手軽く神社によって何の費用なしに従来珍草奇木異様の諸生物を保存し来たれるを羨むものなり。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000093/card525.html
こう書いて、「かつてのごとく」「まえにのぶるごとく」などと読むのかもしれませんが。
【75】
Re:体言+ごとく
畠中敏彦
- 04/5/17(月) 8:22 -
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【私ごとき】
「私のような至らぬ者のために」のように、自分をけんそん・へりくだった意味として理解しておりますが、どうなんでしょう。
私がサラリーマン時代、転勤や就任の挨拶(状)の中で「私ごとき・・・」のことばをよく使いました。
【76】
Re:体言+ごとく
岡島昭浩
- 04/5/17(月) 9:48 -
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▼畠中敏彦さん:
>【私ごとき】
>
>「私のような至らぬ者のために」のように、自分をけんそん・へりくだった意味として理解しておりますが、どうなんでしょう。
はい。これは、「貴様如き」と同様に、『日本国語大辞典2』の、
体言、特に代名詞あるいは人名に付いて「……ごとき」の形で用いて、さげすみや、謙遜の表現に用いる。
という枠内に収まるものであろうかと存じます。
ここで問題にしようとしたのは、「……ごとく」の形で上に直接体言が来るか、という点でした。(上代はさておき)
当初、「与三郎ごとく」をみたときには、「体言+ごとく」を、「さげすみ」を持って使っているのかと思いましたが、熊楠の他の例をみると、そうでもないのだろうか、と思ったところです。
【87】
誤用?
booko
- 04/5/20(木) 0:31 -
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スレッドを変えたほうがよいかどうか迷ったのですが、とりあえずここに。
フジテレビ月曜9時のドラマのタイトルが、「愛し君へ」となっています。
これも誤用だと思うのですが、なんとなく通ってしまっているようです。
「君愛し」か「愛しい君」か「愛しき君」としたいところですが、
類推が働いて「愛し君」になったのでしょうか。
【88】
Re:誤用?
岡島昭浩
- 04/5/20(木) 0:49 -
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▼bookoさん:
>フジテレビ月曜9時のドラマのタイトルが、「愛し君へ」となっています。
>これも誤用だと思うのですが、なんとなく通ってしまっているようです。
>
>「君愛し」か「愛しい君」か「愛しき君」としたいところですが、
>類推が働いて「愛し君」になったのでしょうか。
旧会議室の「(歌謡曲における)終止形の連体用法」で、存疑例として「楽し都」を書いたのですが、存疑としたのは「形容詞語幹+名詞」でありうるからです。
マイペースの「東京」(70年代の歌)でも、「君が住む 美《うつく》し都」というのがありました。
【89】
Re:体言+ごとく
Yeemar
- 04/5/20(木) 18:25 -
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「漢字+ごとく」で多そうなものを選びネットで探してみましたが、多くは、少数者の勘違いか誤記のようなもので、あまりおもしろくありません。歌詞などがみつかればおもしろいのですが。
国会会議録検索システムにより検索しました。「日ごとく」で2つ出てきました。しかし、テキストファイル化の際の間違いででもあろうかと思います。
第24国会・参議院地方行政委員会(昭和31年05月26日)
○加瀬完君 〔略〕しかしながら選挙における弊害というものを、まだまだ十年一日ごとくといいますけれども、何十年の間日本においては依然として行なっておる。
第2国会・参議院文化委員会(昭和23年02月06日)
○三島通陽君 〔略〕國祭日(祝祭日)として兒童デー(假稱)設置提唱〔略〕三、行事内容/(イ)、國を擧げての子供祝福の日として官廰、公署、學校、銀行、會社、工場、事業場等一切從來の祝祭日ごとく休日とする。
【99】
Re:誤用?
booko
- 04/5/24(月) 0:13 -
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>終止形の連体用法」</a>で、存疑例として「楽し都」を書いたのですが、存疑としたのは「形容詞語幹+名詞」でありうるからです。
なるほど・・・。
そういう例もあるのですね。
「存疑」ということについても考えてみたいと思います。
ありがとうございました。
【461】
形容詞語幹+名詞(Re:誤用?)
岡島昭浩
- 04/10/13(水) 7:51 -
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「いとしの系譜」です。((歌謡曲における)終止形の連体用法)の一部を継承する)
(「いとしご」は除く)
宮津節
歌:京都府民謡
行こかもどろか 橋立なぎさ
いとし宮津の 灯がまねく
阿波おどり
歌:徳島県民謡
巡礼のお鶴の あの菅笠に
いとし涙の 雨が降る
貝殻節
歌:鳥取県民謡
作詞:松本穣養子
戻る舟路にゃ 櫓櫂(ろかい)が勇む
かわいやの かわいやの
いとし妻子が 待つほどに
新潟の女
歌:内山田洋とクールファイブ
作詞:たきのえいじ
作曲:内山田洋
霧にぬれてる港の灯
いとし想いがまた燃える
緑の地平線
歌:楠木繁夫
作詞:佐藤惣之助
作曲:古賀政男
山の煙りを 慕いつつ
いとし小鳩の 声きけば
東京シャッフル
歌:サザンオールスターズ
作詞:桑田佳祐
作曲:桑田佳祐
Shyなモードにジンジンジン
くどき文句で チャチャチャ
愛し女よ PiPiPi………
東京の灯よいつまでも
歌:新川二郎
作詞:藤間哲郎
作曲:佐伯としを
いとし羽田の あのロビー
菩提樹
近藤朔風訳詞
(うまし夢見つ)
(ゆかし言葉)
いとし友
「その他」
「終止。名詞」もあるのでしょうが、境界的例も含めて。
さくら貝の歌
歌:岡本敦郎
作詞:土屋花情
作曲:八洲秀章
ほのぼのと うす紅染むるは
わが燃ゆる さみし血潮よ
What's your name?
歌:少年隊
作詞:宮下智
作曲:Jimmy Johnson
お目にかかれて 嬉し恋の日
心乱れて哀し夏の日
ありがとうおまえ
歌:殿さまキングス
作詞:岸本健介
作曲:岸本健介
今夜は嬉し酒
東京
作詞:森田貢
作曲:森田貢
君の住む美し都(みやこ)
桑港(サンフランシスコ)のチャイナタウン
歌:渡辺はま子
作詞:佐伯孝夫
作曲:佐々木俊一
おぼろな瞳(ひとみ)花やさし霧の街
蘭麝(らんじゃ)のかおり 君やさし夢の街
故郷の夢よ 月やさし 丘の街
サンタルチア
訳詞:堀内敬三
愛ぐしナポリ 夢の国
聖夜
訳詞:由木康
きよしこのよる
ローレライ
訳詞:近藤朔風
美(うるわ)し乙女の 岩に立ちて
バルカンの星の下に
(訳者不明。ロシア)
夢にも忘れざりき
恋しふるさと
カチューシャ
(ロシア)
やさしその歌声
夜のしらべ
(フランス)
心はかえる たのし昔
エリーゼのために
(ドイツ)
慕わし君
君のうるわし声に
シューベルトの子守唄
(ドイツ)
楽し夢
オールドブラックジョー
(アメリカ)
なつかし友は呼ぶ
旅愁
犬童珠渓
なつかし父母
【462】
Re:形容詞語幹+名詞(Re:誤用?)
Yeemar
- 04/10/13(水) 11:36 -
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前の会議室で、「いとし殿御のこころの中{うち}は」(花笠道中)、「赤き灯燃ゆ 恋し東京」(なつかしの歌声)の例を書き付けましたが(後者、3番には「歌いし歌 楽しメロディー」)、ほかに、
・いとし糸ひく雨よけ日よけ
(時雨音羽作詞・二村定一歌「浪花小唄」1929年)
・春くりゃ 偲ぶ馬の市/秋くりゃ 恋し村祭り
(石本美由起作詞・青木光一歌「柿の木坂の家」1957年)
【463】
Re:形容詞語幹+名詞(Re:誤用?)
岡島昭浩
- 04/10/14(木) 0:49 -
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▼Yeemarさん:
「赤き灯燃ゆ 恋し東京」(なつかしの歌声)の例を書き付けましたが(後者、3番には「歌いし歌 楽しメロディー」)、
「歌いし、たのし」と並ぶと、俳諧文法のように、「し」は、過去の「し」だろうが、形容詞語尾だろうが、切れ字、というのを思い起こしました。
聖夜
訳詞:由木康
きよしこのよる
指摘を受けたのですが、これは、ク活用なので、語幹の用法にはならず、「清し! この夜」なのでしょう。なお、私の幼時の感覚では、「清いこの夜」という意味だったので、「終止形の連体用法」(と採られうる例)の方に、いれるべきところかもしれません。
【464】
Re:誤用(かと思われるもの)の用例集――体言+ご...
Yeemar
- 04/10/14(木) 1:54 -
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「〜のごとく」を「〜がごとく」と言う例をまま見かけます。
「〜がごとく」は、「翔ぶがごとく」(動詞連体形)とか「わがごとく」のような場合に用いるのであって、一般的な名詞の場合には「〜のごとく」と言うのではないかと思っていました。しかし
白雪姫やかぐや姫がごとく、何かお伽噺の登場人物か、(桃井かおりの13チャンネル・「週刊新潮」2003.03.20 p.116)のように言うのです。
次のような「〜がゆえ」も伝統的にはどうだったのか。
身体を売るアルバイトをしながらもトミヤは、やはりその若さがゆえに、人間社会を白か黒かに分けたがる。(藤堂志津子『絹のまなざし』〔1993年発表〕講談社文庫 1997.04.15第1冊 p.303)前者は「若さゆえ」とか「若さのゆえ」、後者は「匿名性ゆえに」「匿名性のゆえに」と私なら言いそうです。
〔プリペイド式携帯電話は〕その匿名性がゆえに、犯罪の「小道具」に使われているケースが目立つ。(「朝日新聞」2000.04.26 p.3)
【465】
動詞終止形+名詞
Yeemar
- 04/10/14(木) 2:07 -
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▼岡島昭浩さん:
>旧会議室の「(歌謡曲における)終止形の連体用法」
旧会議室では、サザンオールスターズの「愛の言霊(ことだま)〜Spiritual Message」の冒頭の例、
生まれく叙情詩(せりふ)とは 蒼き星の挿話が上がっており、動詞終止形+名詞の例です。
この類例。
タカリ、愛国者たむろすスエズまたはサ変動詞の四段化かもしれません。「生まれく叙情詩」も四段化かもしれません。
(北杜夫『どくとるマンボウ航海記』中公文庫p.64 表題)
【473】
Re:形容詞語幹+名詞(Re:誤用?)
岡島昭浩
- 04/10/16(土) 1:56 -
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白蘭の歌 久米正雄作詞 竹岡信幸作曲
かぐはし君の白蘭の花
白蘭の花(いとしあの星) サトウ・ハチロー作詞 服部良一作曲
いとしこの身もどこまでも
いとし返事はなんとする
いとしあの星あの瞳
以上、『最新愛唱歌集』(昭和17.4.20) 日本レコード作家協会編 新興音楽出版社
【904】
Re:形容詞語幹+名詞(Re:誤用?)
Yeemar
- 05/6/19(日) 18:23 -
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「形容詞語幹+名詞」の出てくる歌は、古いところで、いわゆる「パイノパイノパイ」、添田さつき作詞の「東京節」もそうです。
東京の中枢は丸の内「いかめし・やかた」と読む。出典、日本コロムビア『小沢昭一が撰んだ恋し懐かしはやり唄 四』。このCDタイトルも「形容詞語幹+形容詞語幹+名詞」です。
日比谷公園両議院
いきな構えの帝劇に
厳し館は警視庁
【908】
Re:形容詞語幹+名詞(Re:誤用?)
NISHIO
- 05/6/21(火) 6:19 -
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『東京ラプソディー』 詞:門田ゆたか、曲:古賀政男、唄:藤山一郎
楽し都 恋の都
というのがあります。
【927】
Re:形容詞語幹+名詞(Re:誤用?)
Yeemar
- 05/7/13(水) 14:11 -
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金田一春彦・安西愛子編『日本の唱歌(中)』(講談社文庫)p.208に載る「嫁ぐ日近く」(喜志邦三作詞)には次のように。
二 柘榴{ざくろ}の赤く実{みの}る日は
いとし七つの妹と
悲しき別れ思い出に
花の髪挿{かざし}を残さまし
【928】
Re:形容詞語幹+名詞(Re:誤用?)
Yeemar
- 05/7/13(水) 14:28 -
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同じく『日本の唱歌(中)』p.218「春の唄」(喜志邦三作詞)に
菫{すみれ}買{か}いましょ あの花売りの「かわいい瞳」でない。単に短く言っただけかもしれません。
可愛{かわ}い瞳{ひとみ}に春のゆめ
小林旭、ザ・ドリフターズの歌った「ズンドコ節」の「ホームのかげで泣いていた 可愛いあの子が忘らりょか」も「かわいあのこ」でしょうか。「かわい○○」はすでに例が出ているかと思いましたが、ないようです。