先日書いた東海限定ビール「でらうま」に関して、新潟限定の「じょんのび」というのがあるという情報を頂いた(
地方ビール一覧もお教え下さいました。有難うございます)。この「じょんのび」、新潟の方言だと言うので調べてみる。
しかし
『日本国語大辞典』には載っていない。ここで慌てず
『全国方言辞典』を引く。載っている。「のんびり」とか「ゆったり」とか言うのであたりをつけて、
『分類方言辞典』を引く。すると「じゅんのび」が載っている。そこで
『日国大』で「じゅんのび」を引くと載っていて、訛りとして「じょんのび」が出てくるという次第である。
『日国大』の方針として、訛りの語形の一々を見出しに立てず、1つに纏めてそこに訛りとして掲げる、というのがある。平凡社の
『大辞典』が一々を掲げて見出し語数70万を誇るのに対し、
『日国大』では40万というのはこういうところに原因がある(その他
『大辞典』は漢字辞典をも兼ねさせようと漢字1字の見出しを多く持つこともあろう)。
さて、訛語を1つに纏める場合、標準語形があればそれに纏めればよいのだが、「じょんのび」「じゅんのび」「ずんのび」のように新潟・長野あたりの語形で東京語に無い場合、どれに纏めるのか。具体的には、何故「じゅんのび」に集めて、「ずんのび」「じょんのび」を訛形としたのであろうか。
まず、「じゅんのび」から「ずんのび」へも「じょんのび」へも変化したと考えることが出来る、というのがあろう。「ずんのび」や「じょんのび」を基本の形にした場合は「じゅんのび」を経由しないと他の語形に訛れないのである。
もう一つ考えたいのは、「じゅん」の音が「じょん」「ずん」に比して日本語の音として馴染んでいる、というのがあるかもしれない。標準語の中に〈拗音+ん〉というのは少ない。
きゃん、きゅん、きょん
ぎゃん、ぎゅん、ぎょん
しゃん、しゅん、しょん
じゃん、じゅん、じょん
ちゃん、ちゅん、ちょん
にゃん、にゅん、にょん
ひゃん、ひゅん、ひょん
びゃん、びゅん、びょん
ぴゃん、ぴゅん、ぴょん
みゃん、みゅん、みょん
りゃん、りゅん、りょん
以上の音を持つ語は少ない、ということである。漢語を含めてもそうで、西洋系や近代中国語系の外来語、また擬声語擬態語を除くと殆ど無いと言って良い。
しかしこのうち、「しゅん・じゅん」だけが例外で、ここには漢語が沢山ある(かわりに「すん・ずん」が少ない。
「寸すん」というのは例外的な音なのである)。
「じょん」「ずん」というのが標準語音らしからぬので「じゅん」を選んだのではないか、というのは考えすぎかな。「のび」は「のんびり」と関連のある語だろうから、「じゅん」にも意味があって欲しい、「じょん」「ずん」にはあまり意味がなさそうだ、ということもあるか。
小学館の『《日本》方言大辞典』があれば、上記の様に、『日国大』と『全国方言辞典』・『分類方言辞典』を交互に引くと言うような面倒なことはしなくてもよいのだが、自宅には置いていないのでこういう手順を踏まざるをえなかったのだ。
平凡社『大辞典』には、「じょんのび」「ずんのび」を載せ、「じゅんのび」が無いようだ。
《「じんのび」の形もある。佐渡などが載っているが、石川県能登でもいうという情報をメールで頂きました。》