2005年10月17日

自転車を漕ぐ

【1030】
自転車を漕ぐ
 Yeemar
 - 05/9/11(日) 19:11 -
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自転車を漕ぐという言い方がおかしいという子を詠んだ短歌。その子は「自転車」は「乗る」とか「運転する」とかいうわけでしょうか。
自転車を漕ぐといふ歌句{かく}を子らわらふ辞書を示せばこれをしも嗤{わら}ふ
〔『含紅集』の「昭和三十三年」の章、『日本詩人全集29』(新潮社)p.41による〕




【1033】
Re:自転車を漕ぐ
 NISHIO
 - 05/9/12(月) 6:27 -
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▼Yeemarさん:
>「自転車」は「乗る」とか「運転する」とかいうわけでしょうか。


より厳密には、「自転車に乗ってペダルを漕ぐ」でしょうね。

自転車を舟と同じく「漕ぐ」というに至った経緯に興味があります。
ペダルを櫓に見立てたのか、乗ったまま人力(脚力)で推進する共通点からか。
そういえばブランコも「漕ぐ」といいます。

# 名古屋あたりでは「けったくる」。



【1034】
Re:自転車を漕ぐ
 岡島昭浩
 - 05/9/12(月) 14:03 -
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名古屋で自転車を「ケッタ」というのが理解できない、というような質問から学生さんから出て、次のように答えた記録が、たまたま残っていました。

Q:名古屋の自転車:ケッタ。「蹴る」と自転車が結びつかない。
A:自転車を「こぐ」行為は、船を漕ぐのとは全く違う動きですが、自転車が出来るまではなかった動作を、〈乗り物を前に進める〉という共通点から、「こぐ」という動詞を使って表しているわけでしょう。それに対して「ける」は、〈足を使ってものを前に進める〉という共通点で、その動詞を採用したのでしょう。「自転車をふむ」と言っている地方もあったかと思います。(なお、日本に入ってきた自転車は、足で地面を蹴って進むもの(ドライジーネ)ではなく、ペダルが付いていたものだったと思われます。佐野裕二『自転車の文化史』中公文庫)


「自転車をふむ」は、今調べると次のページにありました。熊本日日新聞に載ったそうです。http://www1.ocn.ne.jp/~haibis/douwa.htm
五分ほど行くと、あのいやな上り坂にさしかかりました。自転車をふむのはつらいので、そこだけは歩いて進みます。




【1035】
Re:自転車を漕ぐ
 NISHIO
 - 05/9/13(火) 4:21 -
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▼岡島昭浩さん:
>自転車が出来るまではなかった動作を、〈乗り物を前に進める〉という共通点から、「こぐ」という動詞を使って表しているわけでしょう。


御教示ありがとうございます。なるほど納得できました。

日本に初めて入ってきた自転車の推進方式は、「自転車文化センター」のサイトの図版や説明には明記されていません。

>「自転車をふむ」は、今調べると次のページにありました。


「自転車をふむ」はまさか存在しないだろうと思っていました。意外です。
  ○櫓を漕ぐ ⇔ ○ペダルを漕ぐ ⇔ ○ペダルを踏む
  ○舟を漕ぐ ⇔ ○自転車を漕ぐ ⇔ △自転車を踏む

漢字表記の「自転車を踏む」は、84件ほど見つかりました。
中にこんなのもありました。札幌方言「こぐ」の標準語訳が「踏む」だそうで…。
http://sapporo.client.jp/kotoba/k.htm
リンク先が開けないので、キャッシュから拾って引用します。
こぐ
【意味】(1)踏み分ける (2)踏む
【用例】(1)雪をこいでこ。 (2)自転車をこぐ。
【標準語訳】(1)雪を踏み分けて行きましょう。 (2)自転車を踏む。
【解説】「こぐ」も「投げる」と同様に、言葉が広い意味で用いられるようになった例の一つである。本来、「こぐ」は「漕ぐ」で舟を漕ぐものであっただろう。その海をまっすぐに進む様子から「雪を漕ぐ」用例が生まれたものだろうか。「雪漕ぎ」といった名詞もある。同様の使い方は、青森、秋田、岩手、宮城、新潟などでもみられる。




【1038】
Re:自転車を漕ぐ
 岡島昭浩
 - 05/9/13(火) 10:19 -
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ブランコのことを考えると、〈体の動きで、乗り物を動かす〉と言ったことでしょうか。

「踏む」については、「ける」の意味で「ふむ」を使う方言もあり(柴田武『生きている日本語』など)、それとの関連も考えねばなりますまいが、「自転車をふむ」は、もっと広そうですね。

明治には、「自転車を駆る」という言い方もあったようです。これは「馬を駆る」からの転用でしょう。
もし自転車を駆り、または扁舟に棹さして、遠近の地方を探《さぐ》らば、さらにいっそう懐古《かいこ》の情を動かすに足るものあらん
『田園都市と日本人』講談社学術文庫p300

〔明治27年2月17日 東京日日〕
 第三回自転車郊遊 日本輪友会にては、明十八日を期して、亀井戸、本下川、向島等の各地へ自転車を駈り、会員の観梅野乗りを試むる由にて、当日午前十時までに神田区錦町の吉村方に待ち合わする予定なりと。
『明治ニュース事典5』毎日コミュニケーションズ



【1039】
自転車を……
 岡島昭浩
 - 05/9/13(火) 11:19 -
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これは、東京でしょう。ちょっとびっくり。
恋人どうしなのだろうか、楽しげに語らいながら自転車を踏む若い二人が、われわれの車を追い抜いていった。
(星新一「生活維持省」『ボッコちゃん』)
父親の星一は福島出身だったと思いますが。


 新たに気になったこと。

自転車に乗らずに、自転車と共に歩くことを、「自転車を押す」とも「自転車を引く」ともいう。体の横に置いて共に進行するわけですから、押すとも引くとも言えそうです。私の意識ではハンドル部分を押すように動かしているように思いますが、軽めの自転車であれば引くこともあるようにも思います。

牛馬は押すものではなく引くものですから、それとの連想もありそうです。



【1040】
Re:自転車を「ころがす」
 Yeemar
 - 05/9/13(火) 20:16 -
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冒頭発言の歌集『含紅集』はだれの作か、このスレッドに記すのを忘れました。吉野秀雄です。

▼岡島昭浩さん:
>自転車に乗らずに、自転車と共に歩くことを、「自転車を押す」とも「自転車を引く」ともいう。


私は「自転車をころがす」と言います。

ところが、周囲に聞いてみると、「ころがす」というのは「のる」ということであって、「単車をころがす」といえば「単車に乗る」ということだそうです。

私が日本語を習ったのは主に母からですから、母に電話して確認してみますと、「自転車をころがす」というのは、自転車と共に歩くことであると、自信を持って言明していました。父は、自転車に乗ることであろうと言いました。父は香川県出身、母は埼玉県出身であります。



【1042】
Re:自転車を漕ぐ
 UEJ
 - 05/9/13(火) 23:05 -
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> 本来、「こぐ」は「漕ぐ」で舟を漕ぐものであっただろう。
> その海をまっすぐに進む様子から「雪を漕ぐ」用例が生まれたものだろうか。
> 「雪漕ぎ」といった名詞もある。


山用語で「藪漕ぎ(やぶこぎ)」というのもあります(広辞苑にも載っていた!)。
これなどまさに「藪の海を進む」という感じが出ている言葉ですね。



【1043】
Re:自転車を「ころがす」
 岡島昭浩
 - 05/9/15(木) 0:42 -
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▼Yeemarさん:
>ところが、周囲に聞いてみると、「ころがす」というのは「のる」ということであって、「単車をころがす」といえば「単車に乗る」ということだそうです。


「チャリンコ転がして行った」と、さだまさしが「木根川橋」で歌っていましたね。
これは、乗って行くのだろうと理解していました。

自転車はそれしか知りませんが、車ならあります。

『現代日本語用例集』に「車を転がす」があるようなのですが、行方不明。

新潮のCD-rom関係では、井上ひさし『下駄の上の卵』「院長なぞ東京まで車をころがしてたっぷり別れを惜しむことができたのだからまだいい。」、曾野綾子『太郎物語』「お父さんは、これから、うちまで車を転がして帰るという大事業が残ってる」

他に、
高樹のぶ子『百年の預言』 第172回 解かれる謎(32)「真賀木は女の指示どおりに、車を転がして来たのだ。」

宮部みゆき『我らが隣人の犯罪』文春文庫
p168 車を転がして遠出する

といったところ。

新明解の五版で、
〔広義では、自動車を運転することや、物事を ひとまず先へ進めることをも指す。例、「車を転がして来る/一転がし転がしておいて」〕
とあるんですね。



【1045】
Re:自転車を漕ぐ
 道浦俊彦
 - 05/9/15(木) 10:02 -
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関連ですが、以前「平成ことば事情1178」で、「自転車を押す・引く」と題して、こんなの書きました。
*************************************
新聞用語懇談会放送分科会でご一緒させていただいているS放送のIさんから質問のメールがきました。
「先日ローカルニュースで自転車の人がひき逃げされる事件がありました。その原稿で、『被害者は路側帯を、自転車を引いて歩いていたところ』という表現があったのですが、『自転車は「引く」ではなく「押す」ではないか?』という疑問が出ました。重さで判断して『オートバイは「押す」、自転車は「引く」』という人もいました。自転車の場合はどちらなんでしょうか?」
というものでした。ははあ、なるほど。私は個人的には「自転車を押す」ですね。「引く」とは言わないな。とりあえず、いつものようにインターネット検索のgoogleで調べました。
「自転車を押す」=759件
「自転車を引く」=  98件       (2003年5月13日調べ)
で、やはり私と同じ感覚の方の方が多いようです。7:1くらいで「押す」人の方が多いようです。
「自転車を引く」を使っている人を見てみると(全部ではないですが)、長野県、山梨県の人が使っているようです。もしかしたら方言かも?
NHK放送文化研究所の塩田さんにメールしたところ、
「個人的な感覚としては、上り坂でこげなくなった自転車には『押す』を使う気がする。『引く』は『押す』よりも、『力を込めて』というニュアンスがないように感じる。私としては『自転車を引く』は言わないと思う」
というメールが返ってきました。
他のもの、例えば、「大八車」は「引く」ですね。「手押し車」は、文字どおり「押す」です。そこから考えると、自転車のハンドルとその人の位置関係が問題になってくるのではないでしょうか。ハンドルより前にいれば「引く」、ハンドルより後ろにいれば「押す」。これでどうでしょうか?普通はハンドルより後ろにいるでしょうから、「押す」を使う人の方が多いのではないでしょうか。「引く」を使う人は、位置は関係なしに、「動力としての人」が、自分だけでは動かない自転車を「牽引」している、というふうに考えているのではないでしょうか。
皆さん、ご意見お待ちしていまーす!!
2003/5/18




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https://fbcdn-sphotos-d-a.akamaihd.net/hphotos-ak-prn2/1240146_733239186702283_908895490_n.jpg

富山で拾った「転がす」で、乗っていないものです。
表示できますかね。
Posted by 岡島昭浩 at 2013年09月11日 11:01
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