「AのBの字もない」〈Aの存在の全面否定〉(Aは単語、BはAの最初の音節)をあげる。
ここで「最初の文字」でなく「最初の音節」としたのは、さすが新野氏である。新野氏はその証拠を挙げてはおられないが、
ティラミスのティの字も聞かん
という言い方を、1993.9の「逸見のその時何が」というテレビ番組の最終回で、上岡龍太郎がしていた事を記しておきたい。但し、より用心深く言うならば「音節」よりも「拍」か。「音節」であれば「コンビニのコンの字も」と解される恐れがあるから。
こういった枠組みの慣用句は確かに辞書に載せにくいし、電子データがあっても用例は捜しにくい。私も手元にこれ以上の用例は無い。
これと似た言い方というべきなのか、限定されない使い方、というべきなのかは難しいが、「AのB」〈Aのごく一部〉(Aは単語、BはAの最初のn音節(n=>1))というのがある。こちらの方が古いかもしれない。分かりやすい例を示せば、
エロキューションの「エ」程度の考慮(『国語文化講座』4(昭和16)p299)というのがある。やや古めの用例としては、小栗風葉『青春』(明治38)の「統一のト」というのがある。
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