十一谷義三郎「仕立屋マリ子の半生」、井伏鱒二「本日休診」にあるとのことである。
これ以上の用例が無いので推察になるが、「縮尻」は、「縮シク」「尻シリ」という具合に、「しくじり」という連用形(名詞)に宛てられたものであろう。そしてそれを他の活用形にも及ぼしたのであろう。
「尻シリ」はよいとして、「縮シク」というのはどうなのだ、ということ。
まずシとシュは(ジとジュも)よく入替わる。子供の頃に「宿題」を「しくだい」と思っていた人は多いだろうし、「手術」なんて「シュジュツ」と発音されることは少ないだろう。逆にもともとジッポンだった「十本」がジュッポンになる。これはジュウに引かれた、ということもあるが、ジとジュが近いからこそ間違えるのだ。
このことはよく話題にもなるのだが、漢字音のシュク、宿縮粛叔祝蹙……、に関してはもうちょっと厄介なことがある。
ことば会議室〈「中」の字音〉で書いたことと関係あるのだが、この「宿」等の字は、「育菊畜肉陸」等と同じ韻の字である。「育……」は「イク・キク・チク・ニク・リク」と、iクの形なのに、「宿」等、サ行のものだけ「シュク」となるのだ。
そこで「これは変だ」と思った江戸の漢字音研究者の中で、これを「シク」と改訂してしまった人もいる。「シュク」の方が訛っている、と思ったのだろう。
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