さて、ラジオでロシア語を習い始めて、もう2、3年になります。すぐ挫折し、しばらくたってやり直すという繰り返しです。
素人には、なかなか驚くことがいっぱいです。理由が分からないこともあります。それらを思いつく限り列挙しようと思います。堪能な方にとってはお笑い草ですが……
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・基本語が異様に長い
日本語では、「見る」「聞く」「言う」「話す」など、基本語は音節数が短いというのがふつうだと思います。上記の語は英語でも「look」「hear」「say」「talk」と1音節です。ところが、ロシア語ではそれぞれ「スマトリエーチ(смотреть)」「スルーシャチ(слушать)」「ガバリーチ(говорить)」、そして、「話す」に至っては「ラズガバーリバチ(разговаривать)」と、ずいぶん長くなります。それだけ聞くと、どんな難解な専門用語かと思います。これでは、日常の用を足すにも、ずいぶん口を動かさなければならず、不便ではないでしょうか。どこで帳尻を合わせているのでしょう。
・「п」(p)で始まる語が異様に多い
日本語の辞書は、「し」で始まることばが最も多いのではないかと思います(漢語に「し」「しゅう」「しょう」などで始まるものが多いから)。ロシア語の場合、「п」(p)で始まる語が異様に多く、『博友社ロシア語辞典』を横から見ると6ミリほどに達します。2位(?)の「с」(s)はせいぜい3.5ミリほど、他の文字は3ミリに達しません。前置詞の「по」(…を、…に沿って)がくっついたものが少なくないせいかと思いますが、それだけではないようです。
・むずかしい「че」「це」「те」の区別
「че」「це」は簡単で、それぞれ「チェ」「ツェ」という日本語で表しうると思います。前者は[t∫e]、後者は[tse]でしょう(正確には、それらの子音が口蓋化したものと思います)。
では、「те」は? 日本語の「テ」([te])ではなく、子音は[t]の口蓋化した音のようです。「те」は、耳で聞くと「チェ」のようにも「ツェ」のようにも聞こえます。「че」「це」と区別できません。
そもそも、口蓋化した[t]とは何でありましょうか。思うに、英語の「tea」というときの[t](ティーではなくチーのようになる、しかし決して[t∫i:]ではない音)ではないかと思い、今のところは、「tea」の子音を思い浮かべながら「т」を発音しています。
・子音1個からなる前置詞がある
語というのは母音が入っているものと思っていましたが、「с」(s)「в」(v)という子音だけの前置詞があります。接頭辞ではなく、単語です。「с」は「…と一緒に、…つきの」などの意、「в」は「…のなかへ、…のなかで」などの意。
たとえば、「сад(sat=サット)」(庭)に「с」をつけて「с садом(s sadom=ス サーダム)」(庭つきの)と言います。この場合、前置詞の「с」はほとんど聞こえず(というより「сад」の頭子音と合わさってしまう)、むしろ「庭」の語尾が「-ом」と変化している(造格になっている)ことで「ああ、前置詞сがついたのだな」と分かります。
格変化がはっきりしているので、前置詞はあまり聞こえなくてもよく、そこで「子音1個」という、か弱い前置詞ができたのでしょう。
・主語のない文がある
英語では考えられないことですが、主語のない文があります。たとえば、「私はマサオです」は、ロシア語では「私を 言います マサオと」(Меня зовут Масао.〔ミニャ ザブート マサオ〕)となります。「私を」は、この文の登場人物の中では一番重要ですが、主格ではなく対格です。
「ここから公園がよく見える」は、「ここから よく 見える 公園を」(Отсюда хорошо видно парк.〔アトシューダ ハラショー ヴィードナ パルク〕)で、「公園」は主格ではなく対格になります。日本語の「公園がよく見える」の「公園が」も、主格というよりは対格の性格をもっています。
このような性質は、ヨーロッパの他の言語にもあるでしょうか。